第39話 死角への瞬き
ソイツがした事を俺は今なお理解できない。
「あの外殻を一撃でかよ……なんちゅーパワーしてやがる」
先生並みの速度があった訳ではない。
眼球を抉られた時の奇妙な攻撃でもない。
ただ単純な暴力。
力の限りを尽くした圧倒的な一刀。
だからこそ……[魔術]で満たされたこの空間にてその攻撃はなによりも非現実味を帯びていた。
ーーーーーーーーーー
決着は一瞬だった。
しかし勝負はそこそこ長引いた。
クソ虫……事の発端となった魔物は何故だが頭部を思いっ切り殴打されたような傷があったが恐らくここに異様な登場をした事からするに誰かにぶっ飛ばされたのだろうか。
だとしたらソイツが本当の化け物だな。
ともかく魔物は俺たちと応戦したようにネチネチとした動きで『人形』をその手鎌で捉えようとし、あわよくば切り裂こうとしたのだろう!?
しかし人と遜色ない姿をしてるがやはり何か仕掛けられてるのか、『人形』はノーガードで己の持つ機体の地力だけで切り裂き攻撃を防いだのだ!!
一見、柔らかそうな人の肌だが魔物の巨体から出される力で凶悪な手鎌を引いて、胴体を切断できないと理解するや魔物は吻を伸ばして『人形』の頭を貫こうとした!
流石の『人形』もこれには堪らず回避しようと手鎌の拘束を振り解こうともがいている!
一体どうなるのか絶体絶命です!
「実況のぉ〜稲荷さぁんわは〜どぅうぉ思いますかぁ?」
「え、急にどうしたんですかタロウさん」
まるで酒に酔っ払ってウザ絡みしてくる人を見るみたく先生は固まってる。
失礼だな。
あんな人外バトル、滅多に見られないんだぞ!
興奮して然るべしだろ!?
「然るべしダルルォ!?」
「うっわ……本当にどうしたんですか……」
別にどうって事はない。
ただ気分が紫色の液体を飲んだ父さんみたくHiになってるだけだ。
だからどうって事はない。ちょっと視界が不安定になって来てちょっと平衡感覚が失われて上下左右の空間とか重力とか、
「回るゼェ……アヒャヒャヒャヒャ」
「……もしかして酔ってる?」
先生が何か言ったと思ったら次の瞬間──
ーーーーーーーーーー
まあそんなわけで実際にはどんな戦いがあったのかは途中、いつの間にか気を失っていて、気が付いたら水の中で溺れ死ぬ思いしていたから人外同士の戦いは全編見れてない。
だからこそ、最後に見た『人形』の一刀による瞬殺はかなり印象に残った。
「俺が切っても傷一つ付かなかった外殻を容易く葬りやがった……凄まじい切れ味してやがるぜあの大剣」
「それも有りますが、何よりもその大剣の真価を十二分に引き出した膂力も中々の脅威かと」
不用心にも立ち尽くす姿は勝者にのみ与えられる権限。
『人形』は何処から取り出したのか自身の身の丈ほどありそうな大剣を片手に真っ二つに切り裂いた魔物の血飛沫を浴びている。
(なんの脈絡がないのが逆にこえーな。 虐殺する為に作られたと言っても過言じゃないぞ)
元は草刈り用として作られたらしいがこの惨状を見て、とてもそうとは思えない。
狩られてるの生物じゃねーか。
「まあ兎も角、注意が逸れてるうちにここから離れましょう。 [魔術]の効力があるとは言えいつまでも続く訳ではありませんし」
「了解でーす。 ……ところで先生はアレと戦ってみたいとは思ったりとかは?」
「ないですね。 仮に戦ったとしても力負けしてそのまま大剣でチョッキンされますよ」
「擬音……? あー先生でも戦いたくないんですね」
「私は戦闘狂じゃありませんよ? 成り行きで観戦しましたが、実際見てみて敵いそうにありません……ほら、それよりも用事は済みましたし早い事逃げましょう」
光風はその使用上、編んだ魔力が切れる事で効力が無くなる。
しかし、目測ではあるが上げられた魔力の塊はあと30分は消えることはないだろう。
そしてそれは発動者である先生ならもっと詳しく分かっているはずだ。なのにこの切羽詰まってるかのような感じはなんだ?
「……何か嫌な予感がするんです」
と、俺の心を読んだのか。
先生は告げる。
……つーかそれって、
「口に出したらダメな奴なんじゃね? 主に的中するって意味で……」
俗に言う虫の予感と言うやつか。
はたして気になり歩き出した足とは逆に目を『人形』の方へ向けた先にあったのは──
(……ただ臆病風に吹かれただけか)
予感は予感でしかなく、振り向いた先には何の意味があるのか、大剣を両手に持って素振りした『人形』の姿だった。
(剣に付いた血でも振り払ってんのかな。 でもなんで目なんか瞑って……瞑想って奴か?)
よく分からん動作をしているが、俺に機械の思考回路は理解出来ないのでほっといて注意が向いてない今のうちに逃げるべく、視線を元に戻した時、その異変を見た。
「────────見え……ない?」
ーーーーーーーーーーーー
嫌な予感は最初からあった。
神楽導稲荷がそれを察したのは異界の門から魔物が招来する前のことである。
弟子に対して厳しくし過ぎではないか?
本当にこれが正しい指導なのか?
何を今更。私はこの過程を経て今の強さに至っているのだ。
ならばその経験を弟子に教えるのは何も間違いではないはず。
そう、指導への熱意がある程度収まった事で自分が行っている指導に稲荷が疑問を覚えてる時だった。
「……………?」
ふと、いつもの日課であるお茶を汲んでる最中に茶柱が立ってることに気が付いた。
「……珍しいですね」
異界に精通してる家系の娘である稲荷は茶柱が立つのは縁起の良い事への前触れであるのは当然知っている。
いや、かなり昔であるからうろ覚えでしかないが、それでも良き日を思わせてくれるそんな些細な出来事は精神を落ち着かせるには充分であった。
「でも……なんだって震えが……」
湯呑みには微かな振動が成っていた。
──数時間後──
その日の稽古は少しばかし八つ当たり気味に掛かってしまった。
と言うのも、まるで背中に水が滴るようなむず痒さに似た不気味な気配が稲荷に付き纏っていたからだ。
(はぁ……タロウさんに言い訳してまで不調を誤魔化すとは……我ながら端ないですね……)
気絶したタロウを横目に稲荷は料理の支度をしている。
しかし、止まぬ予感に苛まれて危うく包丁をタロウに落としそうになりため息を溢した。
その後は食事が終わり移動を開始したところで件の魔物が現れたがその時でさえも悍ましく這い寄る予感は止まない。
そして今現在、まるで絵を破いたような切り筋が胴体の横幅を超えてタロウを両断した頃には既に予感の面影は無くなっていた。
「────っ! タロウさん!!」
弟子の作戦、その本質は被害を最小限に抑えるための画策であった。
だが、あの異様な形態をした魔物を見た時、稲荷は最早手遅れではないかと思った。
それでも続行したのは怖かったから。
見知らぬ誰かよりも見知った人を失うのが怖かったから。
「………………」
弟子に綺麗事の教義をし、考えを押し付けた師匠が招いた結果は何よりも恐れた"死"だった。
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