第二百十一話 天城の神々と天翔ける最新の神話達11
◆
戦況は、大きく冒険者側に傾いていた。
三界を渡る双龍が撃破された事で、各神域の冒険者達の活動は更なる活性化を見せ守護者達を圧倒。
火龍の少女が休憩と称した僅か数分の間に、第五、第九、第十神域の守護者達は切り札である『再解釈』を発動するも、一向に天秤は覆らず。
更に七分後、双龍討伐メンバーの復帰に伴い更に状況が悪化した事で、第二陣の実質的な敗北は決定的なものとなった。
第五神域『怨讐愛歌』――――怪物女王の軍団生成は、火龍の少女の力を
『再解釈』に伴い獲得した“千の怪物との一体化”も、セイテンタイセイの巨体分身による肉壁と『亡霊戦士』達による的確な妨害行為に阻まれ、本領を発揮できず、あえなく強化された《
本来、ガイアは起動時に産卵した無数の怪物達を基点として「強化」、「改造」、「怪物同士の融合」等の高速展開を得意とする“盤面形成特化型”の
武装した怪物の集団による数の暴力で
生産する傍から、耐性を越える超高温によって燃やされる。
地母神を焼き尽くす劫火の名が“
第九神域『混沌空亡』――――あらゆる事象を混沌へと変換する闇の巨人の展覧会は、しかしながら神獣の暗殺者による淀みない“殺し”によって、徐々にその規模を収縮していく運びと相成る。
たとえ火の雨が降ろうと、氷の剣山が大地を穿とうと、暗殺者が窮するのは口だけだ。
カオスのもたらす“混沌の規則性”をとうに把握し終えた彼の動きは秒を追う毎に洗練となり、戦いの在り方は神の試練から、(彼にとっては退屈な)解体作業へと成り果てる。
相性という観点から見ても、彼等の相性は“最悪”だった。
あらゆる事象を別の
荒野に吹く微風を溶岩の大波に書き換える事は出来ても、敵を直接豚に変える事は出来ない。故にカオスの攻撃は、常に
そして混沌の偽神に課せられたこの“縛り”は、“それに伴う連続性のある事象”においても同様に作用する。
例えば暗殺者の用いる《空間転移》。これが彼を含めた冒険者を対象として扱われた場合、それは【冒険者の移動行為】として定義される為、カオスの法則は働かない。
近接攻撃についても同様だ。敵の
この“縛り”は
事象も、生命も、あまねく全てを別の
その隙を、完膚なきまでに突かれた。
《空間転移》、近接戦闘の申し子、そして「あらゆる妨げをなくす」という『虚空』の
全てが鬼門だった。開闢の巨神の強みを尽く打ち消し、口だけは道化を気取りながら着実に神の解体を進める暗殺者。
そしてカオスのパーツが滅び去り、『再解釈』による真の肉体を混沌の神が取り戻したその刹那、烏の王が現れた。
搦め手を捨て去り、天に達する程の巨体を得た混沌の化身は、しかしながらその代償として直接攻撃以外のあらゆる選択を失う。
技術を持たない近接攻撃は、全て烏の王の【四次元防御】を用いた“
全てが、混沌の神を殺める為に作り上げられた“計画”だったのだ。
まるで予定調和の如く、カオスの躯体が
――――その終わりすらも、彼等の意のままに。
第十番神域『物換星移』――――あらゆる星座が集められた星の大海において繰り広げられた壮大な空中戦の勝敗を分けた鍵は、元も子もない程単純な出力差にあった。
“創星王”『ウーラノス』。全ての星を統べる万神の父が放つ幾千の
常人であれば、正しく認知することすら叶わない激しい術式の応酬。序盤こそ
相殺が一方的な打ち消しに変わり、やがて少女の放つ黒雷が、“創星王”の術式を二度三度と重ねがけても抗えない強度を得た。
これが意味するところはただ一つだ。
即ち、この十番神域における戦いの中で、これまで少女は
そして今、その隠されていた牙は何らかの条件を満たした事により解放された。
爆ぜる雷。星の光を穢す黒。
轟く奇声と共に形成された漆黒の杭が“創星王”の玉座を喰らい尽し、ウーラノスの
彼は、そこに簒奪者の影を見た。
オリュンポスの闇。骨肉の争い。王位の簒奪。
その果てに栄えた
そして、僅かな時を経て火龍の少女が現れた瞬間、“創星王”は己の運命を受け入れた。
