戦略

エリー.ファー

戦略

 計画、作戦、戦略。

 なんだっていい。

 成功できるなら。


「このままここにいるのは危険です」

「分かっている」

「なら、早く出ましょう」

「出るための手段がない」

「車を使えばいい」

「罠が仕掛けてあるかもしれない」

「そう考えていたら、逃げられません」

「だとしても、簡単に判断をすることはできない」

「死ぬとしても、選択して死ぬべきです。待って死ぬのは一番の悪手です」

「分かっている」

「分かっていません」

「そっちこそ分かっていない」

「分かっていないのはどっちですか。生きて帰ると約束したのでしょう。だったら、今この瞬間に勇気を振り絞るべきです」

「飛行機があった。屋上に逃げよう」

「屋上に逃げる前に捕まったらどうするのですか」

「どうもこうもない」

「今、ここから一番近いのは車です」

「でも」

「決断を先延ばしにすることが、正しい選択と言えますか」

「言えない」

「分かっているなら」

「分かっていても。分かっていても、難しいんだ」

「じゃあ、私が先に車に乗ってエンジンをかけます」

「え」

「それで、車が安全だったら一緒に乗ってここを出ましょう」

「罠かもしれないんだぞ」

「えぇ、ですから私が先に試します」

「いいのか」

「これが得策です」

「すまない」

「謝罪するくらいなら、あなたが車に乗ってください」

「それは」

「意気地なし」

「いや、その。本当に申し訳ない」

「よくその程度の勇気しか持っていないのに、戦いに参加しましたね」

「仕方なかったんだ。周りから行けと言われて」

「最後まで自分で選択できないとは、情けないですね」

「努力はした」

「どんな努力ですか」

「色々だ」

「なるほど。役に立たない努力を色々行ったと」

「嫌味か」

「嫌味以外に聞こえましたか」

「いや、そうだな。もう、何か言える立場ではないな」

「えぇ、その通りです」

「じゃあ、頼む」

「はいはい」




 車、大爆発。

 はぁ、良かった。

 やっぱり罠が仕掛けてあった。

 そりゃそうだよ。あんなところに置いてあるんだもん。乗りなって言ってるようなもんだし。

 乗るバカいないよ。そりゃ。

 あぁ、生意気な後輩を犠牲にして自分の命を守るのめっちゃ気持ち良い。なんだろ、これ。すげぇ清々しい。仕事が終わった後に湯船に浸かってる感じにすげぇ近い。

 明日からあいつの顔を見なくていいのか。

 これで、死んだもんなあ。

 最高じゃん。

 明日から、あいつのいない世界を生きていけるんじゃん。

 超最高じゃん。

 生意気なのに、めっちゃ仕事頑張るから、上からの評価が高くでウザかったんだよねえ。助かった。マジで助かったぁ。ああいうのは、死ぬ以外で職場から消えないからなぁ。

 短気な上に、俺が先陣切って守ってやらなきゃ的な発想のキモい正義バカでマジでよかった。

 最後だけ、使える後輩になってくれて、初めてあいつに感謝できる。

 ありがとう。

 死んでくれてありがとう。

 命を捨ててくれてありがとう。

 それ以外じゃ何の役にも立たないゴミだったけど、なくなれば愛着って少しは湧くもんなんだって教えてくれてありがとう。

 今度の新人は、ちゃんとしたやつが良いなあ。別に仕事とか頑張らなくていいから、上手くやれるやつならいいや。

 神様、どうか一つお願いします。

 使えるやつを下さい。

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