第二百六十五話 『降東』攻略メンバー





◆◆株式会社『Clearstream』第三会議室:清水凶一郎



 


 

 遥。ソフィさん。会津。花音さん、そして俺。

 この五人が初めて顔を合わせる機会チャンスが出来たのは、皇都への出発を翌日に控えた十一月の暮れの事であった。


 学校行事に例えるのであれば、修学旅行の前日に初めて班のメンバーで集まって自己紹介やら役職ごとやら旅行先での活動方針を決めるが如き鈍足愚行スローテンポ


 界隈の常識に照らし合わせてみても、あるいは『天城』の時と比したところで、この初顔合わせは明かに遅い。


 ……いや、こうなっちまったのにはそれはもう深いワケがあるのよ。


 ぶっちゃけね、それどころじゃなかったのさ。

 何せ俺達の今回の旅の目的は、組織との決戦と『失楽園ルシファー』の攻略である。



 一作目の舞台である“桜花”を離れ、歴代シリーズの怪異脅威がひしめく“皇都”へ移る。

 その準備を、あの“悪魔”はたった一週間足らずの間にやれと仰ったのだ。



“いやー、悪いね清水君。だけど考えてもみてくれよ。聖夜決戦まで後一カ月もないんだ。その間に、『明王』ダンジョンクリアして、そこから諸々の会議やら裏工作まで勘定に入れると……ね、悪いけど私達にはあんまり時間がないんだ”



 全く、流石は元官僚といったところだ。

 おかげでこちらのスケジュール管理はタイトもタイト。旅立つ前から大忙しである。


 諸々の準備は勿論のこと、姉さんや花音さんのお母様といった万が一にでも狙われる可能性のあるメンバーの家族の同伴交渉――といってもこの辺は殆ど黄泉さんが“交渉”を受け持ってくれたのだが――ソフィさんのアイドル活動は、急遽数カ月分の“取り貯め”が行われる運びと相成り、清水家は連日“旅の準備”でてんやわんやというわけさ。



 とまぁそんなこんなでワチャワチャしている内に時間は矢のような早さで過ぎ去っていき、ようやく五人のスケジュールが合い揃ったのが本日十一月二十九日。


 場所は彩夏叔母さんの会社の一室をお借りしての顔合わせ会。


 角ばったテーブルとパイプ椅子。

 テーブルの上には、この日の為に準備した資料とペットボトル飲料が人数分に、少しお高い洋菓子の詰め合わせアソートボックスが二箱。


 旦那達のグループが郊外でバーベキューやっている裏でのが些か地味目であるという事は百も承知だが、そこは「よそはよそ」の精神である。


 魂が“陽の者”ではないこの俺にチビちゃんやハーロット陛下みたいなノリはそもそも無理な芸当だし、こっちは凶一郎クランマスター聖女アイドルと特に忙しいメンバーが揃い踏みなのだ。


 仮に今回の探索班を二つのバージョンとしてカテゴライズするのであれば、あっちは間違いなく赤系の熱血タイプであり、こっちは蒼が主体のクールタイプである。


 

