59.お披露目の日時が決まりました
王宮に馴染む前から仕事が山積みのお父様は「だから嫌だったんだ」と逃げ出しました。もちろん、アロルド伯父様にすぐ捕まりましたわ。
「可愛い姫がこの量を片付けたのに、お前はサボる気だと? 先に体力をつけてやろうか」
伯父様のハードな訓練は、メーダ伯爵家の軍でトップの実力を誇る将軍でさえ、青ざめるほど。お父様はぶるぶる震えながら「あの訓練は嫌だ」と執務室に自ら戻られました。それほど凄いのでしょうか。カスト様にお尋ねしたら「地獄のような特訓の合間に、時折天国が見える」と仰いました。体験なさったようです。
地獄の訓練は厳しいという意味でしょうが、途中で天国はよくわかりません。お茶の時間に甘味でも出たのでしょう。そう解釈しましたが、カスト様は困ったような顔をした後「うん、その方が平和だね」と微笑みました。
王族となったシモーニ家は、貴族院の承認を得たばかりです。教会への宣誓も終えていますが、まだお披露目はされておりません。国民へ知らせるパレードを行い、夜会を開いて貴族へ顔見せします。この辺りは、私が王子妃になった場合の予定とよく似ていました。
未来の王妃と呼ばれ、王子妃教育を受けたことが、このような形で役立ったのは幸いでしょうか。王女として王宮に戻り、次代国王の姉として補佐に入ることが決まりました。初代の王位は家族や親族で周囲を固める方が良い、貴族院からの提言です。
この国は貴族院の力が強く、合議制に近い政が定着しています。お父様もこの部分を変える気はなく、王族が貴族院を見張り、国王の独断専行を貴族院が監視する形は望ましいと考えています。私やダヴィードも賛成でした。どちらかの力が強くなると、バランスが崩れて国民が損をするのですから。
「お姉さま、パレードの予定が決まりました。来月の満月です」
「知らせてくれてありがとう、ダヴィード」
駆けてきた弟を受け止め、抱き締めます。まだ幼いと思っていた弟は逞しく、きちんと成長していました。私もしっかりしなくてはいけません。王妃ではなく王姉として、この国を支えていくために。
「ダヴィード、家族だとしても抱擁の時間が長い気がする」
遠回しに離れろと告げるカスト様は、むっとしたお顔です。整った素敵な殿方の顔が歪むのは、残念ですね。頬に手を滑らせれば、犬が懐くように擦り寄ってきました。ふふっ、こうしていると大型犬みたい。立派な大人なのに可愛く感じます。
「あっ、ずるい!」
「狡くない。もう
「抱っこじゃない! 子ども扱いしないでくれ、カスト兄様」
兄弟喧嘩とは、こういったものでしょうか。微笑ましく感じて、見守ってしまいました。どちらの味方か問われて困り、迷っているところに伯父様が首を突っ込みます。
「姫は俺の味方で、俺も姫の味方だ」
「「嫌だ」」
カスト様とダヴィードの声が重なり、おかしくなって皆で笑ってしまいました。お披露目のパレード、とても楽しみです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます