第二百四十六話 The third confession その14




※お盆&三巻発売直前記念という事で、いつもの二倍の分量でスペシャル更新です!




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◆ダンジョン都市桜花・第四十一番ダンジョン『嫉妬』最終層・絶海零度(回想)



 あり得ない事に、

 信じられない事に、



「最初はな―、よくわからなかったんじゃ」



 彼女達の出会いは、レヴィアタン側の一方的な見過ごしによる“無視”から始まったのだそうだ。



「いや、違うんじゃよ。凶一郎ちゃん! 別にご主人様の事を侮ってたとかそういう事じゃなくってな」



 大袈裟な身ぶり手ぶりで弁解の言葉を述べるミニチビちゃんの言葉を噛み砕いた形で説明すると、どうやら彼女、物理的に遥の事が視えなかったらしい。



「だってその時のワチ、すっごく大きかったんだもん。ご主人様の六万倍でっかかったんだもん。凶一郎ちゃんだって砂粒が空から降って来たってわかんないじゃろ? それとだいたい同じじゃ! 凶一郎ちゃんにとっての砂粒をさらにちいちゃくちいちゃく縮めたのが、ワチにとってのご主人様だったんじゃ」



 そう言われてしまうと、こちらも納得せざるを得なくなる。

 全長100キロメートルの巨大蛇に対して、身長158センチの美少女を一発で見つけろというのはまぁ中々の無茶ぶりだし、よしんば霊力を使った探知を行ったとしても、既に周囲は数百万人のハーロット陛下で埋め尽くされている。



 だからレヴィアちゃんの供述する通り、初見で遥を見つけるのは、まぁ無理だったんだろう。


 しかし、



「でもな、ワチすぐに気づいたよ。だってご主人様ったら」



 降り立った砂粒は、蒼乃遥だったのだ。



「いきなりワチのこと斬ったんじゃもん」



 嫉妬リソースがある限りたとえ真神級の攻撃力を持っていても傷を負わないレヴィアタンが、僅か数十センチとはいえ斬られたというあり得ない不条理。



 これに対して黒騎士は、



『四季蓮華との戦闘シミュレーションの経験が功を奏した』



 という彼らしくもないふわふわな推論で、文を纏めていたが、喰らった本人曰く「それは違う」らしい。



「もちもあの時のご主人様とおなじくらいツエーやつがおなじように斬ったとちても、たぶんワチ傷なしノーダメだったと思うんじゃ」

 


 つまり嫉妬之女帝に対する特攻能力が蒼乃遥にはあったのだと、レヴィアちゃんは苦笑を滲ませた表情で俺に教えてくれた。



「ご主人様をワチにぶつけたモンは相当切れる奴じゃなー。ワチなんかよりよっぽど悪魔じゃよ」



『布陣は整った。『不滅』を破る攻撃手アタッカーに、奴の嫉妬リソースを削る外殻破壊者ブラスター癒し手ヒーラーによる“支援”と、妨害手ジャマーの生成した“足場”を随時“事象転移おくり”、十時十六分、我々はこの怪物に対する狩りを始めた』



 黒騎士の立てた攻略法プランは、全くといって良い程容赦のないものだった。


 本陣をレヴィアタンの攻撃の届かない「空の外側」に置き、自分の兵力とハーロット陛下の人力マンパワーを贅沢にも削り役に使う事で、レヴィアタンの成長阻害とリソース除去という二面妨害を形成。そしてソフィさんによる回復と強化による超サポートと、会津の『タルタロス』を利用した“闇のハコ”を妨害能力を持った足場として機能させる事で理想的なタイマン環境を実現させ、唯一レヴィアタンへの攻撃が通る遥をエースとして戦わせる。



『彼女の刃は断ち切った対象の復元を阻害する。攻撃性能、敏捷性、そして回復遮断の魔剣。蒼乃遥はエースとして持つべきあらゆる能力を持っている。何よりも彼女は――――』



