第百十話 選択の結果







◆清水家




 色々と考えた結果、俺はまず空樹さんの元へと向かった。



 鬼の居ぬ間の洗濯というわけではないが、誰かさんの見てる前だと喋りづらい雰囲気になるだろうからさ、今の内に済ませとこうかって思ったわけよ。



 それに面子が面子だからな。

 ボスキャラ軍団の中に一人混じった主人公サイドって、やっぱり異質というか、ちょっと浮き気味なんだよね。



 今だってほら……



「あの、ユピテルさんはこの食べ物がお好きなんですか」

「すき」

「へぇー、そうなんですね。あっ、あの私も一つ頂いてもよろしいでしょうかっ」

「みんなで食べるやつだしいいんじゃねーの」

「あっ、ありがとうございます。……あっ、これすごく美味しいです。じゃがいもの甘味がしっかり感じられて、塩気も丁度良い。すごく手間の込んだお料理ですね」

「『ポテプッチ』はチンぞ」

「…………」

「…………」

「あっ、そっ、そうなんですねっ。いや、でも本当に美味しいれすっ、ぐすっ」



 いや、いたたまれねぇよ!

 なんだこの空気はっ!


 

 チビちゃんは全く気を遣う様子がないし、空樹さんはなんか空回ってるし、ていうか何故そっちに行ったんだ空樹さん! 

 言っとくけどユピテルはかなり上級者向けのキャラなんだぞ。



 あいつ人見知りする上に、常にゴーイングマイウェイだから、強靭なコミュ力か折れないメンタルでも持ってないと空気が死ぬんだ。



 初心者は大人しく姉さんか遥――いや、ダメだ。あいつは何故か空樹さんを目の敵にしているから一番鬼門だめだったわ――それか聖女様辺りにしとけば良いものを、何故いきなり上級者向けコースに出向いて、そしてくじけかけてるんだ。



 くそっ、しょうがねぇ。ここは俺が一肌脱いで二人の仲を取り持ってやるしかないか。




「どう、空樹さん、楽しんでる?」



 俺はドラマに出てくる爽やかイケメン実業家がパーティ的なシーンで百パーセント口にする台詞を吐きながらユピテルの隣の席へと腰を降ろす。



 障子戸を背に折り目正しく座る彼女の姿は、とても綺麗だった。

 ……あぁ、もちろん他意はないよ。綺麗なものを綺麗と思っただけで俺には遥さんという(以下、省略)




「清水さんっ。あっ、はいっ! とっても楽しいですっ!」



 ぱぁっと輝く笑顔の花は露骨な程に分かりやすかった。


 やはり彼女もこのいたたまれない空気に頭を悩ませていたのだろう。

 オーライ、気にしなさんな。



 俺ちゃんが来たからにはもう安心よ。



 小粋なトークと上品な笑い話でパーティ会場を沸かせてやるぜっ☆



 と、その前に。



「呼び方、凶一郎で良いよ。清水だとこいつと被っちゃうし」

「あっ、そうですね。では私のことも花音、とお呼びください凶一郎さん」

「あっ、うぐっ、えっと……」



 俺は視線を泳がせながら隣のお子様にヘルプを仰ぐ。


 どうしよう、いきなり下の名前呼びって色々と不味くねぇかな。



 いきなりやって来て急にキョドり出すとか、我ながらとんだイキり陰キャである。



 でもさ、原作の空樹さんって中々下の名前で呼ばせてくれなかったんだよ。


 それをこんな会って数日で……いや、別に他意はないんだろうし、そもそも俺の方から下の名前で呼んでくれって言ったんだから返しとしては普通だよな? でも、俺なんかが下の名前なんかで呼ぶのは、ダンマギファンとして複雑な気持ちというか、解釈違いというか……。



「まったく、世話が焼ける」



 大きめのため息をつきながら、空樹さんの方に視線を向ける銀髪ツインテール。



「カノン、ウチのゴリラは彼女持ちの癖に女耐性ゼロだから、時たまこうしてバグる。だけど気にする必要はあんましない。しばらくすれば肩の力が抜けて失礼ふつうになるから、気長に待ってあげて」

「あっ、ハイ」

「それとキョウイチロウ、下の名前で呼び合うのが特別フラグになるのはギャルゲーの中だけ。現実では割かし普通。だからそんなにキョドらんでよき」

「おっ、おう」



 そしてチビちゃん、いやチビさんは、箸でじゃがいもの揚げ物を掴みながら俺達二人に向かってこう仰ったのだ。



「気負いなさんな。ワタシ達は同じクランのなかま。これからゆっくり仲良くなっていけばいい」

「チビさん……」



 なんだこの大人な意見。

 

