第二百六十三話 アルビオン流プロパガンダ



次ラノ記念更神祭り、第二夜! 行くだわよ!




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◆アルビオンの内的宇宙・429号室




 ダンマギにおける“組織”の役割は、基本的に“謎の第三勢力”という形で一貫している。


 主人公陣営でもヴィラン陣営でもなく、両者とは別の目的の下、シナリオを引っかき回す謎の秘密結社。


 局面によっては主人公達に組みする場合もあるし、逆にヴィラン側と協力して主人公達を追い詰める展開もままにある。そしてこの協力と敵対の関係性は、シナリオによっては



 例えば無印。


 グランドルートのユピテル戦において、プレイヤー側に「シナリオ上では明かされないが、実は後のシリーズで組織のエージェントであるという事が発覚したキャラ」をパーティーメンバーに入れておけば、組織VS組織という絵面が成立する。



 これはゲームのユピテルが敵も味方も無差別に襲うバーサーカーであるという“設定”と、組織には二つの派閥があるという“設定”がぶつかり合ったが故に生じた“衝突”だ。



 “武闘派”と“穏健派”――――無数の次元ダンジョンに散らばったある超神の欠片ミイラの収集と復元こそが奴等の活動理念であり、そして収集の果てに訪れるとされている「“主”の復活と世界救済」という最終目的についても、両派閥の思想は一貫している。



 では、何が違うのか。


 それは“欠片”を集める手段に対するスタンスである。



 “穏健派”の連中は、“欠片”を社会の影に隠れながら集める。“冒険者”として大手クランにエージェントを派遣する事もあれば、世界各地に張り巡らされた“ネットワーク”を駆使して、“欠片”を買い取る事もある。


 ゲームにおいて、本来換金アイテムとしての用途しか持たない謎の木乃伊ミイラを、最終覚醒やら、コミュニケーションイベントの終盤で求めて来るようなキャラがいれば、そいつは十中八九、組織の

“穏健派”であるという考察が為される程に、奴等はありとあらゆる場所に溶け込んでいる。



 勿論、時と場合によっては非合法な手段を辞さない側面も持ち合わせてはいるものの、こちらの派閥は余程の事がない限り、テロ活動を行わない。


 やむを得ず「殺し」を使うとしても、暗殺や謀殺という影に隠れたやり方が主であり、間違っても「“欠片”一つの為に都市を滅ぼす」なんて馬鹿な事はやらかさない。


 社会に隠れ、粛々と任務をこなす。目立って暴れて犯罪者認定なんかされても良い事なんてまるでない。


 だから“穏健派”。悪の秘密結社に良いもクソもないが、少なくとも交渉の余地があるという一点において、彼等は社会的だ。



 そして一方の“武闘派”。

 こちらは文字通り「話にならない」。



 彼等は息を吸うように人を殺し、街を壊し、国相手にすら盾をつく。

 “主”の尊体に何故、金銭を払う必要がある? 待つ? 交渉? 一体何の冗談だ?

 奪えばいいだろう、力づくで。

 殺めればいいだろう、抗うならば。



 彼等は笑いながら、社会を敵に回す。

 獣のように人理を侵し、毒虫のように害を振り撒く。


 破壊。虐殺。あまりにも身勝手なテロル。


 “欠片”の回収なんて建前に過ぎない。奴等の根本的な考えは、こうだ。



 ――――“欠片”を集めさえすれば、何をヤッても赦される。



 こんな考え方と暴れ方をする奴等だから当然、“穏健派”の連中とは相容れない。


 というか普通に考えれば“武闘派”のような社会の敵は、早々に組織から排斥されて然るべき「癌」である。


 しかし彼等は、これから数十年先の未来において尚、一つの組織として在り続ける。


 何故か?


 それは、彼等の“主”が望んでいるからだ。


 “導師”と呼ばれる存在がいる。


 こいつは組織の実質的なトップであり、ざっくばらんに言っちまえば代々の“器”に“主”の意識が宿った化物だ。


 そいつが二つの宗派の共存を許し、“社会の影”と“社会の敵”が力を合わせて自分の欠片パーツを集めるように命じている。


 

 だから例え互いが互いを認めずとも、“武闘派”と“穏健派”は一つの“組織”なのだ。

 だって他ならぬ“主”が“導師”の身体を借りてそうお命じなさっているのだから。


 