「びっくらこいた。ただのひとんこが、ワチとおんなじくらいの速さで高まっていくんよ? この時点でワチちょっとときめいちゃったもん」



 蒼乃遥は、戦いの中で進化を遂げる。

 初見殺しさえ読み切る洞察力

 不可能盤面を打開する閃きを見出す解答力。

 どんな無茶でも刀一つで切り伏せる技術力に、ノリとテンションでどこまででも強くなる覚醒力。


 そんな俺の愛すべき最強彼女が、ボスキャラ達の全面バックアップを受けながら戦場に立ったのだ。


 そりゃあ変わる。何もかもが変わる。

 この時点で勝利の天秤は間違いなくAチーム側に傾いていて、後はレヴィアタンをジワジワと追い詰めていくだけだと、



『午前零時。戦闘開始から約十五時間が経過。通常エリアがダンジョンリセットによる空間改変によってその様相を変えていく最中においても我々と怪物の戦いは続いた』



 ――――そう思っていた筈なのに、



『レヴィアタンは未だ健在。多少の手傷こそ見受けられるものの、討伐の目途は立たず』



 レヴィアちゃんは、この鉄壁の布陣を相手に半日以上もの間粘り続けていたのだ。



『午前零時三十九分、怪物の体長が四百キロメートルを越える。本来の成長速度を鑑みれば、この上昇数値は亀の歩みと言っても良いが、その亀の歩みがあまりにも大きすぎる』



「なんて言えばいいんじゃろ、確かになー、ワチが蓄えてた嫉妬リソースは減ってったんだけどなー、とちゅうから全然減らなくなったんじゃよー」




 旦那の報告書には、戦線が硬直した理由について二つの考察が述べられていた。



『蒼乃の剣は確かにレヴィアタンを断っていた。しかし、熱圏を優に越える敵に対して、刃渡り70余センチの一撃はあまりにも薄い』


 今更何を当たり前のことをと思うかもしれないが、そんな事は当然Aチームのリーダーも織り込み済みである。


 範囲を手数で、火力を武技で、大きさを速さで――――。

 たとえ敵が雲を突き抜け星にも届く怪物であったとしても、人智を越えた剣の捌きでコレを討つ。


 黒騎士は、人の手に収まる棒きれでも、遥が使えばレヴィアタンを御せると信じて、この作戦を実行に移したのだ。


 だから、



『レヴィアタンの嫉妬リソースが途切れない。分刻みで展開される崩界級の大嵐と“不滅”の維持と四百キロメートルにも及ぶ成長。これ程の神変しんぺんを半日以上だ。本来ならば、相応の疲弊があって然るべきだが』



「なんかなー、すっごく元気じゃったんだよ、その時のワチ。使っても使っても力が減らなくて、むちろぐんぐんとみなぎってきたんじゃ!」



 問題はレヴィアタン側にあったのだ。


 リソースを枯らしつつ遥で仕留める作戦が、リソースがいつまでも枯れず、遥は中々近づけずという踏んだり蹴ったりな状況に陥り、結果クソみたいな長期戦にもつれ込んだというわけさ。



 幾らレヴィアちゃんが数十年分の「嫉妬」を蓄えたリソースお化けだからって、真神級二人の削りを絶えず受けながら、遥を近づかせない為に崩壊級の大嵐を起こしつつ成長進化エボリュ―ションなんて三重展開トリプルタスクを十五時間? 

 おいおい流石にインチキが過ぎるってもんだぜ。ゲーム時代ですらここまでの無法っぷりじゃなかったってのによぉ。



『恐らくだが、奴は我々の嫉妬心を吸い上げているのだ』


「嫉妬を吸い取るのは、ワチの生体現象みたいなもんじゃからなー、その時は全然意識し取らんかったよ。ただ、今思い返してみればきっとそうだったんじゃろうなぁ」



 旦那の推測は筋が通っているように見えたし、当のレヴィアちゃん自身もそうであったと認めている。


 なので間違いなくレヴィアタンはAチームから嫉妬心を吸っていた。

 そしてその吸った嫉妬心を外部リソースとして使いまわしていたのだろう。


 しかし敢えて語り手ではなく清水凶一郎としての主観を注釈として入れるのであれば、俺はこの場面で強烈な違和感を覚えたのだ。



『この戦闘の長期化について、私は己の非を認めねばならない。目論見が甘かった。対『嫉妬』用に開発された件の精神防護アクセサリーすらも貫通して、奴は我々の嫉妬心を吸い入れている』



