第二百五十九話 第二回パーティーメンバー選抜会議2
◆パーティーメンバー選定のセオリー
“攻略組”と呼ばれるクランがあるダンジョンへ挑むとする。
クランメンバーは総勢二十五名。
その内天啓持ちは七割程で基本的な役割は揃っており、上位メンバーは皆近接系の純粋物理アタッカーで天啓も潔い程の『武器型』、ついでに中規模クラスのシミュレーションバトル大会で何度か優勝経験アリという設定を付随しよう。
対する攻略ダンジョンの
ボスフロアへの入場制限は五人。
基本フィールドは岩山。平均規模は高度三百メートルの、総面積六キロ平方メートル。
中ボスの系統は悪魔系で統一されていて、ボスの
さてこの場合、一体彼等はどのようなパーティーを構築するべきなのだろう?
戦闘力上位五名でパーティーを組む? ――――残念ながらそりゃ一番やっちゃダメなタイプの
件のクランの上位層は皆、近接系。武器や肉体で直接敵を叩くのが仕事な、つまり『常闇』攻略前の俺が五人いるようなものである。
遠距離攻撃手段は持たず、天啓も『武器型』という清々しいまでの
戦闘の要となる『
回復や妨害で盤面を整える『
そして、パーティーメンバーの移動を効率的に進める『
どのようなダンジョンを攻略するにせよ、最低限この三要素を抑えておいて損はない。
そしてこの三要素の重要性は、
敵を倒す為には強力な火力が必要であり、
相手が強ければ必然的に回復役の需要が高まって、
徒歩では到底越えられない人外魔境を破る為には、優れた移動手段が欠かせない。
ここに近接と遠距離の
まぁ、要するに。
◆古錆びた社・境内
「ハーロットを所望する」
黒騎士の一順目は、想像していた通りのものだった。
旦那のパーティーの最たる利点は、リーダーである黒騎士が三つの
火力の高さは言わずもがな、白兵戦、殲滅戦、制圧戦のどれもを一人でこなす事ができ、回復妨害支援も多様な天啓で賄う事が出来る。
おまけに移動手段を二つ持ち合わせており、『常闇』程度の広さであれば“空飛ぶ馬車”、キツい条件こそあれど真神級ダンジョンならば間違いなく機能を果たすであろう件の“宇宙艦隊”
スーパーユーティリティープレイヤーとはまさにこの事だ。
旦那一人で
全くもって羨ましい限りだ。
……しかしハーロット陛下か。
「どうしたリーダー」
「いや、別に大した事じゃないんだ。ただ」
首を横に振りながら、黒騎士の問いに答える。
脳裏に浮かび上がるのは豪快に笑うあ彼女の尊顔。
ハーロット・モナーク。
この世界に住む吸血鬼の真祖であり、
本当に大した事じゃないのだ。
黒騎士の選択に異議を唱えるつもりなんてまるでない。
……ただ、
「また、一緒になれなかったなぁって」
瞬間、真正面の猫ちゃんがシャーッと鳴いた。
やっべ。
「あ、いや。別に変な意味じゃないんだ。何ていうか普通にクランマスターとして彼女と関わる機会がなくて残念だなって思っただけで、俺が好きなのは今も昔もはーたんだけで……」
「にゃぁっ♪」
「マスター、空樹さん。火荊さん。ソフィさん。ハーロット。これが最強パーティーだと思います」
境内が混沌を極める中、黒騎士だけは冷静に機械仕掛けのセンサーアイを点滅させながら、
「アレは持て余すぞ」
「だよなぁ」
ハーロット陛下は確かに強い。単純な戦闘能力は言うまでもなく
「本気は出さん。気分で動く。こちらが綿密に考えた戦術を『つまらん』の一言で蹴り飛ばす」
「強すぎて言う事聞かない系のキャラって事ですよね」
「デジタルゲーム風に例えるならばそうなるな」
そう。
ハーロット陛下は強い。
あまりにも強すぎるのだ。
そして彼女と引き分けられる程の力を持つ黒騎士ですら「持て余す」と評したハーロット陛下の事を今の俺が使いこなせるのかと言われればかなり厳しい。
『エース』として見るならば、いつだって俺の期待の百パーセント上を越えてくれる恒星系の方が安定するし、何よりも遥がいると俺のメンタル面が鋼質化するので、やっぱりこれで良いのだ。
「ハーロット陛下はもう少し俺が強くなってから改めて挑戦するよ」
「了解した」
邪神がウダウダ何か言っていたが、特に中身のある内容ではなかったので華麗にスルーし、俺達は二順目へと移った。
「(
今の遥は『常闇』の頃とは比較にならない程の射程を持っている。
そしてそもそも俺自身が「単体攻撃クソ雑魚野郎」の欠点を克服したのだ。
だから急いで
寧ろ、
「ソフィさんを貰えないかな」
遥が喜び、何故か邪神がガッツポーズを決める。
「ダンジョンとボスのスペックを考えると今回はどうしても回復役が欲しい。……『西威』のギミックを考慮するならそっちに回した方がいい気もするけど」
「――――いや、問題ない」
あっさりと黒騎士がソフィさんを譲ってくれた事に若干の違和感を覚えつつも、俺は「ありがとう」と感謝の言葉を伝えた。
