第百九話 選択の時間










 選抜試験が終わり、晴れて六人のメンバーがウチのクランに籍を置く事になった。



 選抜メンバーが五人と、スカウト枠が一人。



 設立時のメンバーと合わせたら合計十人である。


 いや、二桁ですよ二桁。すごくないですか二桁?


 しかも、その内九割がボスキャラだぜ?



 やべぇよウチのクラン。


 面子だけ見たら、どこに出してもおかしくない立派な魔王軍だよ。



 そんな奴ら集めて真面目に冒険者活動させようとしてるんだから俺ちゃんも大概おかしいし、何なら空樹さん以外全員世界の敵おかしい



 その空樹さんにしたって、現段階だと非常に敵の多い立ち位置だしなぁ。


 古巣はもちろん、あの事件の真相を知らない人達からもやいのやいのと言われているし、何故だかウチのクランにも若干一名猛烈な反対派がいる始末。


 特にウチのクランの反対派がヤバさといったら、そりゃあもう……ね。



「ダメ、絶対ダメ。あの女を入れるつもりなら、その前にあたしが【とても殺伐とキル切るした言葉】。そもそもなんで、なんであの女が烏合の王冠ウチに入り込んでるの? おかしい、おかしいよ。あれだけ確認したはずなのにっ」




 と、このように遥さんの拒絶っぷりは、常軌を逸していた。


 嫌いとか不愉快とかではなく、完全な拒絶。


 あまりにも一方的に拒むものだから、過去に彼女と何か因縁めいたものがあったのかと尋ねてみたんだ。



 そしたら



にはない。というか会った事すらない。でもあの女はダメ。絶対にダメ。ダメったらだめ」



 何がダメなのか、あるいはどうしてダメなのか、そう問うてみると決まってウチの彼女は「キミが取られるから」と答えた。



「あたしの命よりも大切な、世界で誰よりも好きな人をあの女は取ろうとしている。そんなの許さない。絶対やだ。凶さんは、あたしのパートナーだもん」



 正直、何を言っているかチンプンカンプンだったよ。


 俺が遥以外の誰かを好きになるなんてあり得ないし、更に言えば空樹さんがチュートリアルの中ボスに懸想けそうを抱くなんて展開はもっとあり得ない。



 だけど遥は俺の説得にまったく応じてくれなくて、今にも暴れ出しそうだったから、仕方なく俺は、俺は――――





「凶さん、しゅきっ」





 ――――俺達の動物さんごっこは次のステージへとインフレしたのである。





 デートして、お揃いのペアリングを買って、動物さんごっこ(バージョン2.0)を三日三晩やり続けて、更には耳元でずっとずっとずーっと愛を囁き続けて、それでなんとか怒れる乙女のハートを鎮める事に成功した俺ちゃんは本当に頑張り屋さんだったと思う。



 吾輩は童貞で、彼女は処女だが、それ以外の事は全部やった。


 なんだったら、他の――――オーライ。下世話な話はここまでにしよう。



 今知っておくべき情報は、ウチの彼女は空樹さんの加入に反対していて、だけど俺の説得に免じて今のところは矛を収めてくれている…………それだけだ。





「お疲れ様です、マスター。最近のマスターは本当に良く頑張っていると思います。どれ、たまには私が肩でも揉んであげましょう」





 一方、何故だか邪神が少し優しくなった。



 訓練中も、俺が頼めば三回に一回くらいの頻度で金的を止めてくれるし(前は、文句を言うと回数が増えた)、時々おやつをくれるようになったし(前は積極的におやつを盗りに来ていた)、この前なんて俺の推しているネット声優“天日白あまびしろ”さんのサイン色紙をくれたんだよ。



 もちろん、邪神のやる事だ。絶対に裏がある。


 そう思って、ド直球ストレートに問いただしてみたところ、裏ボス様はいつもの鉄面皮でこう仰ったのだ。



「別に裏なんてありませんよ。本当に感謝しているだけです。『常闇』での戦いに続き、今回もマスターは私の期待に答えて下さいました。故に私も少しだけ従者らしく振舞おうと思ったまでの事です」



