第二百二十七話 あるけユピテル! そのニッ!
◆弟子について
あくまで少女視点での話ではあるが、特に大きな
敢えて言うならその場のノリだ。
ひょんなことからギャルゲーに興味を持った金眼の後輩に「あーだこーだ」とギャルゲーの魅力を語っていたら、いつの間にか「師匠」と慕われるようになって、「じゃあオメェは弟子な!」となった、それだけである。
あるいはもしもそこに“あえて”をつけ加えるのなら、……『天城』のパーティーで、あんまゴチャゴチャ気にせず遊べる人間が「弟子」しかいなかったというのもあるやもしれない。
ゴリラも、カノンも、オッパイも。みんないっぱい考えて、悩んでた。
とても「遊んで」と言える雰囲気ではなかった。
だから半ば消去法というか、成り行きみたいなところもあったのだと思う。
少なくとも、少女視点ではそれ位しか語る事がない。
ユピテルは、忘れっぽいのだ。
◆◆◆清水家・玄関
「良く来たな、弟子!」
少女は、おもちゃの三輪車についた銀色のベルをちりんちりんと鳴らし、金眼の暗殺者を歓迎した。
まさに渡りに船とはこの事だ! 外出するのにネックとなっていたおんぶ係が向こうからやって来てくれるなんて
「けど、なして?」
遊びに来たと彼は言ったが、誰かに誘われたのだろうか。
自分ではない。そして多分ゴリラでもない。
奴はいつにもまして
「誰かに用事け?」
「あー、えーっとですね……」
弟子は少しだけ照れくさそうに頬をかきながら、
「ハーロットさんって今居ます?」
そんなことを尋ねてきた。
質問を質問で返すな、とかつて偉い人が言ったらしいが、この問いかけは質問という体の解答である。
虚の好みは、年上の女性だ。包容力があって、おっぱいがでっかいと、なお良いらしい。
年上でブロンドおっぱいで、何故か王者の気品漂うハーロットのオババなぞは、彼にとってド直球な逸材なのだろう。
「いや、本音を言えば俺より三個下って部分にさえ目を瞑れば、兄貴のお姉さんとかもかなり……」
「ばか、弟子っ! 滅多なことを言うでないっ!」
突然の爆弾発言に、ユピテルは思わず辺りを見渡してしまった。
誰もいない。念の為、霊力探知も試みてみたが、こっちも無問題。誰も聞いてない。ゴリラも聞いてない。良かった。本当に。
「いいこと、弟子?」
ユピテルが小さな声で話し始めると、自然と弟子の目線が少女の座る位置まで降りた。
「今の話、間違ってもゴリラの前でしちゃダメよ。あいつシスコンだからこの手の冗談がまったく通じない」
「えっ、いや待ってくださいよ、師匠っ! 俺、女の子に関してはいつだってガチで」
「なおわるい」
ぽこっと、黒の
「ここだけの話、フミカは超絶モテるんじゃ。あの美貌、あの気立て、何よりもおっぱい。常識的に考えて世間からほっとかれるはずがないじゃろ」
「まぁ、そうっすね」
「だというのに、ボスは生まれてこの方弟以外の男の手を握った事すらないという」
ギャルゲーならば、それはお約束の一言で片付けられるだろう。
だが、ここは現実だ。そして
「ワタシも詳しくは知らんが、昔のゴリラは札付きの
「信じられないっすね」
同感だった。今のゴリラは基本的に手よりも先に口が出るタイプである。良くも悪くも思考に重きを置くタイプだ。口癖がヒャッハーの癖にやたらと知将なのである。
しかし、
「
清水凶一郎少年、大体中学一年から二年の時の話である。
「えっ、つまり兄貴がグレた原因って……」
「うむ」
ユピテルは、三輪車のベルをちりんちりんと鳴らしながら言った。
「シスコン
「ひえー……っ」
暗殺者の顔が露骨なまでに青く染まった。
さもありなん。
奴は何者でも無かった時代から、拳一つで姉を並みいるチャラ男達から守り続けた生粋の凶犬である。
いわんや今の奴が姉に群がるチャラ男を見つけたらどうなるか。考えるだけでも恐ろしや!
「お、俺。大人しくハーロットさん狙いにします」
「それがえぇ」
かくして少女の必死の説得により、チャラ男殺人事件は事前に回避する事ができた。流石はユピテル! やはりできる子である!
