66.幸せをお披露目する日

 用意されたドレスのために体を絞ります。ソフトタイプのコルセットですが、それでも紐を引いて結ぶ侍女達は顔を真っ赤にしていました。絞り上げて、細く美しい私を見ていただきたい。いつもより頑張りました。


「王女殿下、締めすぎではありませんか?」


「っ、平気です」


 硬いタイプだともっと絞り上げるので、このくらいは問題ありません。このところ気楽に着れる服ばかりで楽をしたので、体が驚いたのでしょう。少し苦しいですが、気持ちも引き締まりました。


 手早くドレスを着て、整えてもらいます。金髪を結い上げ、髪飾りで固定した上に花を散らしました。白い花を中心にしてもらったので、ドレスに似合うはずです。ティアラと首飾り、小さめの耳飾りを装着すれば完成……と思ったら、お化粧がありました。


 耳飾りを小ぶりにしたので、頬紅を強めに塗るようです。白い肌に粉をはたき、頬や目元に色を載せます。全体的に淡いピンクが多用されました。私の瞳が紫だからでしょうね。まだ未婚なので指輪の類は一切みにつけません。この国で指輪を嵌める行為は、既婚者を意味しますから。


 口紅はローズピンク、上からきらきらしたリップを重ねます。これで艶やかな感じが出ました。


「さすがね、ありがとう」


 お礼を言うと口々に褒めてくれました。社交辞令と分かっていても嬉しいものです。女性は褒められるとさらに美しくなると聞きます。私もそうなら嬉しいわ。


 ノックの音がして、お迎えに来たカスト様を招き入れます。白百合の花束を差し出され、床に片膝を突いた婚約者の格好よさに惚れ直しました。白を基調とした騎士服に、青紫のラインや飾り房が揺れます。金具は金で、両方とも私の色ですね。


 嬉しくて口元が緩んだ私に捧げられた白百合を受け取りました。中に濃紫の百合が混じっています。その独占欲が心地良くて、幸せを実感しました。私の愛した人が、私を愛して大切にしてくれる。その奇跡に改めて感謝しかありませんわ。


「この百合は、カスト様の色ですわね」


「美しい姫が私の婚約者だと誇りたいのです。醜い欲を許してください」


 出会った頃のよう。騎士として忠誠を誓った日もこうして丁寧な口調で、今になると擽ったいです。


「いつもの口調でお願いします」


「わかった。とても綺麗だ、ルナ。エスコートできる俺は幸せ者だな」


 貴族連中に吊し上げられる夜会が怖い。そんな言葉に、私は笑ってしまいました。だって皆様、優しい方ばかりですわ。領地の件もそうですが、その後も気遣ってくださいました。ご夫人やご令嬢とのお茶会もとても盛況でしたのよ。そう説明しましたが、カスト様は複雑そうな顔で頷くだけ。


「……君には優しいと思うよ」


 変な言い方をなさいますのね。そんな雑談をしているうちに時間が迫ったようです。執事ランベルトが、開いたままの扉をノックしました。


「王女殿下、カスト様。もうお時間でございます」


 カスト様のエスコートで廊下に出た私に、ランベルトが「とてもお美しいです。幸せな王女殿下のお姿を、民に見せて差し上げてください」と一礼しました。そうですね。幸せな未来が来ると国民に知らせるため、私達は微笑みを絶やさぬようにしなくてはいけませんわ。自然と浮かぶ笑みは柔らかく、カスト様を見るたびに唇が緩んでしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る