 “導師”という絶対的盟主を頂点とし、“武闘派”と“穏健派”という二つの宗派が並列する団体――――これが俺達が聖夜決戦で相手取らなければならない敵のあらましだ。



 この組織、正しくは組織の武闘派は概して五つの階級と十三の部隊に分かれている。



 まず最下層の“獣”、これは言ってしまえば下っ端戦闘員だ。実験の“失敗作”や持ち帰った犠牲者の■■を材料として作られる量産化された人間の成れの果て。知性や悟性のようなものはほとんどなく、一体一体の戦闘能力もそれほどでもないが、こいつらは兎に角数が多く、また人倫を無視したカスタマイズ体も無数にいる為、単純な個体能力では測れない脅威性を持つ。


 その次に位置するのが“兵士”、この階層の人間は一応ヒトとして扱われる。大体の“スカウト組”はここからスタートし、やがて「上」か「兵士」か「死」の三つに分けられる。


 “社会の敵”として、数多の血を浴び、一定の戦果を挙げた行き着く先が“隊長”だ。

 ここに原作のユピテルや、時亀さんが分類される。

 

 この辺りになって来ると基本的にネームドキャラないしボスキャラとして描かれる事が多く、一人一人が抜きんでた特殊能力持ちとして主人公達の前に立ち塞がるのがダンマギの「お約束」の一つである。


 そしてその隊長職を見事にこなし、過酷な内部抗争を経た実務部隊のトップこそが“幹部”である。


 “幹部”クラスは、単純な戦闘能力だけで辿りつけるものではない。

 部下を纏め上げる組織力、テロを華々しく実現させる為の計画性。原作ユピテルのような狂戦士や、時亀さんのような現場に出てナンボな社畜では辿り着く事ができない悪の華エリートこそが“幹部”であり、ここに至ったロクデナシは、満場一致で最悪の犯罪者である。



 だが彼等は部隊を纏め上げるものであっても、その象徴ではない。


  

 “武闘派”の頂点、十三の部隊のシンボルとなる者。


 十三の“徳”の名を授かりし彼等こそが呼んで字の如くの“十三道徳”。


 彼等が彼等たらしめる所以は、純粋なる力の総量と犯したの重さ。


 “導師”に認められ、不老の身を得たこの化物達は、いつか滅ぶその時まで思うがままにを為す。



 この“十三道徳”こそが、聖夜決戦における最大の敵であり、黄泉さんの目的そのものだ。実際、九作目において当代の“十三道徳”を主人公達が打ち倒した事で組織“武闘派”は実質的な壊滅状態に陥っている。



 だから“十三道徳”を聖夜決戦で可能な限り打ち倒すという黄泉さんのプランは、その目論見自体は俺も正しいと思う。



 しかし問題は――――




「俺達は、当代の“十三道徳”を知らない」

 


 今回の聖夜決戦の元となるイベントである第二皇女暗殺事件、通称<聖夜の惨劇ロストイブ>は、



 分かっている事は、「何故か当代の“十三道徳”が集った」という事と、「皇女様を含めた大勢の人間が死んだ」という事だけだ。



 <聖夜の惨劇ロストイブ>は、シリーズを通してみてもかなり謎の多い事件である。


 “武闘派”の求める「超神の欠片」は、確かにあった。

 後の歴史で彼等が語るには、“十三道徳”が集うに足る程の大量の欠片がその日惨劇の舞台に


 だがそれは一体、どうして? 誰が? 何の為に?


 三作目が大炎上したせいで当時の総括プロデューサーが表舞台を去らなければならなくなった事も相まり、この辺りのイベントに関しては謎も多い。


 だから本心を言えばこの辺りの事情をもっと調べて回りたいところなのだが、いかんせん今の俺には「世界の真実」とやら目を向ける時間も暇もない。


 故に目を向けるべきは――――



「いいよ、ヒーロー。俺が知る限りの奴等の情報を教えよう」

 



 時亀さんは、予想していたよりもはるかに協力的だった。


 一を聞いたら十まで教えてくれるとでも言えばいいのかな、もう濁流のような勢いで古巣の情報を吐き出してくれんのよ。



「あんなクソ組織、滅んじまえばいいのさ!」



 それはきっとこき使われた者の恨みだったのだろう。元エージェントが邪神の事を「女神様」と敬う理由もどうやらここにあるらしい。



「女神様は、死ぬ事すらできない俺を救ってくれたんだ。今の俺には恐ろしいノルマも、ノリで六十四分割に切り刻んでくる上司もいない」


 永遠にブラック企業の社畜を強いられる運命にあった男が(原作では、この何年か後に導師の「厚意」で時亀は不老の身になるのだ)、ある日であった女の計らいでニートになれた。