 けれど実際問題レヴィアタン戦は十七時間弱の長丁場であり、これについては遥が言っていた感想とも合致している。



『午前一時二十八分。戦況に変化が訪れる』


 それから約九十分後。戦闘開始から約十六時間半が経過したその、



『レヴィアタンが嫉妬之女帝の権能を使用した』



 その二十分後に、



『午前一時四十八分。レヴィアタンの沈黙及びリザルトアナウンス』



 ダンジョン『嫉妬』の攻略は、終わりを迎えたのである。



『最大功労者:蒼乃遥』



 あまりにも、唐突に――――。





◆ダンジョン都市桜花・第百十八番ダンジョン『天城』・第二十六層




「ワチは失敗ちっぱいしたんじゃ」



 月明かりの下、丘の上から森の営みを眺めながら、



「ふよーいに勝負を決めに行く場面じゃなかったし、なにゆえご主人様の攻撃だけがワチに通じていたのかをもっと、ずっと、真剣マジに考えるべきじゃった」



 自分は負けるべくして負けたのだと、小さな溜息をつくミニチビちゃん。


 未だに信じられない自分がいる。

 この子の正体は、全長四百キロメートルの怪物で、『嫉妬』を司る魔王で、そして敗残者。

 全てが現実で真実の筈なのに、レヴィアタンという存在があまりにも無法チートすぎてまるで実感が湧かない。



 ……なんだよ全長四百キロメートルって。

 数字をでかくすればいいってもんじゃねーんだぞ。

 たった五層上がっただけでボスのサイズが二百倍になるってどんなクソゲーだよ。

 オリュンポスの時点でインフレマックスだったのに、それを同ランク帯であっさり上回ってんじゃねぇぞコンチクショウ。

 更にイカレてやがるのが、そんなぶっ飛びモンスターを倒したのが、俺の愛するパートナーだってことさ。

 デフォルトでオゾン層より高くて、最終的には宇宙ステーションとかスペースシャトルが飛んでいる領域にまで成長した不滅の魔王を、あいつは実質二十分足らずで戦闘不能に追い込んだのだ。



 確かに遥はインフレバトル漫画に出てくる主人公みたいなやつだ。


 バトル大好きだし、どれだけ盤石な盤面を築かれたとしてもそれを「わはーっ!」と笑いながらぶった斬っていくトンデモ美少女である。


 だから一言「遥さんだから」とつけ加えちまえば、大抵の不条理は「だったら仕方ないな」って雑に片付けられるし、実際旦那の報告書に書かれている顛末も、「遥がいきなり滅茶苦茶強くなってレヴィアタンを断ったった☆」というクソみたいな内容を、それっぽい硬さと長さで校正編集コーティングしたものだった。もちろん俺は信じたさ。「あぁ、遥ならやりかねない」ってな!



 ――――だけどさ、だけどだよ? よくよく考えてみたらちょっと変なんだよ。

 確かにアイツはぶっ飛んでるし、少年漫画に出てくる覚醒シーンみたいなノリを日常的にかますワクワクジャンキーさ。

 でもアイツの強さは、「まぁ遥だから」と納得できる出鱈目リアリティラインってやつは、昨日の模擬戦くらいのものだったはずなんだ。


 決して、「半日以上も不滅を貫いた四百キロメートル越えの魔王をいきなり倒せるようになる」ってレベルの無法さではなかったんだよ。


 それによくよく考えてみれば、『嫉妬』戦で遥をエースに置くって言うのもおかしな話なのだ。


 四季さんとの手合わせによって「概念を斬れるようになった」から遥をエースに置いた――――あぁ、確かに一見筋が通ってるようにも見える。


 一を聞いて百を知り、千の応用を身につける俺の可愛い恒星系さんなら、一回の模擬戦で概念否定指数キャンセルキャッシュを理解して、俺ルールを否定する真剣斬撃マジレスが使えるようにだってなるだろう。



