第14話 勇者パート 其の2伝
体内に入って来た病原菌を異物と呼ぶ。
ならば、この世界を体内と見立てて異なる世界からこの世界に入って来た物を異物と呼んでも違和感はないかもしれない。
異物研究者とはつまり体の免疫作用と同じく元来悪影響しか与えない異物を調べ、自分達の利益になるようにする仕事である。
その一環で爆発しようが毒を吸おうが放射線に塗れようがリスクよりも返ってくる利益のが多いため異物研究者になる者は数いる。
タロウ、ヒロトの両親もまた例に漏れず金に目が眩んだ者であるが他と違い才能があった。
いつしか金を得る手段としか捉えてなかった職が遠く離れた地に立てた家の中でも研究を続けるぐらい本職となっていた。
そんな子に生まれて来たのだ。
さぞかし頭が良く、知性的なのだろう。
「………クソが……」
知性を微塵も感じさせない暴言を吐く。
研究者二人の子なのだから頭が良い?
だったらこの世は言葉を喋れず文字を理解できる人はいないだろう。
何故ならヒロトは研究者の両親とは真逆の才能を持ってしまったからだ。
「新人にしては結構体力あるじゃねーか。 そんじゃあ次はこの丸太を第七倉庫まで持ってけ」
「………うっす」
先輩兵士に言われた通り丸太を持ち、置いた。
「あの……これ全部ですか?」
「何当たり前のこと言ってんだ? いいか、俺達も最初の頃は良く運んだものだ。 お陰様でほら、こんなデッケー力瘤が出来ちまったよ」
日焼けた腕を曲げて己の力瘤を自慢する先輩兵士。
「あの、せめて台車とか使っても……いいすっかね?」
「……お前のような新人は決まって同じ事をほざくんだよな。 かくゆう俺もそんだったんだがな? アレ、見ろよ」
先輩兵士が指した方角にあったのは山積みになった大量の煉瓦を台車に乗せて引きずる他の兵士だった。
あまりにも悲惨な光景に同情しか出来ないヒロト。
「煉瓦は丸太と違って一気に持って行く方が効率がいいからな。 丸太は台車を使わなくても往復する事ができるが煉瓦は数が多いし分割して運ぶにしても積むのに時間がかかる。 後はもう……分かるよな」
「先輩も……これを?」
「兵士に一番必要なのは体力でも筋力でもね……根性だ。 さもなければやってけねーよこんな重労働……」
凄く家に帰りたい。
帰ってベッドに顔を埋めて深い眠りにつきたい。
生まれて初めてそう強く願ったヒロトは右腕と左腕それぞれに丸太を担いで第七倉庫を目指して走る。
普通ならば直ぐに疲れて歩いてしまうが若さ故の有り余る体力と早く終わらせたい気持ちを勢いに街中を駆け回る。
(意外と注目されないんだな)
この街にとっては日常なのか、時折憐れみ目を向けられる事はあっても好奇な視線を感じる事はなく順調に第七倉庫に丸太を運び終えた。
だが運んだのはまだ二本目に過ぎず、あと何本も残ってると思うと憂鬱な気分になり溜息を吐くヒロト。
『────ヒ───ロ』
ふと、何か耳に響いた気がして周りを見渡す。
「ん? ……気のせいか?」
周りには先程置いた丸太と正方形の木箱に木人形など木に関する物が順序列に並べられていた。
「誰か俺の名前を呼ぶ声が聞こえたんだけどな……?」
風の音と聞き間違えたのかそれとも幻聴か。いずれにせよ仕事には関係ない事なので気にしない事にして仕事に戻ろうとして、
『────タス───ケテ────」
両開きになっている扉から倉庫を出る時また音が聞こえた。
「……俺の後ろに立つな!」
振り返り確かめるが背後には誰もおらず、ただただ突然叫びを上げる危ない人の構図になり恥ずかしさでうずくまる。
(何やってんだ僕は! これじゃあ兄ちゃんの事言えないじゃないか!)