 字面にすると大分酷いが、それはきっと彼にとって救いとなったのだろう。


愛猫グラードと日がな一日ゆっくり過ごして、最近ではクロちゃんという気の良い友達まで出来た」

「o(^o^)o」


 黒猫が居心地良さげに「にゃぁっ」と鳴き、元偽神クロちゃんがとてもご機嫌なアスキーアートをタブレット端末に表示する。


 何とも混然とした空間ではあるものの、これがきっと彼にとっての幸せなのだろう。


 ――――原作における彼の末路を知る身としては、少しだけ込み上げてくるものがあった。



「それに何より、こうして憧れのヒーローに会う事が出来たんだ。そりゃあもう、何だってするさ。全力で協力するよ」

「その……さっきから気になってたんですけど、なんで俺がヒーローなんですか?」

「あぁ、それね」


 活力に満ちた瞳を輝かせながら、時亀さんが指差した先には大型のテレビがあった。




「ここは飯も上手いし、酒も飲めるし、煙草も吸えるんだけど、いかんせん“受動的に楽しめる娯楽”が少なくてね」


 元エージェントの猿顔イケメンが華麗な手つきでリモコンを起動し、黒色の画面が彩りを放つ。

 そこには――――



「その中で、唯一といってもいい“物語”が君なんだ」




 そこには俺と遥が激しく互いを求め合う姿があった。

 互いに探索用の装備を纏い、紫黒の大地で求め合う二人の男女。


 状況を鑑みるに恐らくそれは、ザッハーク戦で結ばれた時のシーンだろう。


 全身が恥ずかしさで沸騰を始める。隣の遥さんも林檎のように真っ赤っかだ。



「あの、時亀さん……。こ、これは」

「プライバシーの侵害だよっ! 一刻も早くアルちゃんとっちめなきゃ!」

「いや、すまんすまんっ! このはーたんの告白からの流れ全般が特に好きでさ、つい何度も見ちまってて」



 「ふしゃーっ!」と我を忘れながら威嚇をかます蒼い猫ちゃんを何とか宥めながら、俺は状況の整理に努めた。



 ……うん、なるほどね。

 多分これはアレだ。邪神がここの住人用の娯楽として、これまでの俺の記録を映像作品として流していたパターンだ。


 大方、今みたいな局面を迎えた時用のプロバガンダとしての役割もあったのだろう。

 時亀さんにとって俺は唯一見れる娯楽番組のヒーローで、そのヒーローが自分の元を訪ねてくれた。



「(そりゃあ協力的にもなるわなぁ)」



 どうして超神というのは揃いも揃ってアレなのだろうか。

 自分の好みの「物語」を盛り上げる為にボス戦をクソゲー化する奴。

 勝利至上主義を拗らせて、クーデターだろうがテロリストだろうが喜んで容認する奴。

 そして自分を“主”と崇める奴等をおもちゃにして遊ぶ詐欺師に、おまけにウチの邪神様である。



「まぁ、何となく事情は分かりました」



 混沌の嵐が吹き荒れかけた429号室の空気を無理やり咳払いで纏め上げる。



「それじゃあ時亀さん、話の続きを」

「あぁ、分かった!」



 内心、邪神にぷんぷんしたい気持ちでいっぱいであったが、今は一応聴取の最中である。

 俺は愛するはーたんの黒髪をわしゃわしゃと撫でまわす事で気持ちを落ち着かせながら、時亀さんに問うた。



「“六波羅蜜真神級組”については、分かりましたので、次は、“七元徳”の方をお聞きしても?」

「あぁ、勿論」



 “六波羅蜜ろくはらみつ”と“七元徳しちげんとく”、真神級と準真神級以下を区切る“十三道徳”内の枠組みだ。




 この内、“六波羅蜜ろくはらみつ”は全員俺の知るメンバーだった。

 さもありなん。奴等はいずれも真神級保持者で、おまけに不老である。ダンマギの設定でもここのメンバーは百年単位で切り変わっていなかったそうだから、少し安心した。


 しかし――――、



「“七元徳”でまず気をつけなければならないのは、『ポリコレ』だ」



 その下に位置する“七元徳”の中には、当たり前のように俺の知らない名前があった。




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・遥さんチャンネル:時の女神の眷族神である遥さんの映像記録が見れるチャンネル。後でバレた時に備えて邪神が最大限プライバシーに配慮している為、エッチなシーンは軒並みカットされている。『嫉妬編』が全編見られるのは、ここだけだ!


・ゴリ筋TVエブリデイ:ゴリラのこれまでの活躍が見られるチャンネル。こっちは特に邪神がプライバシーを気にしてないので、遥さんとイチャイチャするシーン以外は全部見れる(お風呂シーンも見れる!)。

 基本的には「チュートリアル~」+カットされたゴリラの日常シーン等が見られるが、『天城編』のような視点の多い作品は、ゴリラ視点オンリーなのでちょっと分かりにくい。




 














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