サブクエスト4

第二百二十六話 あるけユピテル! そのイチッ!







 ユピテルはげきどした!


 かならずじゃちぼうぎゃくの清水なにがしを除かねならぬと決意した!


 ユピテルには期待値が良くわからぬ。なして確率1パーセントのガチャを100回まわしたのにお目当てのキャラが出ないのか! はなはだもってりふじんである!

 そしてユピテルは、桜花の冒険者でもある。下ネタを愛し、ガチャとギャルゲーで遊んで日々をつつましく暮らしてきた。

 

 だが人一倍、あおりにはビンカンであった!




◆◆◆『第六天満破界砲撃手』清水ユピテル




「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイェェェェエェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」





 どはつてん!


 それはまさに怒れる雷帝インドラの如し!


 木霊する赫怒ふざきんな雄叫びキエーが、少女の世界へやを震撼させる。


 

 畳に寝そべり、全力で地団太を踏むその姿に神秘性など欠片もナシ!


 完全に大きな赤ちゃんである!



「ふっぐ、ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、ご、ご、ご、ゴリラぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、なぜあいつばっかり、あいつばっかり、ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」



 義姉ニート程ではないが、ユピテルもまたあまり表情が顔に出るタイプではない。


 故にこの時もまた、内心の怒りを表情筋にはあまり出さず、こめかみと口の動きだけで怒りの形相プリティフェイスをあらわにしていた。


 外面だけは人形とも例えられる少女が意味もなくブリッジをかまし、奇声を上げるその様は完全にホラー映画の怪物である。



 少女の暴虐により、戸棚の中の美少女フィギュアが揺れ、箱形コンソールに積み上げられた大量のハードディスクが地に落ちた。




 何故、こんなにも少女は荒れ狂っているのか。



 少女の心を斯様にもかき乱す悪鬼羅刹アンチクショウの正体とは何なのか。




「ふごっ、ふごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! うんちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

「――――ユピテルちゃん」

 



 その答えは、少女が家主ボスに怒られているまにまに、



「ご近所迷惑ですよ」

「……ビ、偉大なる文香ビッグ・ボス……っ!」

「その仰々しい呼び方やめて下さい。お姉ちゃんで良いです」



 解説していく事としよう。






 それはいつもの事と言えばいつもの事であった。


 少女がガチャ――――ここでいうガチャとは、玩具カプセル販売機の俗称である“ガチャガチャ”ではなく、それになぞらえたかのような仕組みを持つデジタルゲーム上の販売形式ギャンブルの事である――――を回し、そして呆気なくも爆死したのだ。


 具体的な数字をいうと、二十万円という途方もない金額があっちゅーまに吹き飛んだのである!


 そのゲームは今時珍しく骨太なゲームであり、“天井”と呼ばれるガチャの最低回数保証がなく、当たらない人は何万どれだけ課金しても、目当てのキャラが出ない仕様であった。


 しかも(色んな意味で)運の悪い事に、今回回したゲームのガチャは、いわゆる“人権キャラ”と呼ばれる類のキャラクターであり、早い話がそのキャラがいないと、ゲームの攻略や効率性に著しい不利益が出てしまいかねない位の最強キャラクターだったのだ。



 大手呟きサイトを見れば瞬く間の内にトレンド一位を取り、心ない輩は、「“曲芸ネオデトダム将軍・導くルラスカディ王谷”持ってない奴息してりゅーW」等とイキリ散らす始末である!



 当然持ってないユピテルからしてみればふんまんやるかたない気分でいっぱいだったが、ここまでは良かった。


 ……いや、少女からしてみればこれっぽちも良くはなかったのだが、この手の輩はネットを閉じればいいわけで、つまりやろうと思えば自衛が容易に成り立つレベルの畜生共ウンチなのだ。



 しかし――――




“なぁ、ユピテル。この曲芸ネオなんちゃらってやつそんなに強いの? さっき十連回したら7体でちゃって、完凸分超えちゃったんだよなぁ”



 家族ペットは別である。


 頼んでもいないのに現れて、「あれ、俺またなんか当てちゃいました?」と無自覚な煽りボケをかましてくるのだ。


 てめぇは異世界転生者か何かかよ、とユピテルは思った!



“……すまん、ユピテル。俺の配慮が足りなかったっ! お詫びってワケじゃないけど、良かったらこのアカウント使ってくれよ。ほら、すごく強いんだろ、その曲芸ネオなんちゃら”


「(……た、)」


 そしてこのゴリラの一言が少女のげきりんに触れ、



「(他人のアカウントで遊んでなにが楽しいんじゃぁ、くっそボケがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!)」




 時は冒頭へと、戻るのであった!







