第17話 魔剣 一太刀目

 砂塵が舞い散る。

 地表は裂かれ、突風が頬を切る。


「────────────っ!!」


 刻一刻と迫る命の危機に身が硬直するが無理矢理動かし回避する。


 体を捩り、バッグステップ──間に合わない。閉じろ。早く。眼を。


 光景が観える。

 コンマの間に観える景色は先程まで自分が居た場所。

 そこを、鉄塊が通る。


 目を開けた瞬間、世界が鉄塊を拒む。


「まだだ……まだ……終われないっ……!!」


 後ろに下がり息を整える。


 だが、敵はそうはさせてはくれない。

 間髪入れずに次のアクションを起こす。


 身の丈を超える凶器を振り上げ────空振られる。

 それは一見して無害な行動。しかし、現実に干渉する


 毒には毒を。現実には現実を。

 咄嗟に瞳を閉じた俺は思考する。


 百花。俺の目には様々な事物が繚乱するがお前は……『人形』、お前には何が映るんだ? その眼に。





ーーーーーーーーーーーー





「よ、ようやく……成功した……」

「おめでとうございます。 その調子で次も頑張りましょう」


 フラッシャルドから三つほど街を渡り、現在俺は泊まっている宿の部屋で[刻印魔術]の練習をしていた。


「キツい。 吐き気が凄い…」

「でも最初と違って魔力酔いの耐性も付いてきてますし、確実に成長してますよ」

「地道過ぎる……」

「何事も一歩ずつですよ。 では今日のところはこれにて、お疲れ様です」

「は、はい……お疲れ様でした」


 座っている俺の傍らで先生は今日の指導を終えたのか部屋から出ていく前に挨拶をする。


「お休みなさい、タロウさん。 また明日」

「……はい……」


 そう言い先生は出て行った。


「…………」


 ガランと静かになった部屋の中で俺は……机の角に頭を打つける。


「……痛い」


 ドン!と音を鳴り、激痛が頭を駆けるのを感じる。


「これだけやってもまだ、


 ここ数日ずっと治らない眠気に先程の行動で確信する。


「やっぱり……誰かの攻撃を受けてる」


 予兆はあった。

 コズプレッソに居た辺りからだ。あの辺りから異様な眠気と長時間睡眠が起きている。


「疲れから出た……って考えたいけど流石に可笑し過ぎる」


 それに眠っている時の夢の内容も一律して変だった。


「年頃つっても毎晩毎晩あんな淫らな夢を見るはずがない」


 自然と思い出す夢の内容。


 服を脱いだ先生が俺の上に乗って……そこから先を思い出さないように眠気覚ましに頬を抓る。


「駄目だ駄目だ。 決めてるじゃないか俺、神聖なものに負の感情を抱かないように。 って」


 思考を元に戻すべく、ここ数日の事を振り返る。

 と言っても食事や[魔術]の練習、時たま異界の門を鎮める以外は寝ている事が多く、この眠気の原因に心当たりがない。


「順当に行けば旅の最初っからなんだけど……それだとなんで襲ってこない?」


 何かしらの目的で俺の事を狙ってる奴が居るとして、だとしたら何故こんな回りくどい事をしている?


「ふぁあ。 眠い」


 欠伸が出る。

 クソッ……眠くて上手く考えを纏められない。て言うか頭を打つけたから余計眠くなってる気がする。


「……外の空気でも吸えば少しは良くなるか?」


 このままじっと考え込んでもいつの間にか寝てしまうだけだ。


 別にこの数日の間、これと言った危害があった訳じゃないから相手の目的はどうあれ今は観察だけに止まっている筈。

 証拠に今なお俺を襲っているこの眠気を持続し続けているのだ。ならば当然もっと効果を強められるだろう。

 だがそうしない。


 依然、目的も敵の正体も分からないが、どう言った事情があれ、急には襲ってはこない。

 だから寝ても良いのだが……またあの淫乱な夢を見ると思ったらげっそりする。


「そりゃあ最初は興奮したさ。 したけど流石に何度も何度も見たら賢者になるし、結局のところ夢は夢で現実じゃないんだから無意味でしかないんだよ」


 まあ現実に起きてもそんな展開にならないように抑止するけど。


 ともあれ、外の空気を吸うべく窓まで歩き、両開きの窓を開ける。


「すぅー……いい空き────ぶわぁ!!」


 空気が口の中を通るのを感じ、お世辞にも思ってはいないがいい空気でも言おうとした瞬間、何かが俺と衝突して反動で俺は反対側の壁にまで飛ばされる。


「ぐおぉ……全身に行き渡る痛みの衝撃ぃ……」


 頭だけでなく、体全体に痛みが走る。

 だが、そのお陰か眠気が吹き飛んだ。


 覚めた目で見渡す。

 そして俺とぶつかった何か、火照った肌を隠しもしない露出度の高い服を着た女性が床に倒れていた。


「あー速度の調節間違えたー。 ……ってそれよりも!!」


 女性はうつ伏せの状態から勢いよく顔を上げて甲高い声で俺に言う。


「早く逃げなさいっ!!」


 見た男を欲情させる魅惑な瞳が俺に向けられる。


 どう言うことか。と問う前に──金属音が耳をつん裂いた。

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