 アル曰く、従者このモードは期間限定らしい。


 なんだったらずっとそのままでもいいんだぞ、と半ば本音を交えてからかってやったら「調子に乗るな」と第三人格を蹴り飛ばされた。



 クソが、何が従者らしくだよ。お前ほど主の黄金玉急所を蹴ってくる従者キャラなんて俺はしらねぇぞ。




「それはフィクションの中だからです。現実の従者は暴言も吐きますし、愚子息ぐしそくも蹴り飛ばします」

 


 そんな奴は二次元にも三次元にもいないと常識を説いてやったら「残念ですが、私は四次元系なのでその理屈は通りません」とほざき散らかされた。



 なんだかんだと言いながら、結局はいつも通りの平常運転。


 

 邪神様は、いつだってフリーダムである。







 さて、そんなこんなで何とか無事最初の関門を乗り越える事に成功した“烏合の王冠Crow Crown”。



 歴代ボスキャラ九人に、何故か混じってしまったメインヒロイン一人というあまりにも尖りまくったメンバー構成に、正直俺自身が一番ビビっているのだが、しかしだからといって何もせずにダラダラと手をこまねいていたら、それこそ宝の持ち腐れだ。




 俺は自分の目的を叶える為に、奴らと協力して地獄のようなダンジョンを攻略しなければならない。



 しかも期限は半年。その間にぶっ壊れ天啓をかき集めて~の、五大ダンジョン二つクリアーして~の、というどう考えてもガキの妄想みたいな戯言たわごとを実現しようとしているのだから、我ながら本当にイカれている。



 とは言え、急いてはことをなんとやら。


 焦りすぎて足元を疎かにしていたら、叶う願いも躓いちまう。


 だからまずは、土台作り。


 ボスキャ達とコミュニケーションを取ってある程度仲良くなっておく必要がある。



 ……いや、仲良くなるってのは少し語弊があるか。



 正しくは、ビジネスパートナーとして認めてもらうって感じかな。



 一応、俺が作戦立案担当なんでね、役者としては不相応かもしれないが、それでも探索中は俺の指示に従ってもらわなきゃ困るのよ。



 でもだからといって、よく知らない年下中学生(今回入ってきたメンバーは空樹さん以外全員年上だ)の言うことを聞けっつっても難しいじゃん。




 だから俺ちゃん考えました。どうすればみんなと仲良しになれるかを!



 まぁ考えたと言っても、この空前絶後のギャルゲー紳士の辞書にそんなパリピメソッドは一行もなかったのでね、結局は親睦会を開くという斬新さの欠片もない結論に落ち着きましたよ、えぇ。





◆清水家




 そういうわけで十月某日、我が家に歴代ボス達が集まることになった。




「お邪魔しますっ! 本日はお招き頂き誠にありがとうございますっ」



 午後十六時、パーティ開始の二時間ほど前。



 外住み組の中で最初に我が家の門扉を叩いたのはラスボス聖女、ソーフィア・ヴィーケンリード。


 ライトグリーニッシュブルー色の長髪をおさげにまとめた白ワンピースの少女が玄関に現れた時、俺は一瞬時が止まったかのような錯覚を覚えたよ。



 清楚だ、清楚という概念を擬人化したかのような清らかさだ。


 後、なんか知らないけど髪の毛と同じカラーリングをしたキラキラ粒子が舞っている。


 ウチの彼女もたまに飛ばすんだけど、なんなんだろうね、コレ。



 まぁ、綺麗だから全然良いんだけどね。



「すいません、ちょっと早く来すぎてしまいましたか?」

「いや、全然そんな事ないよ。むしろ絶妙なタイミング。丁度さっき下準備が一段落ついたところなんだ」

「そう言って頂けると、とても嬉しいです代表様」

「あーっと、俺のことは凶一郎でいいよ、代表っていうと一応叔母さんもそうだしさ。かといって清水呼びだと被るやつが多すぎるから、凶一郎で」

「わかりました、凶一郎様。では、わたくしの事も気軽に“ソフィー”とお呼びくださいまし」



 屈託のない笑顔で、俺のことを“凶一郎様”と呼ぶラスボス系聖女。




 あぁ、良い。凶一郎様呼びすごく良い。

 というか、やっぱりこの声。滅茶苦茶来る。

 “ばぶみ”っていうのかな、少しでも油断したら心を全部さらけ出してママって呼んでしまいそうな聖母的魅力が、彼女の全身に満ち溢れているのだ。



「それじゃあ、ママ……じゃなかった、ソフィーさん、上がって。客間に案内するよ」

「はいっ、あっ、こちらつまらないものですが」

「あっ、わざわざどうもすいません。んー、それじゃあ挨拶がてら先に姉さんのところ行こうか」

「はいっ」



 心地のよいウィスパーボイスが俺の脳を揺らす。


 これ、やべぇな。下手な音声作品よりよっぽどくる。






「おっ、お邪魔しますっ! “烏合の王冠”所属の空樹花音でありますっ!」


 