◆
間もなく第二陣は崩壊を迎える。
蘇りし十二神の内、既に六柱が破られ、解放されし三柱も最早風前の灯。
対する冒険者陣営に脱落者はなく、あまつさえ掟破りの
戦況は、火を見るよりも明かであった。
オリュンポスVS冒険者
その勝者は
◆◆◆◆ダンジョン都市桜花・第百十八番ダンジョン『天城』最終層・杞憂非天・第零番神域『天城神羅』・中枢コア
――――問題なく、我等であろうとオリュンポスの思考回路は結論付けた。
輪転する無数の歯車、コアの表面に描かれた全神域の
真珠色に輝く全長二百メートルの球体は一定の点滅を繰り返しながら、彼等の戦力を分析する。
――――やはり、何も問題はない。仮にこの先彼等が数倍、あるいは十倍の出力を発揮できたとしても
九神の突破、大いに賞賛する。
原理不明の徹底的な
だが、それらによって己が
ありがとう、と。
よくぞここまで来てくれたと。
それは元来“究極の排他性”を持つオリュンポスが決して侵略者に抱くはずのない感情だ。
だが、彼はこの時冒険者達に深い感謝の念を抱いていた。
――――ようやくだ。
――――ようやく“彼女”を解き放てる。
『■■隠蔽。■■神格ミネルヴァを
この躯体となって、“偽史統合神殿”オリュンポス・ディオスへと至った事で獲得した偽神製造能力。
己が描く夢と可能性を繋ぎ合わせる事で作り上げた“夢のオリュンポス”の住人は、しかしながらダンジョンの神が課した“制限”の贄となり、その在り方を著しく狭められた。
兵器としての運用制限。
各フェイズ毎の段階制限。
そして条件を満たさない限り、彼等を目覚めさせる事が出来ないという絶望的な枷。
特に彼女は、オリュンポスが愛した純潔の女神の“夢”は、【第三陣以降にのみ発現可能】という冷厳極まる条件が課せられている。
――――どれだけオリュンポスが“夢”を描いても、最も慕っていた彼女に会う事が叶わない。
なまじ力を得て、希望の光を灯したばかりに、彼の絶望は深かった。
彼女に会えない。彼女に会えない。彼女に会えない。
――――しかし、その日々も間もなく終わる。
そして都合も良かった。
程々に知恵があり、第二陣を突破できる程の力を持ちながら、されど絶対に
知略など無駄だ。
対抗策など皆無である。
彼等はオリュンポスにかけられた枷を解き、そして終わる。
問題はない。何一つとして。
故に後は
「「随分と機嫌が良いじゃないか、オリュンポス。我が旧き友よ」」
神域に響き渡るその声にオリュンポスは、反応を示さなかった。
「「おいおい。冷たいな。この私が
ダンジョンの神。
数多の次元を産み出し、オリュンポスの世界を創世し、そして幾度となく破壊を繰り返した恩讐の彼方。
「「まぁいい。いつも通り――――あるいは、これが最後になるかもしれないが、私が一方的に話すとするよ」」
彼/彼女は言った。重々しく/けれども弾んだような声で
「「おめでとう。ようやくお気に入りの
オリュンポスは反応を示さない。安い挑発に乗ってやる義理もなかった。
「「勝手に拝見させてもらったが、君が彼女の為に作り上げた
だから、どうした。空が青いと言われて、空が喜ぶとでも思っているのか。
世辞としても気味が悪い。思えばこの男/女は、いつも
「「ただ、完全ではない」」
空白が生まれた。認識の後に咀嚼が入り、そして怒りが排泄物となってドロドロと『天城』の思考回路を乱していく。
「「ゲームマスターとして彼等に理不尽な不利益を
あり得ないと霊力を焔のように滾らせながらも、オリュンポスの合理的な精神は念の為に彼/彼女の忠告に耳を貸した。
「「ゲームのルールを洗いたまえ。合理性のない選択を疑いなさい。そして、――――あぁ。これは言うまい。流石に野暮だ」」
二人分の笑い声が『天城』に響く。
「「良いかい、オリュンポス。人間は君が考えるよりもずっと小さく、そしてすごいんだよ」」
◆◆◆
そして
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