第二百四十五話 The third confession その13
◆
先んじて一つだけ断わっておく事がある。
これから語られる回顧録は、レヴィアちゃんの回想と旦那からの活動報告を元に俺が解釈を整えた言わば“編集版”だ。
いかにして、嫉妬之女帝は遥の下へ降ったのか。
そして彼女達が結んだ契約の正体とは何なのか。
その事について可能な限り公平な視点から語っていきたいと思う。
◆ダンジョン都市桜花・第四十一番ダンジョン『嫉妬』最終層・絶海零度(回想)
嫉妬之女帝、レヴィアタンはハーロット陛下や我等が『天城』の
ダンジョン都市桜花が誇る第四十一番ダンジョン『嫉妬』
その最終層“絶海零度”の主であるレヴィアタンが住まう概念の海は、人智を絶した広さと深さを誇る魔の海域であり、余人ではそもそも嫉妬之女帝の御前まで辿り着く事すらままならないだろうと、黒騎士は言っていた。
旦那の推測は正しい。
いや多分、誰がみてもそう結論付けるだろう。
レヴィアタンの全長は約四十キロメートル。地球の海の平均的な深度の約十倍以上の巨躯を誇る彼女が自由に泳ぎ回れるフィールドなんざ、もうそれだけでクソゲーである。
しかも非常に性質の悪い事に絶海零度の環境設定の悪辣さはそれだけではなかったのだ。
空は黒い雨雲で覆われ、大雷雨が絶え間なく降り注ぎ、世界そのものが嵐に包まれているまさに地獄。
レヴィアちゃんから言わせればそれらは総じて
「雨がざぁざぁ。お空ぴかぴか。波がざぶんざぶんの風がびゅうびゅうで、とってもにぎやかで楽しいぞ!」
との事らしいのだが、彼女の二万分の一サイズにも満たない種族人間からすればそれは間違いなくクソゲーである。
ほら、オリュンポス・ディオスが終盤に敷いてきた
あぁいうのを精霊本体ではなく、フィールドそのものがやってくると思えば、その
こちら側の体力を平気で八割削ってくる大津波とか、パーティーメンバーを戦場外まで吹き飛ばす大嵐とか。
四十層級以上の戦場では、往々にして世界そのものが牙を剥く傾向にある。
『我々はまず、この環境を壊さなければならなかった』
そんな最強の生物が住まう、最悪の環境を“烏合の王冠”のAチームは一体どうやって突破したのか。
その“解答”を実際に受けた、レヴィアちゃんの感想がこちらだ。
「あんなー、空がな―、パキーンって割れてなー、そしたらお星様がピカーんって光ってな―! そしたら海もえたーっ!」
お分かり頂けただろうか。彼女、致命的に語り部役に向いていないのだ。
……身体が
話を『嫉妬』攻略に戻す。
レヴィアちゃんが言っていた「空が割れて星が光り、海が燃えた」という異常現象の数々は無論の事ながら俺の仲間がやったものである。
遥ではない――――本人も言ってた通り、彼女の専門は斬る事だ。レヴィアちゃんが体験した出来事とはジャンルがあまりにもかけ離れ過ぎている。
会津でもない――――組織の諜報員である彼の能力は、“相手にしたくない”タイプのものであり、こんなSF超大作に出てきそうな「戦争」を一人でおっ始めやるような火力はない。
ソフィさんは、無論違う。
ハーロット陛下ならば、似たような
だからもしもレヴィアちゃんが彼女の術を喰らったならば「色んないきものががいっぱいでてなー」という感想がつくはずであり、それがないという事は即ち……
『私は
黒騎士が彼本来の戦術で、
『
レヴィアタンを滅ぼしにかかったという事である。
空を
かつて翔けた騎士の戦場を、
そして遥が黒騎士に敵わないといった理由の本命である。
『午前九時十二分、
もしも、邪龍王戦の黒騎士しか知らない人間が、旦那の
――――どういう事だ、と。
その規模、その戦力、その数。何をとってもあの時の比ではない。
舐めプと疑われても仕方がない程に、『常闇』と『嫉妬』の黒騎士は違う。
しかし、
『懸念が現実のものとなった。君主級が26、真神級が1 これ程の戦力が解放されたという事は即ち、■■■が奴を嫌悪すべき偉大な敵であると認めたのだ』
それは誤解だ。旦那は舐めプをするようなキャラじゃないし、出し惜しみをするようなタイプでもない。
『常闇』と『嫉妬』、そのどちらにおいても彼は持てる限りの手札を使い誠実に戦ってくれていた。
――――違ったのは、“条件”と“契約”だ。
旦那の契約精霊はかなり特殊なタイプでな、対峙した相手に応じて黒騎士の性能に調整をかけてきやがるのよ。
それも
〈馬車〉や〈機関銃〉といったランクが高くない天啓こそ安定して使う事が出来るものの、<銀河剣>や<虚飾之王>のような明かに
難しいようなら、(最低保障こそあるものの)どんな相手とでもプロレスを強いられる契約だと思ってくれればいい。
そしてこの一人宇宙戦争とでも呼ぶべきトンデモ
これは“
そして、レヴィアタン戦はこれらの条件を満たしていた。
いや……
『“煉獄”を越え、不完全ながらも“天獄”の領域にまで踏み込んでいる』
満たし過ぎていたのだ。
数千機の黒鋼が概念を燃やす爆撃を放ち、
ここまで“解放された”旦那を相手に十秒以上持てば、それだけでそいつは