 誰だよ、チビさんが人見知りとか言ったやつ。


 こいつはマジもんのクールロリータだぜ。



 ……そうだな、ちょっとユピテルの言う通り下の名前で呼び合うくらい普通だよな。



 少なくとも、学園ラブコメに良くありがちな『名前で呼び合うことの特別感』的なアトモスフィアは一切ない。




「わかった。じゃあ、花音さんって呼ばせてもらうよ」

「……っ! はいっ! よろしくお願いします凶一郎さんっ」



 あっ、良い。

 名前呼びすごく良い。

 メインヒロインに下の名前で呼ばれちゃったよ俺。

 他意はないんだと分かっていても、特別なことではないんだと理解しても、何だったら俺がそういう風に提案したから呼んでくれているだけなんだけれども




「あぁ、うん。ヨボシク」



 それでも、俺の心は自分でも引くくらいフィーバーしていた。



 まさか「よろしく」を噛むとは、思うまいて。




 それから、俺達三人は、茶系中心の子供向け料理を肴に、冒険者関連の話題で盛り上がった。



 誰が強いとか、この前こんなお宝が発見されたとそんな話。



 特に華やいだのは、やはり“邪龍王”周りの話だ。



 俺やユピテルの体験談を鼻息を荒げながら傾聴する花音さんの姿は、まさしくファンだったよ。



「皆さん、本当にすごいです! 龍種の、しかもそんな初見殺しの塊みたいな敵をファーストダイブで破るだなんて! 先輩方の対応力の高さ、本当に尊敬します!」

「いやぁ、誉めすぎだよ花音さん」

「それほどでもあるぜべいびー」



 後輩のベタ誉めに二人揃って照れる先輩チーム。



 胸の辺りが少しばかりムズムズするが、悪い気はしない。嘘、ほんとは超気持ち良かった。




「しかし、それだけ強力な階層守護者だったのならば、落ちた天啓もかなりのものだったのでは?」




 花音さんの口から投げかけられた質問に、俺とユピテルは互いに顔を見合わせてからめいめいの所感を述べた。



「全体的に高性能だったのは、確かだね」

「こいつのだけ、ぶっちぎりでインチキ」



 お子様が名指しで、俺の天啓を褒めディスる。



「あれさえなければ、この前の模擬戦もワタシが勝ってた」

「いや、まぁ。あの時は初期位置が割と良かったし」




 チビちゃんの場合、距離取ってナンボみたいなところがあるから、初期スポーンランダムの公平試合フェアプレイだと、どうしても勝率が安定しないのだ。


 だからまぁ、俺に負けたとしてもそんなに恥ずかしいことじゃないし、何よりも



「そんなにすごいんですか、凶一郎さんの天啓」

「……そうだね、そこは否定しない」



 旦那の<終わりなき屍山血河ペイヴァルアスプ>にユピテルの<天災をカラミティ齎す者ブリンガー>、そして遥の手に入れた<龍哭たつなき>と、“邪龍王”からドロップした天啓レガリアはどれも強力かつ有能で、『奴』の名に恥じない逸品ばかりだった。



 しかし、どれが一番強い天啓かと聞かれれば、使い手がチュートリアルの中ボスという残念部分を加味した上でもなお、俺は<骸龍器ザッハーク>と答えるだろう。



 ……いや、これは俺だけの意見じゃない。

 邪神も含めたウチのメンバーが満場一致で『ぶっ壊れ』だと認めるだけの力が〈骸龍器〉にはある。



 アルがボス戦で得た経験値リソースを全部基礎スペックの向上に注ぎこんだのも、この辺の事情が大きいもんな。




 ――――下手な新術を会得する必要などありません。今はこの天啓を中心とした、新たなバトルスタイルを磨き上げることに専念致しましょう。



 そんな風に語っていた俺の教官様は、現在寡黙な暗殺者ウロさんと向かい合いながら淡々と料理を食しておられる。




「……………………」

「……………………」




 あれ、楽しいんだろうか?