 でもな、対概念用の攻撃なんて、旦那も陛下もとっくにやってんだよ。


 黒騎士は戦闘機に概念を焼き尽くす爆弾ひっつけて、陛下なんて“概念の海”を吸血鬼に変えやがったんだ。


 もう完全に二人だけでよくね、状態さ。



“確かに奴との相性はあまり良くないかもしれないが、それは攻撃面に限った話だ。邪龍王の時分では使えなかったカードも使える上、やり方次第では効果的な妨害ダメージを与えられると確信しているよ”

“でも、妨害だけじゃ奴は倒せないぜ。生半可なアタッカーじゃ……それこそシラードさんクラスの相手でも無力化される恐れがある”



 準五大級、桜花十傑トップテン


 メンバーを集め終えてから最初に開いたパーティー編成会議で黒騎士は、いきなり大物中の大物に狙いを定めた。


 そして彼は、メンバーのピックを要望する上でこう言っていたのだ。



“聖女と蒼乃をもらいたい。可能ならばハーロットも組み込めれば盤石だ”



 ①ソフィさん&遥、②ハーロット陛下


 そう。真神であるハーロット陛下よりも、前の二人の方が優先順位が高かったのである。


 当時の俺はこのピックに対して、「黒騎士の考えている事が分かる」等とほざき散らかしていた。


 ソフィさんがいれば好機は必ずできるし、そこに遥のイカれた適応能力を組み合わせればレヴィアタンだって倒せるんじゃないかって、……あの時の俺は『天城』を攻略する前提でプランを練っていたから、そんな風にすげぇ都合の良いバイアスを自分にかけて納得していたんだ。



 『天城』を攻略する上で、あの考え得る限り最高の結末に至る為にはAチーム以外のメンバーで組む必要があった。


 三強がいれば“鎮魂歌”イベントなんてやる必要がないし、組織のエージェントである会津に精霊鉱ヴェインへのアクセス権を与えるわけにはいかない。


 ソフィさんに至っては、ストーリーそのものが書き変わる可能性があった。


 だから旦那が彼女達を引き取ってくれて、ホッとしちまったんだ。

 納得しちまったんだ。



「(……そうか、そういう事かよ)」



 額に手を当てながら状況を整理する。


 遥だけがレヴィアちゃんに攻撃を通せたこと、レヴィアちゃんのリソースが尽きなかった理由。



「(四季さんとの模擬戦は旦那が用意したカバーストーリーだ。アレのおかげで遥が概念を斬れるようになったんだから全くの無駄だったってわけじゃないが、レヴィアタンの『不滅』はストック性。同じ概念ぞくせいがぶつかり合えば、当然ながらデカい方が勝つ。数十年単位で嫉妬リソースを溜めこんだ彼女と、覚えたての遥では、いくらなんでも概念勝負が成立しない)」