幸い辺りには人が居なかったので致命傷にならずに済んだ。
しかし黒歴史には違いないのでいつかは悶える運命の自身に黙祷し、かなり道草を食ったしまったのを反省しながら駆け足で元来た道を辿る。
ーーーーーーーー
残りの丸太を夕方になる前に運び切ったヒロトに先輩兵士は更なる仕事を言い渡した。
それをヒロトは淡々とこなし、日が暮れ街灯が灯る頃には五つ目の仕事を終わらせていた。
「新入りお前さては重労働の才能を持ってるな!? 今日だけで五つも終わらせる奴なんてお前が初めてだぞ!!」
「全然嬉しくないんですけど! 足腰立たないし腕上がらないし昼食とる暇なかったせいでお腹鳴りまくってるんだけど!!」
語弊があった。
淡々と見えていたのは最初だけで最後の方は歯を食いしばり全身の筋肉を総動員させて物を運んでいた。
「でも新入り。 お前さんの根性は最初と比べて上がっているぜ。 このまま順路を踏めば俺ら根性四天王と張り合えるようになるぜ」
「根性って……何なのこの仕事……」
歯を煌めかせてグッドポーズを取る先輩の姿を明日は筋肉痛確定だなと確信しながら眺めているとヒロトの両脇にか細い腕が通される。
「いや態々任された仕事全部やったヒロトも悪いでしょ。 どんだけ生真面目なのよ。 ほら、通行の邪魔になるから立ちなさい」
無理矢理立たされたヒロトは気怠げにその相手を見る。
「金髪碧眼の長耳……君ってもしかしてユーリティ出身なの?」
「今更気づいたの!? 遅くない?」
エレナ=ホワイトレス。
母に種族統合自由連盟の中央都市「ヒィエロファディア」に強制送還されたヒロトと同日兵士になった俗に言うエルフであり、かれこれ3日ほど経った現在早くも良き同僚として仲を築いていた。
「あのさ、自分で言っちゃうと悲しくなってくるけど周りの人と比べてワタシ異質でしょ? 異形でしょ? 出会った最初に気がかりになる事だと思うんだけど!?」
「そう言うけどー、たかが耳が長いってだけで普通の美少女なんだから気にはならないよ」
「えっ//」
赤らめた頬を隠すように両手を添えるエレナ。
普通の美少女と言う中々に意味不明な言葉に照れている彼女を置いてヒロトは疲れ果てた足に鞭を打って歩き出す
「あ、ちょっとヒロト! そんな体で無茶しちゃ駄目わよ!」
「いや君が立たせたんだからまた座るわけにもいかないし……かと言って立ってても回復するわけでもないから歩くしかないじゃん。 じゃ、また明日僕はこのまま帰るよ」
壁に寄りかかりながら帰宅するヒロトを不安げに見るエレナだったが見るに耐えず駆け寄る。
「もう……仕方ないから手を貸すわよ」
「ん、ありが────いや何やってんの?」
「何って……手を貸してるのよ」
「手? 僕には手どころか腕を貸されてるようなら見えるんだけど?」
「まあ抱えてるんだから当然でしょうね」
右腕を膝下に、左腕を首の脛辺りに忍ばせて軽々と男性一人を持ち上げたエレナにその体の何処にそんな力が……と逆お姫様抱っこをされているヒロトは羞恥を感じながら思った。
「めちゃくちゃ恥ずかしいなこの状態」
「じゃあヒロトは一人で帰れるの? さっきの様子からワタシは思えないけど?」
「……このままでよろしくお願いします」
「任されました」
本来だったら逆の構図を先輩兵士は苦笑しながら傍観する。
「妬けるぜ…………彼女欲しいなー」
辞めるに辞められない兵士と言う仕事を今日ほど歯痒く思ったことはない。
いい歳なのに付き合うどころか女性と触れ合うことすら最近は無かったことを思い出して涙で溢れた目でヒロト達を見送った。
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