 あそこだけノリがおひとり様席×2なんだけど。



 ……まぁいい。あっちの挨拶回りは最後にとっておこう。

 今はもうちょっとだけこの三人で話していたい。



「カノンもレガリア持ってる?」

「一応、二つほど」



 アイスのホワイトチョコレートドリンクの入ったクリアグラスを机の上に置きながら、少しだけ気恥かしそうに肯定する花音さん。


 ここら辺は踏みこんでいい話題なのだろうか。

 一応、公にされている情報ではあるし知っている体で話を進めても問題ないとは思うのだけれど、下手に口滑らせてを話してしまう恐れもあるし、やっぱり



「すごいな、どんな能力なんだ?」




 俺は大人しくしらを切る事にした。



 花音さん曰く、彼女の天啓はどちらもスキル特化型らしい。



「ワタシもスキル特化型。おそろい」

「すごい偶然っ。もしかしたら私達、気が合うのかも……」

「そういう捉え方もある、かもしれない」



 お子様とメインヒロインが独特のテンポで仲を深めあっていく様子を眺められて、俺ちゃん眼福です。



 ……いや、マジレスするとそこまで珍しい事でもないんだが、この世界の住人はなにかとゲンを担ぎたがるからなぁ。



 この前本屋で『天啓占い』って本を見つけた時はいくらなんでもニッチすぎるだろと鼻で笑ってしまったが、今の彼女の様子を見るに、案外需要があるのかもしれない。



 でもねぇ、天啓って結局ガチャだからね。

 そりゃあ、ある程度はキャラに沿ってくれるけど、それでもたまに頓珍漢とんちんかんな排出(回復特化のヒーラーにゴリゴリの脳筋武器とか)してきやがる事もあるし、いや……でも待てよ。ここは二人に話を合わせておいた方が




「へぇ、奇遇だね花音さん。実は俺の天啓も半分はスキル特化なんだ」

「あの鎖の天啓ですねっ! 初見での確実な妨害札としての有効性はもちろんの事、たとえ性能を知っていたとしても今度は“認識されない捕縛の鎖”というデータが敵の情報処理能力に負荷をかける…………実に知性的な天啓だと思いますっ」


 思っていた反応とは違ったが、これはこれで気持ち良かった。



 しかしすごいな、花音さん。

 本当に俺達のファンだったんだ。

 嬉しい半面、どういう経緯でそうなったのかが非常に気になる所でもある。



「ねぇ、花音さん」

「はいっ、なんでしょうか」


 にへら、と笑う彼女。

 その微笑む顔がとても幸せそうで、それだけでギャルゲーマニアとしてのクソデカ感情が湧きあがってしょうがなかったのだが、今はそんな事よりも「きっかけ」である。



「あのさ、花音さんはどうして」





「失礼致します」





 しかし、俺の質問は、途中も途中で閉鎖した。



 開かれた障子戸から、とんでもない覇気オーラを纏った誰かさんが現れたからだ。



 降臨した俺の可愛い彼女は、蒼い粒子を振りまきながら真っすぐ空樹さんの元へ歩み寄り、この上なく美しい微笑を携えながら






、空樹花音さん。隣、よろしいかしら」




 ……ひえっ





 ───────────────────────



 選択投票:結果発表



 6位:会津・ジャシーヴィル(13票)


 5位:火荊ナラカ(16票)


 4位:ハーロット・モナーク(22票)



 3位:虚(43票)



 2位:ソーフィア・ヴィーケンリード(63票)



 1位:空樹花音(72票)



 コメント欄票199票+近況ノート票30票


 総計229票



 ───────────────────────



 というわけで1位の花音と2位のソフィーには、それぞれ本編と近況ノートでガッツリ絡んでもらうことになりました!



 いや、もうね229票はヤバい。どなたかも仰っておりましたが、私もこんな数のコメント量はカクヨムで見たことがありません。本当にすごいです!冗談抜きで腰抜かしました。

( ; ゜Д゜)


 それもこれも盛り上げてくださった読者の皆様のおかげです。

 1位、2位は元より今回惜しくも選外になってしまった3位以下のキャラクターにも今後順にスポットライトが当たっていく予定なので、推してくださった方々は楽しみにしていてくださいね(特に虚さんに入れてくれた方々に関しましては、そう遠くない内に彼の色んな部分が見られるようになるかと思います)。



 そういうわけで、おめでとう花音!

 なんか修羅場ってるけど、とにかくおめでとう!


 次回、『チワワと羅刹』おっ楽しみに!


(ソフィーの特別エピソードは、多分4月の……1日に近況ノートでやります。もちろん、全公開の方なのでご安心を!そしてそれとは別に、選択投票の感想戦(こちらも全公開です)をやるかもしれませんが、いずれにせよ告知致します。本イベントに参加してくださった皆様方、本当にありがとうございましたっ!)


















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