「(だけど、どうするけ)」




 ボスからのありがたいお説教を賜り、一時の改心と僅かながらの理性を取り戻したユピテルは、清水家の廊下をおもちゃの三輪車で渡りながら考えた。


 清水家は無駄に広い。

 二階建てだが、一階一階の面積がマジヤベェのだ。“烏合の王冠”の主要メンバーが全員で寝泊まりしても、余裕で部屋が余る程のキャパである。


 ――――まるでギャルゲーの家みてぇだと、ユピテルは常日頃から思っている。その場合、主人公はあの喋るゴリラという事になってしまうのだろうか。クソゲー臭がプンプンだ。



「(“曲芸ネオデトダム将軍・導くルラスカディ王谷”は間違いなく、環境じゃ。しかも限定だから、ここを逃したら次の入手は最悪“来年”になる)」



 少女の部屋は一階にある。文香ボスも一階だ。アル姉も一階である。二階は獣達の巣窟なのであまり近寄らない。

 今朝も朝ごはんだからと呼びに行ってやったら、ゴリラと遥神ゴッドが赤と青の粒子を飛ばし合いながら終わらない愛してるよゲームをやっていた。

 あまりにも不毛だったので、ボスには「朝ごはんは、お互い様いらねぇってさ」とだけ報告しておいた。甚だもって拒絶案件チ○チンである。




「(十一月まで後三日。ガチャの配信は十月いっぱい)」


 フローリングの廊下をカラフルなオモチャの三輪車で走る十二歳児の姿は、どう見てもアレであるが、ユピテルは特に気にしてなぞいなかった。


 歩くよりも楽チンだし、何よりも今はそれどころではない。



「(今月分の限度額は、とっくにとまってる。現ナマキャッシュと魔法のカードも弾不足ノーパン)」



 先の『天城』戦での活躍により、少女はゴリラから一千万円もの大金を貰っている。


 だからこれで課金の苦しみからはしばらくおさらばじゃと思っていたのだが、実はそうでもない事に後から気づいた。


 現金は口座に預けられている。

 そして便利なATMには、基本的に一日毎の『引き出し限度額』というものが存在する。


 一気に下ろす為には銀行に行かなければならないが、その場合は、異国民かつ十二歳かつ養子という少女の境遇が足を引っ張り、折角の冒険者補正がかき消されてしまう為、普通に保護者同伴となる。


 だから少女が自由に使えるお金には常識的な限りがあり、そして何よりイチイチ下ろすという手間が不可欠だったのだ!



「(めんどくせぇ)」



 最寄りのコンビニまでは、ちょっとある。ただでさえ横に広い清水家を抜けて、そこから更に二百メートルと少し。


 往復すれば、実に少女が先の天城決戦で歩いた距離を優に超えてしまう程の大冒険だ!


 別にダンジョンにワクワクを求めていないユピテルにとって、あのレベルの行軍はしばらくご免だった。


 無論、最終的にはお金を降ろしに行かなければならないのだが、出来る限り数少ない体力を減らしたくはない。


 ――――何か足がひつようだった。


 少女の代わりに歩いてくれる、立派な足が。



 ――――とはいえ、ゴリラに頼むわけにはいかぬ。


 あのじゃちぼうぎゃくのけしんに、おんぶしてと頼むのは流石に少女のプライドが許せなかった。


 ――――さりとてゴッドに頼むわけにもいかぬ。やつは現在絶賛ゴリラとハッピーセット中だ。加えてお金を貰っておきながら、『天城』編での密偵役をろくすっぽ務められなかった手前、今のゴッドを足役には頼みづらい。


 ――――ならばアル姉か? 論外だ。我が尊敬すべき義姉ニートは、働かない。働かないからこそアル姉なのだ。アル姉におんぶしてもらう程の功徳を未だ己は積んでおらぬとユピテルは自認している。義姉におんぶしてもらえるような存在がいるとすれば、それはきっと神をも超えた何かなのだろう。



「(ボスは序列的にりーむー。ハーロットのオババは、真っ赤な車を走らせてどっか行ってる。義母マミーは、会社)」



 気づく。ユピテルをおんぶしてATMまで連れてってくれる人がいない。

 普段、足役をゴリラに依存していたツケがここに来て少女を窮地に追いやった。



「(だれか、だれかおらんのか。ワタシをおんぶしてくれる人は!)」



 かつてない窮地にユピテルが途方に暮れかけたその時、





「ウィーっす、師匠。遊びに来ましたよー」





 救世主が、玄関口から現れたのである!





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・歩けユピテルは、木、日の週二更新でお届け致します!




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