06.決断も理解も遅すぎたのだ
好きな女性が出来た。だから婚約破棄を申し出たのだ。面白味のない澄ました公爵令嬢ジェラルディーナより、ジルダの方が好ましい。何より、好きに抱かせてくれた。体に溺れたと言われても仕方ないほど、ベッドに引き込んで一緒に過ごしたが……。
このような結果は予想外だ。いや、父上から何度か言われていた。
――シモーニ公爵令嬢を大切にせよ。彼女は
ヴァレンテはその言葉を、こう解釈した。シモーニ公爵令嬢は、王太子である自分と結婚するから未来の王妃になれる。ならばジルダをどこかの伯爵家か侯爵家の養女に出して、王家に嫁がせることが可能なのではないかと。王家の第一王子である私と結婚することで、妻となった令嬢は王妃になるのだから。
人前で婚約を破棄したのは、あの取り澄ました顔が歪むのを見たかったのもある。一番大きな理由は、父や王妃が反対しても押し通す覚悟を示すためだった。大勢の貴族がいる場所で宣言すれば、それは王家の決定事項として伝わる。公爵夫妻が騒いでも押し切れると考えた。
今の時点でジルダはまだ男爵令嬢であり、きっと反対されるはず。特に王妃リーヴィア様は許さないだろう。ジェラルディーナを気に入っているのだから。そんなに好きならパトリツィオにくれてやる。
胸に軽く触れたくらいで泣き出し、結婚まで口付けを拒むような女は願い下げだった。そこまで気取る必要はないだろう。ジェラルディーナは私に嫁ぎ、抱かれるのだ。それが少し早まるくらいで、気絶する高慢な女は不要だった。
「まあまあ、何とも恐ろしいことをするものよ。
王妃の言葉にヴァレンテは眉を寄せる。王太子殿下と口にするべきだ。あとで父上に釘を刺してもらうとしよう。前から側妃である母上や私に対して、下に見る態度が酷かった。同情を誘うように倒れるジェラルディーナの姿に舌打ちした。わざとらしい真似をする。
「ヴァレンテ・デ・ブリアーニの王位継承権を剥奪する。王族として幽閉されるか、平民となって王宮を去りモドローネ男爵令嬢と結婚するか。そなたの判断に委ねよう。これが親として最後の温情だ」
何を言われたのか、理解できなかった。父の顔を食い入るように見つめ、意味を噛みしめて理解すると血の気が引く。国王である父上が、公の場で私の王位継承権を剥奪した。それは王太子ではなくなったという意味だ。さらに幽閉か平民か選べと? なぜだ!? ヴァレンテは混乱した。
「どうしてなの?! 私を王妃にしてくれるって言ったじゃない!」
叫ぶジルダの声も遠かった。唐突に理解する。ジルダは私を好きなのではなく、王妃にしてくれる男を選んだだけ。夢から覚めたように、現実が私に押し寄せた。王太子どころか王族でいるためには幽閉しかない。表に出る機会はすべて奪われるのだ。
――第一王子の妻が王妃になるのではない。シモーニ公爵令嬢ジェラルディーナの夫が、王太子になる資格を持つ。王位継承の条件は、彼女を妻に娶ることだ!
「父上、お待ちください。先ほどの宣言は撤回します! ですからっ」
「もう遅い。反省が見られぬゆえ、そなたは王族から除籍して平民とする。達者で暮らせ」
「嘘だっ、嫌です! 父上、父上ぇえ!!」
泣き叫びながら騎士に引きずられて退室する息子を見送り、額を押さえて溜め息を吐いた。遅すぎたのだ。それは国王であるアルバーノにも適用される。
「退位も視野に入れるか」
この騒動を収めたら、第二王子パトリツィオに任せよう。王妃やシモーニ公爵令嬢が補佐を務めれば、問題なく譲位も可能だ。離宮に引き籠るのも悪くない。国王アルバーノは大きく溜め息を吐いた。
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