「凶一郎ちゃん、あんなー」

「待って。もう少しだけ考えさせてくれレヴィアちゃん」



 どうしてだかは分からないが、この問題だけは自分で解かなければならない気がした。

 そうしないと、あいつの彼氏としてすげぇダセェぞと本能が叫んでいたんだ。



「(遥だけが攻撃を通せた理由、レヴィアちゃんのリソースが切れなかったカラクリ、そしてレヴィアちゃんがなんらかの変身をした途端に決着がついたワケ……)」



 考えて考えて必死になって考えて、あいつの事を想いながら魂の一片まで思考の宮殿にリソースを注ぎ込んで考え続けて――――




「……嘘だろ」



 ――――そして俺は、真相へと至ったのだ。


 身体が震える。

 心が寒い。

 涙が、こぼれ落ちそうになった。



 あり得ない事だ。

 けど同時に、この“X”さえ受け入れちまえば、『嫉妬』戦の、そして今こうしてレヴィアちゃんが出てきた理由の全てに説明がつく。


 ――――黒騎士は知っていたのだ。遥がレヴィアタンの天敵になり得る事を。

 ――――そして同時に彼女の名誉と尊厳を重んじて黙っていたのだ。仲間に、そして他ならぬ俺にソレを知られないようにする為に。



「レヴィアちゃん」


 風が吹く。柔らかくて、温かさすら感じたダンジョンの風が、今は凍てついた吹雪のように感じる。



「レヴィアちゃんが終盤で使ったスキルっていうのはアレだよね。敵が抱く恐れや憧れを取り込んで、レヴィアタンとしての“定義”を引き継いだまま、相手にとっての“敵わない者”を再現するってやつ」

「うむ」


 簡単に言ってしまえば、それは最上級の変身能力だ。

 最強のレヴィアタンとしてのあらゆる性能、術技、特性全てを引き継ぎながら、同時に相手にとって最も敵わない者へと変貌する。


 パーティメンバーの選択肢を誤ると四季さんとかオーディンとか666なんかが『不滅』状態で出て来るから、本当に厄介な能力なんだよなぁアレ。



 でも、しかし、だけど、そんな最強のインチキスキルが今回ばかりは“決定的な敗因”になってしまったのだ。



「レヴィアちゃんが、誰になったか当ててもいい?」

「すごいなー、凶一郎ちゃんは。頭がとってもいいんじゃね」

「俺は馬鹿だよ」



 それも救いようもない大馬鹿だ。

 今の今まで、そしてこんな事にならなかったらこの先ずっと気づけなかった。

 ……本当に大馬鹿野郎だ。



「君が“変身”したのは、」


 あぁ、もう引き返せない。言ってしまったら、何もかもが変わってしまう。

 だけど――――



「桜の髪色をした翡翠色の瞳の女の子だったんだろ?」



 レヴィアタンの首が小さく縦に揺れる。



「遥の刃が君に通った理由は、嫉妬の総量が君を上回っていたからだ」


 概念バトルも突き詰めれば、デカイ方が勝つ。

 レヴィアタンの司る概念は言うまでもなく“嫉妬”だ。嫉妬之女帝は他者の妬み嫉みを自分だけの燃料リソースとして扱い高い不滅や進化を得る。


 だからもしも嫉妬之女帝よりも嫉妬深い対象が現れて、そいつが敵意をもって攻撃を仕掛けてきたとしたら、当然ながら攻撃は通る。


 嫉妬の不滅バリアを、より大きくて硬い嫉妬ぶきで壊しているとでもいえばいいのかな。遥は多分、それをやったのだ。……やってのけたのだ。



 嫉妬之女帝を上回る嫉妬心の持ち主。

 世界中で唯一そのままレヴィアタンを斬る事ができる遥の存在は、誰よりもアタッカー役に向いていたのだ。


 だがそれは諸刃の剣だ。

 嫉妬之女帝に、嫉妬を喰らう魔王を相手に嫉妬心の核融合炉みたいな奴をぶつけたら、当たり前のことながらそいつを吸われる。



「レヴィアちゃんの調子が上がった原因は、遥の嫉妬心を燃料に取り込んだから、なんだろ?」

「せーたいげんしょうみたいなモンじゃから、そん時はよう分からんかったが、アレは間違いなくご主人様由来のものじゃった。なぁ、凶一郎ちゃん。ご主人様が一日に湧かせる“嫉妬心”って一体どれくらいだと思う?」

