第二百六十四話 虚無の博愛主義者
◆◆◆定期報告レポート/皇歴1190年11月28日/エージェント『逆理』
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蒼乃遥
・特別警戒対象その3
・出生日:皇歴1175年4月22日
・血液型:AB
・全長:158センチ
・職業:学生兼冒険者※1
・戦術体系:『
・
・精霊能力:装備状態にある刀剣類の複製及び遠隔操作・
・使用武装:『蒼穹』、<龍哭>、<一天四海>、『invidia』※3
・特記事項:規格外の武器術、規格外の身体性、規格外の適応能力、接続者※4
・圧力点:清水凶一郎
・概要
冒険者クラン“
性格は一見すると好奇心旺盛な武術家思考の持ち主に思えるが、その本質は極めて恋愛依存的かつ嫉妬深い※5。
パートナーである清水凶一郎とは相思相愛の関係にあるが、常に彼を他者に取られる可能性に怯えている。中でも同クラン所属の空樹花音に対する警戒心は常軌を逸しており、これは「対象の潜在意識を
この事から清水凶一郎ないし空樹花音を使った“揺さぶり”は、一定の効果が期待できるものの、所感としては薦めない。
対象の圧力点への刺激は、“十三道徳”の連中が持つ各々の
現に直径四百キロメートルの怪物が、たった一度の「
刃渡り数十センチの刀剣が『無敵』の概念を纏った概算数十キロメートルにも及ぶ“女帝”の蛇腹を切り裂き、一瞬ながらも秒速二百キロメートルの速度で駆動した対象の脅威度は、武闘派の頂点に立つ“彼等”と比した上でもなんら遜色はない。
よって対象との戦闘の際に求められる基本的な立ち回りは、蒼乃遥の圧力点を刺激しない事だと類推する。
彼女は接続者であり、その深度は間違いなくアルテマの領域に達していると思われるが出力の行使にはムラがある。
実際「刺激される」前の彼女は、レヴィアタンを相手に善戦こそ出来ていたものの、明確な決定打を与えるには能わず、結果として絶海零度の戦闘は十六時間以上にも及んだ。
『
しかしこれらの類稀なる戦力を正しく理解した上で尚、正面突破こそが最適解であると結論付けざるを得ない。
『
よって彼女の圧力点である清水凶一郎への加虐及び拉致監禁は、一定の“揺さぶり”効果こそ認められるものの、レヴィアタンの犯した失敗のように、対象を最高到達点へと導く不用意な
また、現在の彼女はレヴィアタンを有している為、三次元的な攻撃及び概念を用いた搦め手は殆ど意味を為さない。
仮に彼女への対策チームを立てるのであれば、別の属性を持つ“十三道徳”あるいは、“カルネアデス”を用いる事を推奨する。
※1 現在は学校公認で“有給”習得中である。卒業後は、いずれかの高等教育学校に籍を置く模様。
※2 武器術を主軸とした立ち回りを基本とするが、武装の換装と『
※3 熱エネルギー及び霊魂破断特性を持つ『蒼穹』、邪龍の膂力及び疑似的な『龍鱗』の加護を付与する<龍哭>、レヴィアタンの天啓である<一天四海>及び『嫉妬』の完全踏破報酬である『invidia』については詳細不明。ただし両者は共に『刀剣』である。
※4 到達深度はアルテマ級。主以外の『管理者』のいずれかと契約を結んだ可能性については特定できず。
※5 『嫉妬』探索の最終局面において、対象は清水凶一郎の写真がプリントアウトされた抱き枕を「凶さん」と呼び始め、食卓や風呂を供にしていた。これに限らず、対象は清水凶一郎関連の奇行が非常に目立つ。
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ソーフィア・ヴィーケンリード
・最重要警戒対象【削除】、最重要警戒対象【削除】、最重要警戒対象【削除】、最重要警戒対象【削除】、・最重要警戒対象【削除】、最重要警戒対象【削除】、最重要警戒対象【削除】、最重要警戒対象【削除】、最重要警戒対象【削除】、最重要警戒対象【削除】
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◆◆◆ダンジョン都市・桜花:『妨害手』:会津・ジャシィーヴィル(組織穏健派所属・コードネーム『逆理』)
十度にも及ぶ書き起こしと削除の円環の末、エージェント『逆理』は、彼女についての項目を抹消する事を決意した。
エージェントとしての直感は今もなお、あの“癒し手”が危険であると告げている。
しかし事実、逆理の観測する範囲におけるソーフィア・ヴィーケンリードという少女は至って普通の――そう、どこにでもいるありふれた凡人だ。
高々、数千万規模のフォロワーを持つインフルエンサーであり、欠損した手脚を祈祷一つで生え変わらせる程度の癒し手であり、少しでも気を緩めればその身を預けたくなる欲求にかられる位の親しみやすさ。
何ら害はない。
害もなければ、特筆すべき点もない。
……何故彼女をわざわざ報告書に記そう等と思っていたのだろうか。
「(――――いや、あれは危険だ)」
