第30話 サービスシーンと言う割には些か体罰が過ぎる

「で、先生。 なんで俺は外に居るんですか?」

「それは私が呼び出したからです」

「先生。 それは俺が重症人なのを知っててした事なのですか?」

「まあ概ねそうなりますね」

「じゃあ病室に戻ってもいいですよね」

「駄目です」


 あぁーー漏らしそうになった!

 今さっきすごい暴言が瞬間的に思いついて漏れ出そうになった!


 だけどグッと堪える。

 そんな事したら今度こそ見限られる気がしたから口を噤んだ。


 そもそも無理な事言って指導してもらってる身なのだ。昨日だって何か琴線に触れることをしてしまったからあんな怒り方をしたんだろう。

 そんな訳で何処から持って来たのか台座の上に乗っている先生はその紫色の瞳を向けてくる。


「タロウさん。 貴方は自分の体が不自然だと言う事を理解なされてますか?」


 不自然?

 いや確かに魔眼なんてのが付いてるから不自然っちゃあ不自然だが、取り立て今この状況で言うことではないだろう。

 まさかそんな異物が付いてるんだから重傷負っていても動けるでしょ的な謎理論か?


「目立った傷は左眼の損失。 ですが微かに腹部にも切れ目が残ってました」

「えっと、それがどうしたんでしょうか?」

「いやですから可笑しいじゃありませんか。 だって傷は塞がっていましたけど自然に、と言うよりは無理矢理くっ付けたような感じでしたよ?」


 それは……そうだろう。

 [魔術]によって回復させたとは言え実際は自然治癒を促進させたってだけだ。

 だから多少は傷痕が残っても仕方ない。


「一体どんな手段を使ったのですのかねぇ……まあそんな訳で片目失ってるけど平気そうなので今日からキツい鍛錬篇始めます」

「スパルタが過ぎる……今までも辛い鍛練でしたけど主に三半規管的に」

「方針の転換ですよ。 これからは全器官に重度な負荷を与えて行く所存です」

「どう言う方針の転換!? 結局、過酷なのは変わっていませんよ!!」


 俺のツッコミを物ともせず、先生は準備運動を始める。

 少子抜けに呆っとその動きを見ていた。どうやら本当にこれからは肉体を酷使した鍛錬も始めるんだなと思ってゲンナリする。


 俺自身、自分の肉体の限界はよく理解しているつもりだ。

 5年に至る自主鍛練は自分と向き合うには充分過ぎる日数で、自分が何処まで動けるかはよく知っている。


 だからこれから始まる指導にあまり気乗りしない。

 いや、別に無意味に身体を動かしたくない〜とかそう言う訳ではなく、ただ単に自分では先生のように戦えないって言う悔しさがテンションを駄々下がりさせていた。


「タロウさん? 準備運動しないのですか今からやる筋肉痛2週間分はある鍛練が始まるのに」

「いえ、したところで俺では習得出来ないと思って……」

「うーん何か勘違いしてますね」

「はい?」


 威厳を出す為に乗っていたのかは知らないが先生は折角得ていた高低差を捨てて台座から降り立つ。

 

「鍛錬は何も身体を鍛えるだけではありません。 体の内側、つまり精神。 心を鍛える物でもあるんです」

「心を鍛える……継続力とか不動の精神とかそんな感じですか?」

「ええ。 確かにそれでも間違いでは無いです。 しかし、態々分類分けしなくとも一言で表せます。 心を鍛えるとはイコールで"強さ"なのです」


 いつもの巫女服ではない先生はご丁寧にも台座を木々の下に置こうとして力が足りないのか持ち上げられずにいた。


 割と大きな台座なので仕方ないと思うが代わりに持ち運んだところ先生は少し赤色したように顔が照れていた。可愛い。


「オホン。 それで、ですね。 私がこれより教えるのは戦闘法や技術、知識なのですがそれらよりも重要に思って欲しいのが『心の強さ』なのです」


 そう言うと先生はタンタンと手を叩いて次の行動を促す。


「さあタロウさん。 鍛練を始めますよ」

「………………その格好で、ですか?」


 先程から気にはなっていたが指摘する暇がなかった為にそのまま進行しそうだったので無理矢理でも止めた。


 一応言っとくが俺と先生が居る場所は民間の病院から離れて街の広場だ。

 人数は少ないがそれでも人が闊歩する場にて、先生は巫女服よりは肌の主張が激しいけど特別露出度が高い訳でもない服を着ていた。


「ん? ……あぁタロウさんは知らないのですか。 これはですね、『タイソウフク』と呼ばれる代物で、異界ではよく運動する時に着用されるとか」


 確かに通気性が良さそうで軽装だからあまり体を阻害しないのだろうが……それにしてもサイズ感がおかしい気がする。


「主に胸元……あ」


 ヤバ!

 つい口に出ちまった!


「………………………」

「あ、あの先生! 違いますから! 決して服と体格が合ってないせいで胸に引き寄せられて裾が足りなくなって露出してる腰や同じく股関節間際まで裾が無くなって見えている程よく肉付けされた美脚に欲情したわけじゃないで────オッッグェ!!」

「態々言わなくても良いですから!」


 焦って言い繕った言葉がさらに墓穴を掘ったところで腹部に腹パン。

 真紅に頬どころか顔全体を染めた先生が殴って来た。何気初めての行為に驚くがそれ以上に腹をかき乱す衝撃に思わず悲鳴が出る。


「オウェ……何も殴らなくても……うぇ」

「放ってたらアレ以上の事を言っていたかもしれませんし、何より女性に対して失言しまくってそれくらいで済ましたのですから優しい方です」

「でも元はと言えば先生がそんな破廉恥な服を────アベシッ!」


 駄目です。と断られた時に思いついた暴言の内の一つが突然の攻撃により漏り出てしまった。

 まあ当然これにも意趣返しとばかりに先生は回し蹴りを俺の顎目掛けて放ち、見事命中して三、四回転がって仰向けに俺は倒れる。


「これしか無かったのです! 身動きに負担が少なさそうで洗濯しやすいの、がっ! これしか無かったのです!」


 だからと言って照れ隠しに殴る蹴るする必要あるか?

 いや俺が悪いにしてもさ?

 些か体罰過ぎるぞ!


「ハァハァ……これ以上続けても恥の上塗りでしかないようですね。 話を変えましょう。 貴方のその異常な治癒能力は魔眼によるものなのでしょうか?」

「この状態で聞くとか無茶が過ぎますよ……」

「五月蝿いです! 早く答えなさい!」

「た、体罰教師………ホラ、治癒の[魔術]があるじゃないですか。 それを使っただけです。 先生もご存知で────」

「ふぅんぬ!」


 打撃音。

 振動。

 俺の頭に尋常な衝撃が走る。


「あーー頭がァァァァァアアアア!!」

「ハァハァ……貴方って人は本当にっ! ………はぁぁああっ! 良いですよもう! 仕方ないですから!」


 よく分からないが割り切ったのか先生が近づいて来る気配がして実際、俺の傍から肩に腕を回して精一杯の力で立ち上がらせた。


「これから話を共通させる事の重要性も教えていきます。 ……から……今は話さなくとも良いですからいつか、いつか話して……ってあれタロウさん顔すっごいグチョグチョですね。 目も朧げで……あ、……すみません」


 俺の意識は途切れた。

 最近気絶したばっかなのに……。

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