第百六十話 ステータスオープン
◆ダンジョン都市桜花・第百十八番ダンジョン『
白状すると、花音さんの申し出は俺にとっても渡りに船だったのである。
空樹花音。
無印ダンマギのメインヒロインであり、正史の
というより『天城』の物語自体が、空樹花音ルートの
ここで起こる“亡霊戦士事件”を始めとした諸々のいざこざが、実は彼女の過去と繋がっていて――――というのがダンジョン『天城』のシナリオ的な役割ではあるのだが、今回大事なのはそこじゃない。
俺が花音さんをBチームに採用した最たる理由は、彼女が、『天城』のボスに対する
そりゃあそうだよな。
自分のルートに出てくるボスキャラなんだから、相性が良いのは当たり前だ。
加えて『天城』のボスから入手できる
それこそ旦那達が攻略している『嫉妬』の魔王と比較しても遜色ない程度には、『天城』の天啓は強いんだ。
だから俺は真っ先に彼女を選んだんだ。
強力な天啓を落すボスを倒す為の
その役割を全うしてもらう為に行った彼女への
“かつて失った自分の力を徐々に取り戻していく”という他キャラクターとは違う設定の成長進行を持つ花音さんの育成は、元より単純な雑魚狩りだけではどうにもならないリミットが存在する。
彼女はレベルだけでなく、イベントを通して成長していくキャラクターなのだ。
故に彼女が伸び悩んでいるのはある意味では正しく、だが同時に予想外でもあった。
考えてもみて欲しい。『天城』は、花音さんのシナリオステージである。
出てくるボスキャラ達は、最終階層守護者も含めてどれも相性の良いばかりであり、それは彼女が届かなかった二十五層のボス『タロス』にしても例外ではない。
『タロス』は典型的なステータス重視型のボスである。
二段階変身と、多彩な攻撃、そして複数の防御能力から一見すると面倒くさそうなボスに見られがちだが、その実奴の攻略方法は捻りもクソもなく“火力で殴る”、それだけなのだ。
なので、あの時彼女がタロスを倒せなかった理由は単純に不足していたから――――そう結論づけるのが一番手っ取り早いだろうし、だからこそ彼女も自主連という名の狩りに出かけようとしたのだろう。
間違っているとは言わない。花音さん程の才媛ならば、その手法でもやがては必ず『タロス』を倒せるようになるはずだ。
幾ら相性が良かったとしても、本人の性能が伴わなければボスには勝てない。
そして彼女が十全に機能しないというのであれば、別解を用いてボス攻略に臨むべきだというのが、ナラカの
いや、今でも基本的にはそっちの方向で対最終階層守護者戦を想定している。
だけど、花音さんの秘められた才能を誰よりも知っているのもまた、俺なわけで、だからこそ「もったいないな」と思っていたわけですよ。
だもんで、彼女の申し出はさっきも言ったようにマジで渡りに船だったのさ。
強くなりたい彼女と、彼女を強くしたい俺。
需要と供給が、ここにカッチリと結実したわけだから後は同じ方向に向かって進むだけ。
その為には、まず――――
「一度、君自身を見つめ直す必要があると思うんだ」
部屋から持ってきたタブレット端末を起動し、現段階での「空樹花音」をまとめたデータファイルを彼女に見せる。
◆
・空樹花音
・契約精霊:アイギス(亜神級中位)
・能力特性:守護――――盾や鎧、そして“守護者”を生み出す能力。
・《
①
風の如き速さと、小規模の嵐を起こす強襲形態。推定速度は亜音速級。スピードが群を抜いている半面、攻撃力自体はそこそこで、防御面に関しては極めて脆い。手数と攻撃範囲で翻弄し、次へ繋げる隙を見出す形態。
②
巌の如き頑強さと、何物をもなぎ倒す英雄の膂力を得る物理特化型形態。攻撃と防御面以外(特に敏捷性)のステータスが極端に下がる代わりに、物理攻撃値に大幅なプラス補正が入る。推定膂力は、<骸龍器>の四割強。
③
弓型の光線を放つ牽制形態。手先の感覚と集中力が達人の領域まで高まり、極めて精度の高い射撃術を使いこなせる。鋼鉄製の的の中心を一キロメートル先から狙撃し、これを見事破壊した。
④
巨大な大筒から桜色の巨大熱術を放出する砲撃特化形態。基本フォームの中では最も高火力を出せるカテゴリーである。熱術の火力は、ユピテル(『破界砲撃手』のロール能力込み)の通常砲撃とほぼ同等。
⑤
斬撃特化型。武器は双剣の柄、属性は水、特化ステータスは技巧。