だがエージェントとしての経験が、数多の認識災害と相対した者だけが持ち得る「動物的直観」が、あの凡庸な少女こそが最も恐ろしい脅威であると警鐘を鳴らすのだ。
しかしこの直感さえも、現実として具現化――例えば「彼女は有害である」と記録媒体に記す、あるいは「拉致監禁等の計画を企てる」等の――した瞬間に露となって消え去るのだ。
現状において、エージェント逆理が唯一できる抵抗手段は、「何もしない事」、それのみである。
――――無害で凡庸な相手に対して、本来であれば“抵抗”等と言う言葉が出て来る事こそがおかしいのだが、エージェント逆理は知っている。
「(何もしなければ、あれも無闇には襲って来まい)」
そう。要は何もしなければ良いのだ。没干渉を徹底し、この漠然としたわだかまりを保ち続ける。
“家族”以外の全てに対して「どうでもいい」と無関心を貫く事が出来る彼だからこそ、為せる
◆
つかず離れず、染まらずこだわらず。
彼にとって施設の家族以外は全て他人であり、だからこそ装う事ができた。
“真の博愛主義者というのは、きっと君みたいな人の事を言うんだろうねぇ”
かつて『慈愛』の“道徳”が彼に向けて放った言葉は概ね正しい。
誰も彼もを平等に愛するという事は、即ち誰も愛していないという事だ。
エージェント逆理にとって、家族以外の他者の存在はおしなべて平等にどうでもいい。
たとえ“烏合の王冠”の誰かが死のうと、“穏健派”と“武闘派”のいずれかが滅び去ろうと、彼にとっては他人事だ。
本音を言えば
もっと言えば自分の命すらもどうでもいい。
今稼ぐか、殉職金で施設に貢献できるのか――――たったそれだけの違いである。
自分が死んだ後の段取りは既に家族に伝えてあった。
だからエージェント逆理はいつ死んだっていいし、死ななくてもいい。
生きていた方が多少家族の助けになれるだろうから、彼は生きている。
施設とそこで暮らす家族達だけが“特別”であり、後の全ては己も含めて価値がない。
だから平等に、無関心であるが故に博愛性をもって、彼は他人との関係を構築できる。
――――
淡々と、粛々と、定められた運命のレールを辿るかのように、彼は与えられた職務を全うするだけなのだ。
要注意人物リストの生成。“烏合の王冠”の次の目的。欠片の収集状況。
戦力、人間関係、秘密裏に得た情報の数々。
その全てを、余すところなくレポートに纏めて発信する。
複数の海外サーバーを経由し、特殊な術式とゾンビボットを交えて改竄されたその「ありふれたスパムメール」は、三十六時間周期で変わるパスコードと、組織の人間だけが持つ“数的秘術”を組み合わせることで初めて「真実の姿」を現わす。
無数にある伝達手段の中で、逆理が電子メールを選んだその最たる理由は、偏に
例えば屋外での受け渡し。
あるいは動物を介した古典的手段。
いずれも、あの少女と直接出くわす可能性がある。
そして一度でも取引の現場をアレに見られれば最後、全てが終わるだろうという予感が逆理にはあった。
確証の全くない見えざる脅威に対して、ここまでの“措置”を行える人間は、またといない。
そして彼の選択は、この上なく正しかった。
彼はその日、ソーフィア・ヴィーケンリードと出会う事はなかった。
それが全てだ。
全てなのだ。
かくして運命の転輪は、皇都へ向けて走り出す。
決戦の火蓋は、聖夜の決戦に先んじて落とされる。
そして彼の導き出したこのたった一つの選択が、やがて五柱の眷族神による超神代理闘争に繋がるという事をまだ誰も知らない。
しかし、その前に――――
「……?」
タブレット端末のメイン画面に、受信通知が灯った。
差出人は、清水凶一郎。
その内容は、
『会津様
お世話になっております、清水です。
明日、『降東』攻略メンバーの初顔合わせを行いたいなと思っているのですが、ご都合の方はいかがでしょうか? 二日後の出発に向けてお忙しいかとは思いますが、会津さんとは是非一度お話したいなと思っております! 時間の方はこちらで合わせますので、何卒検討の程よろしくお願い致します』
「…………」
逡巡の末、会津は快諾の返事を送り返した。
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・覚醒タイプ
・存在昇華型:いわゆるサ○ヤ人タイプ。主にステータスが上がる。レベルが上がって物理で解決するタイプともいう。力こそパワー系。
主な該当者:遥さん、邪龍おじさん
・創造変生型:いわゆる遊○王タイプ。状況を打開するスキルや戦法を新たに想像したり、スキルの持続時間が延びたりする。
主な該当者:ゴリラ、ナラカ様、ユピテル、O,D、花音
他にも色々とタイプがありますが、それはまたいずれー!
・会津:現時点で出てきた超神以外のネームドキャラで、1番聖女に抗えてる人。結果論とはいえ、探偵でも出来なかった事をさらりとやってのけてる。
次回更新は来週日曜日です! お楽しみに!
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