さておき、
「ハーロットのオババならいないよ。車乗ってどっか出かけた」
キャンプがしたくなったらしい。
ユピテル達も誘われたのだが、あまりにも突発的だったのと、どいつもこいつも家に籠りたがった結果、面子が集まらず、結果的に「そうか! じゃあわらわ一人で行ってくる!」と言ってオババは郊外のキャンプ場に一人で出かけてしまった。
一人でもみんなでも楽しめる女ハーロット・モナーク。
あれこそが真なる陽キャの姿なのだと、その時ユピテルは学んだのである。
「えーっ、じゃあもしタイミングさえ合えば俺がハーロットさんと二人っきりでキャンプって可能性も」
「十分に合っちゃ」
基本的にあの王様は来る者拒まずな人なので、案外弟子とは馬が合うかもしれぬ、とユピテルは思った。
しかしそれはそれとして、今は今だ。
「仕方ないので今日はワタシが遊んであげよう」
「おぉっ! マジッすか! 流石師匠! 懐マジパネェ」
そうじゃろそうじゃろ、と腕を組みながら、ユピテルは「とりあえずコンビニ行こうゼ」と弟子を誘った。
「今日は弟子にギャルゲーと同じくらい楽しい遊びを教えちゃる」
「えっ、マジッすか。あっ、分かった! ガチャってやつですねっ! 師匠がすっげーハマってるスマホのゲーム」
「流石はワタシの弟子、良い勘しとるゼ!」
そうしてユピテルがしめたしめたと、三輪車を降りかけたその時である。
「アンタ達、一体何してんの?」
玄関口に巨大なおっぱいが現れたのだ。
「おっぱい……」
「ナラカよナラカ。いい加減名前を覚えてちょうだいな、おチビさん」
そのHカップは、名を火荊ナラカという。
少女の所属するクランのメンバーの一人であり、すごく強いドラゴンだ。
相性によるところも大きいが、少女が明確に自分よりも強いと思う数少ない相手でもある。
「なにしに来たんけ?」
知力、火力、その他戦闘に関するあらゆる能力値が極めて高く、ユピテルが得意な遠距離戦でも互角に近い撃ち合いを演じられるこのパーフェクトオールラウンダーおっぱいには、しかし一つだけ弱点があった。
「あぁ、それね」
この女、火荊ナラカは、
「彼に会いに来たのよ。こっそりね」
どこぞのゴッドよろしく、男を見る目があまりないのである。
「…………」
「…………」
「『天城』での共同生活が終わって、多少なりとも会う頻度が減ったでしょ。だからこうしてアタシ自ら会いに来てあげたってわけ」
「きっと喜ぶわよぉ」と得意げな顔でブーツを脱ぎながら、清水家の敷居を跨ごうとする黒タイツおっぱい。
しかし、迎える少女と暗殺者の顔は、あまりにも対照的だった。
思い出す。『天城』の冒険の終わりの先を。
ゴリラが「これでエピローグだぜ」という顔で遥を抱きしめていたその裏側を。
位置的に、少女と暗殺者は見てしまったのだ。
最愛の男に抱き締められながら、穏やかに微笑む蒼き羅刹の姿を。
そしてそれを同じくとても穏やかな顔で微笑み返す赤き火龍の横顔を。
大袈裟にバチバチやってくれた方が、よっぽど良かった。
その傍から見たら和やかな感じにしか見えない笑顔の応酬は、しかし知る者の視点から見れば背筋が凍りついて仕方がなかったのだ。
胃の弱い桜髪の少女なぞは、あまりの緊張感に耐えられなくなり帰還早々お腹を抑えながらトイレに駆け込んだ程である。
『し、師匠』
虚がすぐさま《思考通信》のチャンネルを開き、ユピテルの心に語りかける。
『兄貴っていま、遥の姉貴とイチャイチャしてるんっすよね』
『十中八九、
『そこにナラカっちが空気読まずにやって来たら、どうなりますか』
少女は考えた。自称IQ500の黄金の脳みそをフル稼働して考えた。
そして導き出した結論が、こちらである。
◆少女のたくましい妄想
・
・ゴリラ「うほうほっ!」←とても人前には出せないような格好をしている。
・遥神「あんっ、もう凶さんったら。そんなところ触っちゃダメだよぉ」
・ゴリラ「うほりんちょ!」
・おっぱい「きーっ!」
◆清水家・玄関口
『『清水家がやべぇ』』
戦慄が、走った。
穏やかな昼下がりが、突然オリュンポス戦のクライマックスシーンに様変わりしたかの如き風雲急ッ!
もしもこの場に花音嬢などがいた日には、恐らく泡を吹いて倒れていただろう。
『えっ? ナラカっちはバカなんっすか? こんな遥の姉貴の牙城に突っ込んだら、メンブレ展開間違いなしじゃないっすか』
『い、いやおっぱいの事だからきっと何か考えがあるんじゃろ。多分きっと恐らくメイビー……』
真相は分からない。だが、火龍の少女は、とても上機嫌であるっ!
「確か凶の字の部屋は二階よね。ふふっ、アイツの驚く顔が目に浮かぶわ」
驚くには驚くだろうが、きっとそれは胃が爆発するタイプの
真偽の程は不明だが、このままではヤバいのは明白。少なくとも、今目の前にいる彼女の顔はきっと曇る。
それは避けたかった。自業自得の一言で片付けるには、少女達はあまりにも火荊ナラカと仲良くなりすぎていたから。
だから、
「おっぱ……ナ、ナラカチャン」
だから少女は、目に見えた惨劇をなんとか避けるべく、
「ゴリ……キョウイチロウは今イナイよ」
精いっぱいの嘘をついて、
「だからワタシ達と一緒にお外でアソボウ?」
そして自分でも信じられないアウトドアな発言をかましてしまったのであった。
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