双剣の柄から流体の刃を放出し、半径数十メートルの射程範囲で敵を切り刻んでいく高速戦闘スタイル。殲滅戦、巨大ボス戦、そして白兵戦とマルチシチュエーションで使えるフォームでもある。
・《アイギスの盾》――――盾の生成能力。あらゆる物質に“アイギスの盾”という属性を付与する。“アイギスの盾”となった物質は、亜神級中位級の防護能力が付与される。また、空気を触媒として菱形の白盾を形成する事も可能。最大同時展開数は三。
・専用ロール:『英傑戦姫』――――リミテッドロール。自身の防御ステータスを大幅に向上させる常在発動型スキル【戦女神の守護】と、再生能力活性化型の《
・保有レガリア
①<
盾の天啓。第一能力『防衛領域形成』によって使用者の防御力と生命力を増強し、第二能力『活殺領域展開』によって<
②<《
身代わりの天啓。現界中は体内に砂時計の概念物質が形成される。
自分にかかるダメージを一定期間無効化し、そしてそのダメージ量に応じた割合の“病”を術者に付与する諸刃の盾。無効化能力には限度あり。
・戦闘比較値(順位はBチーム内でのもの)
基準物理攻撃力:4位
最大物理攻撃力:4位
基準霊術攻撃力:3位
最大霊術攻撃力:3位
基準物理耐性:4位
最大物理耐性:2位
基準霊術耐性:4位
最大霊術耐性:2位
基準敏捷値:4位
瞬間最大敏捷値:4位
殲滅戦適正:4位
白兵戦適正:4位
戦闘技巧:3位
戦術立案:3位
特殊能力:5位
妨害能力:5位
射程:4位
攻勢戦闘支援:3位
防勢戦闘支援:2位
◆
花音さんは、
防御と回復性能に秀でたバランスタイプのステータスで、良くも悪くも全てにおいて、そつがない。
フォームチェンジによる性能変化も相まって、本来の彼女はあらゆる状況下で特化型と同等の働きをしてくれるスーパーユーティリティプレイヤーだったのだ。
そんな彼女が何故今のような器用貧乏に転落しているかというと、それはもう
遥やユピテルのようなスペシャリストは言わずもがな、旦那やナラカのような総合能力の化物、回復や支援ならばあの聖女様が他の追随を許さないし、得意の防御方面に関しては……ほら、【四次元防御】があるでしょ?
だからさ、花音さんがパッとしないのは彼女自身の
――――強いて、欠点を挙げるとするならば、それはもっと別の部分であり
「やっぱり、私ダメダメですね」
「そんな事ないよって言っても……君は納得しないよね」
桜色のポニーテールが縦に揺れる。
そう、これだ。
今の花音さんは、自信というものを完全に喪失している。
持ち前の真面目さと芯の強さが良い方向に働いてくれているおかげで、一見まともに戦えているかのようにみえるかもしれないが、『本当の彼女』はこんなものじゃない。
あの“蓮華開花”や“最狂物理”にこそ後れを取るものの、それでも
過去に負った心の傷が元で、自分を歪めてしまった少女――――その歪み方は、原作の
誰かに排斥されて、毎日自分自身を傷つけ続けたという辛い記憶は、今も彼女の心の中で暗く、深く、澱のように留まっている。
そいつを恥知らずにも「ウジウジすんなよ」の一言で片付ける事なんて俺には到底出来ないし、だからといって
だからこそ“仕事を通した達成感”という形で彼女の失われた自信を取り戻していく方向で動いてきたわけだが、何度も言うようにこの手法は先の
そして今日の三十層戦、アレは相当堪えただろう。
一生懸命元気なフリをしていたが、あの時の花音さんがどれだけ無力感に
幾ら才能があろうとも、どれだけ不思議な異能を持とうとも、彼女は十四歳の少女である。
父親を亡くし、信じていた仲間達に裏切られ、何も知らない馬鹿共達にある事ない事言われた挙げ句に、深い自責思考に囚われてしまった女の子が、ここまでまともな事が奇跡なのだ。
花音さんは頑張っている。頑張りすぎる位に頑張っている。
ちょっと下を向きながら、それでもひたむきに前へ進もうとしている彼女の事を一体誰が責められようか。
だから
「ねぇ、花音さん」
だからほんの少しの
「あくまでこれは仮設段階の話なんだけどさ、一つ俺に妙案があるんだ。上手くいけば、君の
どうか大目にみてくれ、カミサマよ。
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