「……レヴィアちゃんが満足するくらい?」

。ワチがあのダンジョンでひとんこ相手にせっせこ集めていた嫉妬エネルギーの二年分に相当する量が毎日ご主人様の中で作られておる」

「それは今も?」

「こっち来てからちょっとは下がった。大体5パーセントくらい! 10パーセントは切っとらん」



 夜の帳を仰ぐ。自分が一体いまどんな顔をしているのか、全く分からなかった。



「……話を『嫉妬』戦に戻そう。戦いは終盤戦、君は桜色の髪をした女の子に変身して」

「凶一郎ちゃんの仲間の子じゃないぞ。その子は、凶一郎ちゃんの恋人じゃった。凶一郎ちゃんと恋して結ばれた記憶をいっぱいもっとった」



 ――――レヴィアタンは、相手が最も恐れる存在を“再現”する。

 ――――そして彼女は、遥が最も恐れるものをあろうことか人前でみせたのだ。




「ご主人様が、キレた」



 これ以上の説明など、存在するまい。


 レヴィアタンの唯一にして最大の失敗は、かくして最悪の形で彼女に刃を振りおろし、不滅の王は敗れ去ったのである。



「あぁ、これはヤバいってすぐに元の姿に戻って“さいしゅーおーぎ”を放とうとした時にはもう動けん位にバラバラになっとった。……嫉妬之女帝が、齢十五のむすめっ子に嫉妬で負けたのじゃ。――――笑えるじゃろ」

「笑えねぇよ」

「……うん。そうじゃろうな。凶一郎ちゃんの立場からしたら、つらいよな」



 俺の事なんてどうでもよかった。

 ただ遥が、そんなに苦しんで、悩んでたなんて知らなくて、それが、その事がどうしようもなく



「ご主人様な、泣いとった。ワチのこと三億等分くらいにしながら泣いとった」



 ――――こんな可愛くない子、いつか凶さんに嫌われちゃうよぉ。



 と、遥はそんな事を言っていたらしい。



「ワチに勝ったさいきょーの相手がな、こんな感情なくなればいいのにって、泣いとったんじゃ」

「……君は、遥の為に?」

「むろん、ワチ自身の為でもある。これ以上のりょーぶっけん、この先どれだけ探したってぜったいにみつからんからな」



 遥がいらないという嫉妬心をレヴィアちゃんが吸い取ることであいつは安定し、逆にレヴィアちゃんは遥の中で寝ているだけで無限のリソースを手に入れられる。


「(……もしもここまで旦那が読んでいて、その上で遥の名誉を守る為に色々と動いてくれていたのだとしたら?)」



 心の中を色々な思いが駆け巡る。


 『嫉妬』の事、レヴィアちゃんの事、そして何よりも



「(俺がアイツの為に出来る事はないだろうか)」



 あいつの、俺の事で狂おしい程嫉妬してしまうその在り方を、全部一辺に解決する手立ては俺にはない。


 だけど、それでも、少しでも良いから遥の不安が和らげるように、「自分はちゃんと特別なんだ」って信じられるように、あいつの為に、遥の為に、俺が出来る事は――――



「なんだよ。ちゃんと誰かの為にって思えるんじゃねぇか、俺」




 考える。考える。何度だって考える。



 こんなものは、ウジウジと引き延ばしたってしょうがない。

 心は真剣マジに。

 だけど解決の手早さは、サブクエ並みに。


 時間はかけさせない。俺の彼女だ。曇らせ展開なんて二度と起こしてやるもんかよ。



「決めたぜ、レヴィアちゃん」


 空が白む。

 この旅で迎える最後の朝がまもなくやって来る。



「俺、今日あいつに――――」





―――――――――――――――――――――――




Q:黒騎士はどうやって、遥さんがレヴィアタン越えの嫉妬ウーマンだって気づいたんですか? 比較できなくないですか?

A:魔王保有者に共通するの特定感情の異常発達をハイテクサイボーグスキャナーで検知していたのが一つ。旦那自身が色々と事情通だっていうことが一つ。後、邪神が普通にチクリました。アイツはどんな時でもブレません。



・次回更新は、大体二十六時間後!

 8月17日木曜日、午前0時丁度にお届けします!

 長かったTTC並びにサブクエストの完結回ですので、是非是非お楽しみにっ!









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