 蒼バージョンのクールキャラ達の初顔合わせが、バーベキューでワイワイじゃ格好がつかないだろ? 窓のない会議室でカッコ良く一堂に会する。


 そう。まさにこのシチュエーションこそが至高にしてベスト。

 我が事ながら自分のセンスが恐ろしいZE☆



「というわけでまずは軽く自己紹介の方からやっていきましょうか。それじゃあまずは……」

「凶さんからで良いんじゃない?」

「……オーケー。それじゃあ僭越ながら今回こちらの班のリーダーを務めさせて頂きます、清水凶一郎です」


 俺は真面目純度百パーセントの自己紹介トークをペラペラと喋りながら、ここに集まった四人のメンバーを見渡した。



 チーム『降東こうとう』。

 今回のメンバーは――いや、今回もというべきだろうか――中々どうして癖が強い。


 まずは遥。俺の隣でうっとりとした表情を浮かべる最愛の人。


 『天城』と『降東』攻略の最大の違いは、ここにあると俺は思っている。


 遥はウチのエースだ。そして同時に俺の一番の支えでもある。


 『嫉妬』の攻略を経て、『レヴィアタン』と『布都御魂フツノミタマ』の二重契約者ダブルホルダーとなった今の恒星系に隙はない。


 二十四の複製トークンと四つの霊刀魔剣スタイルを状況に合わせて切り替えながら、嫉妬之女帝レヴィアタン全能力特性オールスペックを引き継いだ本体が至高の剣術で斬りかかる。


 そしてこれだけのぶっ壊れ能力を持ち合わせているにも関わらず、蒼乃遥は当たり前のように進化する。


 敵が強ければ強い程、状況が困難であればある程に

 その刃は切れ味を増し、強靭かつしなやかな輝きを得るのだ。


 実感するよ。

 絶対的エースが俺のチームに帰ってきたってな。

 難易度としては『天城』や『嫉妬』の上を行く筈なのに、不思議と「何とかなるさ」と胸がすく。


 ――――あぁ、本当に。

 今からお前と共に在る旅が楽しみで仕方ねぇよ。



「(……とはいえ、エース一人で全部が解決するわけじゃない)」



 こと戦闘面においては無双と言っていい強さを発揮する遥さんであるが、実はそれ以外の項目に関しては割と子猫ちゃんなのだ。



 良くも悪くも自己完結型である恒星系は、他者への回復や強化、弱体化及び状態異常等の妨害系スキルの類も持ち合わせておらず運搬役ナラカ探知役ユピテル密偵役のようなアシスト運用も不得手といっていい。



 だから今回のパーティー構成は、そんな遥さんの不得手な部分を二重三重に補う形で成り立たせた。



 まず花音さん。


 皆がラフな格好で顔合わせ会に参加している中、一人だけゴリゴリの装備で固めてやって来た事に現在進行形で赤面しているこの真面目さんは、『天城』の冒険を通して最も化けた才媛である。



 遥が万難を切り裂く“剣”であるのとは対照的に、花音さんの力は味方を守る“盾”であり“砦”だ。


 紆余曲折を経て、盾の女神の真の力を取り戻した今の花音さんは“烏合の王冠”に無くてはならない最強の“タンク”であり、バッファーだ。



 というかそもそもの話、俺は花音さんがいたから、

 


 無敵概念付与、継続霊力回復、神速肉体復元の三重奏からなる究極の防衛術式【英雄の守護者パラス・アイギス



 そして味方全員の能力を一時的に亜神級最上位スプレマシ―の領域まで引き上げる【勝利神の凱歌ニケ・グローリア



 この二つの聖歌ムーサと俺達のゲーム知識を組み合わせればおよそ亜神級最上位スプレマシ―同士の戦争で負ける事はまずないだろう。



 『天城』決戦の最終盤よろしく、アテナの“全軍英雄化”は百人だろうが千人だろうが一万人だろうが問題なく機能する。


 加えて今の花音さんには、あの時にはなかった最終奥義があるのだからそりゃあもう……



「(……いや、本当。よくぞここまで育ってくれたというか)」



 非戦闘組は<天城オリュンポス>に匿えばいいし、運搬役の適正はこの間の調印式での活躍を見れば一目瞭然。



 自己強化、他者強化、回復、運搬を超高水準でこなせるスーパーユーティリティープレイヤー。オールラウンダーとしての強さは、今やクラン全体でみても黒騎士に次ぐレベルと言っていい。



 これだけでも十分すぎる程揃ってはいるのだが……



「(今回は更にジョーカーまで控えている)」



 向かって斜め右の席に彼女はいた。


 ソーフィア・ヴィーケンリード。

 現在人気急上昇中のインフルエンサーであり、一度の祈祷で万能快癒薬レベルの「治癒の奇跡」を起こす癒し手の少女。


 しかしてその実態は、四作目から六作目アインソフシリーズのラスボスを務める救世主その人であり、ウチに在籍するボスキャラ達の中で最も無害で、最も無敵な“シンなる聖”