 その約一時間後、堂々の二番手としてやって来たのは我らがメインヒロイン、空樹花音さん。


 軍人のような語り口で、おまけに玄関前で敬礼まで決めていたものだから、つい笑いそうになって――――



「あっ」



 そしてその笑いは一瞬で引っ込んだ。


 彼女が身に纏っていたのは桜色のパーティドレスだ。



 際立って華美というわけでもないのに何故だか目を離したくないと思ってしまうのは、きっと着こなしている人間が、この上なく上品だからだろう。



「あのっ、これ、おかあ……母が用意してくれたものでして、折角のパーティなんだからおめかししていきなさいって……」

「あぁ、すごく綺麗だ――――と」




 心の底から涌き出てきた感想を告げるよりも早く、そのが飛んできた。




「あの、清水さん?」

「オーケー、空樹さん。大丈夫、ここには君の敵なんていない。そして俺の彼女は世界一可愛い。なっ!」



 そうだろ、と姿の見えない誰かさんに聞こえるくらいの大声で言葉を並べる。



「…………」




 殺気が、止んだ。

 どうやら、ひとまず収まったらしい。


「……えっと、どうかされました?」

「あぁ、うん。問題ない。どうやらお許しが出たみたいだ。とりあえず上がって。客間のほうに案内するよ」

「はいっ」



 元気一杯という感じではないが、とても楽しそうな笑顔。



 この時代の彼女が、年相応にはしゃいでくれている。


 だったらきっと、あの時の選択は間違ってなかったんだろう…………なんて欺瞞的な感情に浸りたいところだが、今はそれどころじゃない。



 くそ、空樹さんがウチの敷居またいだだけでコレかよ。



 こりゃあ、一回(場合によっては、二、三回)満足させてやんないと、多分持たんな。



 俺は空樹さんを客間までエスコートし終えると、急ぎ足で彼女の部屋へと向かった。









「お邪魔するよ、リーダー」




 それから十五分後ぐらいに旦那がやって来て




「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」




 更に十五分後くらいに組織のエージェント野郎が顔を出し




「……………………」



 パーティ開始の十五分前くらいになると、いつの間にか神獣の暗殺者が食卓に座っていて




「来てやったわよ。愚民共! さぁ、このアタシを精いっぱいもてなしなさい! まぁ、といってもアンタ達程度の――――(以下略)」




 そしてパーティが始まる瀬戸際ギリギリのタイミングでドラゴン娘がやって来た。




 九人のボスキャラと二人のメインヒロイン(ヒロインの片割れ? もちろん姉さんさ!)が我が家の食卓を囲む姿は、そりゃあもう、迫力たっぷりだったよ。



 しかし我ながら良くもこれだけ……



「あれ?」




 そこで一人足りないことに気づく。




 ウチのクランに籍を置いているボスキャラは全部で九人だが、清水家には邪神様がいる。



 だから九という数字はおかしくて、というかそもそもいないの俺の彼女はーたんじゃねぇかっ!




「ハルカは、なんか準備してる。遅れるから先やっててって言ってた」



 自家製のポテプッチをガン見しながら、俺の抱いた疑問に答えるチビちゃん。




「準備? 何の?」

「おんなのたたかいするための」



 そこはかとなく物騒な単語が飛んできたので、聞かなかった事にする。


 せっかくの宴会なんだもの。楽しくやりたいよね。



 その為には、まず代表の俺が積極的に(けれども、なるだけウザくなり過ぎないように)新メンバー達とコミュニケーションを取る必要が……いや、必要とかそういう問題じゃねぇな、普通にこいつらと絡みたいんだ、俺は。



 


 中でも一番、気になるのは…………。









 ―――――――――――――――――――――――



沢山のご応募ありがとうございましたっ!

皆様の投票によって選ばれたキャラクターと、次回凶一郎が絡みます!

(*´∀`)♪

 

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