「代わりにと言っては何だが、次の手番を二枠分貰いたい」
そして違和感はすぐに「ほら来た」という形で解消されていく。
「チビ助と虚を」
かなりアグレッシブなパーティー構成だな、というのが第一印象。
旦那というオールラウンダーを除けば、言う事を聞かないハーロット陛下は『特殊枠』、チビちゃんは当然ながら『火力役』、虚は妨害もこなせるから『火力役兼妨害型支援役』と、攻めに重きを置いたメンバーばかりである。
「どうして二人を?」
「リーダーが
初耳である。
そして買いかぶりでもあった。
アレは俺の想定していたコンボではない。
俺の知らないところで勝手にコラボが発生してコンビが出来上がっていたのだ。
「よもや奴が“神獣相”を開くとはな。――――本当にどのような手管を使ったんだ、リーダー?」
「だから何度も言ってる通り、虚がユピテルに懐いてるだけなんだって」
「
「意見が合うね。俺もまったく同じ気持ちだよ」
しかし、どれだけ俺達が「信じられない」と騒いだところで真実は変わらない。
虚はユピテルの言う事ならばなんでも聞く。
ゲーム時代にあれほど出し渋っていた白虎化も、チビちゃんが「もふもふに乗りたい!」とのたまえばすぐに化けてくれるだろうし(というかこの間、仮想空間の草原で一人と一匹が仲良く駆け回っている姿を俺と遥が目撃している)、何より信頼できるバディ同士の組み合わせは、それだけで価値のあるものだ。
「二キロメートル四方の座標をベクトルごと転換する奴の能力は、西の『明王』戦において大いに有効な一打となる」
「そんでその力を引き出す為には現状ユピテルを連れていくしかないってわけか。……成る程。旦那らしいや」
「無論、チビ助本人の地力を買った上での話だ。<ゼウス>を手に入れた今の彼女の性能は、『天城』前とは比べ物にならない程仕上がっている」
「あー、それはあたしも思った。今のユピちゃんかなりヤバいよ。あの裸のおじいさんのおかげで弱点大分なくなったし、
二人の見解は正しい。
だって霊力貯蔵できる砲台キャラが自前で動けるようになったのだ。
おまけに獣の暗殺者を一緒に連れていくと、周辺のあらゆる物体を座標ごと転移させる最強連携スキルが発動すると来たもんだ。
……ほんと、一体全体、どれだけ盛るつもりなんだよあの銀髪ツインテール。
「出来ればその二人はこっちに引き入れたいんだけどなー!」
「三人目に聖女を選んだリーダーに、二人を選ぶ余地はないだろう」
「え? なんで? 凶さん、あたし、ソフィちゃん、ユピちゃん、虚さんで五人選べるじゃん」
遥の言う通り、確かにまだ枠は二つ空いている。
しかし、悔しいが……
「いや、旦那の言う通りだよ」
俺は二人を選べない。
「枠は二枠、残り六人。だけどその内の一枠は実質二択なんだ」
「? どゆこと?」
「リーダーのパーティーには『
瞬間、遥の顔が分かりやすく曇り、そして何故か邪神がご機嫌な鼻歌を歌い始めた。
「虚とチビ助にパーティーを運搬する能力はない。<ゼウス>は個人用、白虎化は
四十層越えの二文字ダンジョンの平均距離はおよそ七十キロメートル強。
とてもじゃないが、徒歩で行ける距離ではない。
ましてやこちらには非戦闘員のソフィさんがいるのだ。
足並みを揃えた上で五層ごとの中間点を取る為には、必然的に運搬役が必要になって来る。
現在ウチのパーティーで運搬役を任せられるメンバーは旦那を入れて三人だ。
そして瞭然、あちら側のリーダーである黒騎士を俺は選べない。
「オーケー。惜しい気持ちで口が溢れかえりそうだが、二人は旦那に譲るよ」
「うむ」
「それじゃあ、次は俺の三順目になるわけなんだが……」
十人中七人の探索が決まり、残るメンバーは三人。
その内、俺のパーティーに二人がついて、旦那の所に一人が行く。
そしてその中の一人は、必ず運搬役でなければならない。
「なぁ遥」
だからこそ俺は黒騎士ではなく、遥に尋ねた。
「ナラカと花音さん、お前どっちがいい?」
「ぐ……ぎぎぎっ」
遥が二人に対してあまり良くない思いを抱いている事は知っている。
だけどこればかりはどうしようもないのだ。メンバーの命を預かる立場にある者としては「ライバルは全員入れちゃだめ!」等という恋人のワガママに付き合うわけにはいかない。
なのでせめてもの義理として、
「四人目はお前にゆだねるよ。好きな方を選んでくれ」
頭を抱える遥の肩にアルの御手がポンと乗る。
「大丈夫ですよ、遥」
「アルちゃん?」
「迷うのが苦しいのならば、両方とも取ればいい。マスター、遥、ソフィさん、ナラカさん、花音さん。これでファイナルアンサーです」
――――邪神がハッ
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