 彼女を採用した理由の一つには、無論の事ながら優秀な“癒し手ヒーラー”としての側面がある。


 『嫉妬』での戦いを乗り越えた今のソフィさんの治癒能力は、今や万能快癒薬エリクサー相当の効能があるらしい。


 これだけでも驚嘆に値するレベルなのだが、ソフィさんの治癒能力は使い捨ての万能快癒薬エリクサーとは異なり何度だって活用可能だ。


 更にありがたい事にレヴィアタン戦での激闘を通して、彼女強化バフ系の奇跡スキルまで覚えたという事で、こりゃあもう入れるしかないと思ったわけよ。



 これがソフィさんを採用した二番目の理由。


 一番目の理由に関しては言うまでもない。

 ……いやそんな格好つけた物言いはよそう。


 ソーフィア・ヴィーケンリードは、あらゆる運命に愛されている。

 そしてその運命力を巧く活用することで、味方こちら側への圧倒的な幸運と、あちら側への災害的な不運を振り撒けるのだ。




 レヴィアタン戦での決め手は、レヴィアちゃんが花音さんに変身した失敗ミスにあったと黒騎士は言う。


 レヴィアちゃんも「あれはやらかしたのぅ」とボヤいていた。


 それは確かに事実であり、現実だったのだろう。


 だが、ダンマギプレイヤーであれば確実に、「そこにソーフィア・ヴィーケンリード」がいたという真実に意味を見出す。



 つまり俺は、「何が起こるか分からないが、こちら側にとんでもなく有利な要素を運ぶ幸運のお守り」として聖女をお招きしたのだ。


 目には目を。歯には歯を。

 当たり前のように原作未登場の覚醒形態を披露してくるクソッタレな最終階層守護者共には、それ以上の理不尽をもってぶん殴る。


 単一戦闘能力の極致である遥。

 無敵万能全軍英雄化の全てを兼ね備えた花音さん。

 そして運命という本来であれば見る事も触る事も出来ない最強の不確定要素を制する事が出来るソフィさん。



 自分でもちょっと引くぐらいガチガチな編成だが、しかし今回俺がここまでの布陣を組み敷いたのには理由がある。



 パーティー選抜会議における最初の選択――――いや、もっと前だ。黄泉さんから聖夜決戦の話を持ちかけられた時点で、俺には一つの可能性を考慮に入れる義務があった。



「(今回の探索における敵は、最終階層守護者だけに留まらない可能性がある)」



 会津。会津・ジャシィーヴィル。組織におけるコードネームは『逆理』であり、七作目で敵として出てきた時のエージェントナンバーは『博愛ゼロ

 


 今俺の正面に座るこの長髪の美青年の立ち位置は、獅子身中の虫……要するにスパイである。

 俺は今回の探索中に彼を――美少女と見紛う程に整った顔立ちをした精霊眼アルカナの持ち主を――こちら側に寝返らせなければならない。


 『降東』の「攻略」と会津の“攻略”。


 達成困難なこの二つのミッションを何の問題もなくこなせればそれにこしたことはないのだが、何と言っても会津は組織のエージェントである。考えたくもないが、事と次第によっては“十三道徳”や“カルネアデス”クラスの化け物が呼びこまれる可能性だってあるだろう。



「というわけで、よろしくお願いします会津さん」

「クランマスターが僕のような下っ端にかしこまる必要なんてありません。気兼ねなくフランクに接してください」

「わかった。……じゃあ、よろしくな。会津・ジャシィーヴィル」

「こちらこそよしなに。清水凶一郎さん」



 互いに張りついた笑顔で握手を交わす。


 かくして化かし合いシーソーゲームの火蓋は、しめやかに落されたのである。



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・次回更新は、クリスマスイブでございます!サンタさんが来る前に更新するわよ!

♪(o・ω・)ノ))

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