まさにボスキャラと呼ぶに相応しい
“たった一人の星間戦争”とでも呼ぶべきその悪夢は、“絶海零度”に一方的な戦禍を広げレヴィアタンを一方的に屠るに足る
「ワチたのしくてたのしくて、“こんにちわ”って挨拶したらなー、お星様おっこちたんじゃよ。ほいでな、よくよくみたら、ソレお星様じゃのうて、なんか鳥みたいな
筈だったのだが――――
「でなー、遠くから飛んでくるピカピカはなー、ワチの海をすげーいきおいで
……いや、やり過ごしたとかそういう次元の話じゃない。
話を聞く限りレヴィアちゃんは、それを攻撃と認識していなかったのだ。
不滅のレヴィアタン。
他を下げずとも、何かを奪わなくても、己が最強でさえあれば万象の王足り得ると信じて疑わない彼女の概念の恐ろしさは条件さえ整えば、今回の『嫉妬』戦のように敵が同列以上の出力をもった攻撃をしかけてきたとしても
『怪物は蓄えた“嫉妬”を燃料とし、無疵の不滅性と無尽の自己強化を併せ持つ規格外の怪物』
数十年。『嫉妬』が桜花に出現し多くの冒険者が往来したその中で、レヴィアタンが掻き立て吸い上げた途方もない数の
「でなー、まぁるい月がずっとずっと遠くにあってなー、ワチの
『九時二十八分。対象の巨大化を確認。秒間百メートル以上の速度でレヴィアタンの
「じゃから、おっきくなったんじゃ!」
『――成長を始める』
一秒で百メートル。十秒で一キロ。二分足らずで十キロ伸び、七分を越える頃には元の高さの倍以上。
初期の
フェイズとかギミックとか特殊ルールみたいな守護者であるが故の特権を一切使わず、その性能は、統べる概念や本人の特性を加味した上でなおシンプルであると言って差支えがない。
単純に強くてデカい。初見殺しもクソもなく、やってる事が単純すぎるから正面突破以外の攻略法が存在しない。
少なくとも今の俺では彼女の相手は無理だ。
化け物ぞろいのウチのメンバーでも、この時の嫉妬之女帝の
『九時三十一分。ハーロットを投下』
――――たった一人、ハーロット・モナークという例外を除いては。
「ビックリちた! だって
ハーロット・モナーク。この世界における
彼女は芸術家だ。美しい
オリュンポス戦で花音さん達が相対した地母神ガイアの怪物生産能力を真神の領域で扱うトークン生成系能力のハイエンド。
あのアジ・ダハーカですら一分足らずで量産できるというその力はまさに、理不尽の権化といっても過言ではないのだが、しかし、
『ハーロットの最も能率的な運用は、奴を
旦那曰く、彼女の本領は自分自身を増やす事による
陛下が扱う術式の構築において、九割以上の時間を要する部分が
だから創作ではなく、“性能”を量産するだけならば、あるいは自分自身を増やすだけで良いのなら――――
『ハーロットは亜光速航法を使用せぬまま大気圏を突破。不必要に燃えながら無限に増え続ける吸血妃の大群は、概念の海を真紅の血色に染め上げた』
「クラッとしたんじゃ! ワチの住み家がえらいことになっとったんじゃ! あんな感覚は初めてじゃった」
レヴィアタンは
しからばその対処法は、蓄積された燃料を使い切らせる他になく、だからこそ旦那は
『九時四十六分。ハーロットが“概念の海”の
「海が真っ赤に染まったと思ったら、今度はワチのそっくりさんがしほーはっぽーから現れて噛みついてきたんじゃ! なんか頭はくらくらするし、上からはまたお星様がふってくるし、何コレ!? 祭りか!? 祭りなのか!? 最近の人間ってすっげーなってワチ感動したんじゃ!」
格上である真神級二人の手によるイカれにイカれた盤面制圧術に対してさしものレヴィアタンも一度成長を止め、全長百キロメートルに満たない程の高さで、数百万のハーロット陛下並びに、自身のデッドコピー群(ハーロット陛下は、わらわにこんな粗悪品を造らせるなんてドゥランテ坊やもずいぶん偉くなったものだとそれはそれはご立腹だったそうだ)を相手に抗戦を開始。
一体一体が亜神級上位規模の力を持つ分身体の陛下達を鎧袖一触と叩き潰しながら、同時に自身の霊力を爆発させて血の海に
究極の個と無量の群の戦いは、時を追う毎に激しさを増し、増し、増していき、そして――――
『十時一分。蒼乃遥の投下を開始』
そして嫉妬之女帝は、俺の彼女と出会ってしまったのだ。
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・更新告知(お盆休みスペシャル編)
ちょっと後一話では収まらないので、月曜日か火曜日に通常更新とは別のスペシャル更新を行いたいと思います!
お盆休み&チュートリアルが始まる前に第三巻発売記念(書店さんの方では、もう三巻を発売しているところもあるらしいです! お見かけした際はぜひ手に取って見てください!)だと思って頂ければ幸いです!
・月曜日か火曜日にTTC14話投稿、木曜日の午前零時にTTC最終話更新という感じでー!
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