第13話 勇者パート 其の1伝
机に置かれた茶封筒をヒロトは凝視していた。
「何でこんな事に……」
そう言い虚空を見上げて、やっぱり机に視線を戻す。かと思いきやまた顔を上げて下げるを繰り返し行いいつしかヘドバンが如く動きが激しきなったのち、母親の鎮まりなさい。の一言で椅子に座り直した。
「ヒロト。 まず聞くことが二つ程あります」
「言っとくけど僕は兄ちゃんみたいに問題を起こす事なんてしてないし、真面目に働いてたからね!」
「それを踏まえた上で聞くけどね? ……アンタ一体どう言う手柄立てたらこんな特別待遇受けられるようになるのよ」
母親もといシズミは茶封筒の宛先を見る。
そこには自分の家名と『英雄育成機関』と書かれていた。
「まあまあ母さん。 喜ばしい事ではないか息子が有名な学校に特待生として迎え入れるなんて!」
一々言動がうるさい父親のヨウコウをお気楽そうで羨ましいよと目線を送るシズミは、何かに気づいたようにハッと顔を明るくさせる。
「そうよ私。 なに悩ませてるんだが簡単な話じゃない」
真剣な眼差しでヒロトを一瞥する。
未だかつてない眼で母親に見られているヒロトは次の言葉に唖然と口を開ける事になった。
「ヒロト。 アンタ勇者になりなさい」
ーーーーーーーー
時は少しどころか数日ほど前に遡る。
この日、ヒロトは誕生日を迎え、めでたく15歳になった。
足音と雑音に深い眠りから目覚めさせられ周りを見渡す。
布の天井に木の木目が走る床、そして縄で締められた自分の体が目に入ってくる。
「…………う? う〜〜うぃううう?(え? どう言う状況)」
数回瞬きをした後素っ頓狂な声を発するヒロト。
理解が追いつかないのは起きたばっかりな所為なのかそれとも脳の許容量を超えたからなのか。
何とか首を動かして周りの状況を確認するが、目に映ったのは信じ難い光景だった。
「本当にいいんですか? 自分が言うのもアレですが15歳になったばっかりでしょう? せめてお祝い事をしてからの方が……」
「良いんですよ。 情が湧いて躊躇わないうちにちゃっちゃと送って奴隷のように働かせる。 それくらいしないと何もしないんですよウチの息子は」
「そ、そうですか」
もはや拉致とか誘拐ではない。
ドン引きしている甲冑を着た男と思わしき人と自分の母親にヒロトは思う。
(売買だ……人身売買だ! 今日僕誕生日なのにプレゼントどころかプレゼントされる!)
やっと今自信が置かれている状況を理解したヒロトはご丁寧に猿轡をされているのにも構わず冷徹な母に訴えた。
「うーー! うーー! うぅうううー!!」
「あら、ヒロト起きたのね」
暴れ散らかす息子に何事もなく平然に接する母の姿に悍ましささえ感じるヒロト。
「う、う、う、う〜〜〜!!!!」
「何を言っているのか分からないから一方的に告げるわね。 アンタ私達の助手になって兵士から逃れようとしてたわね」
「……………」
「タロウは特別頭が良かったわけでは無いけどアンタよりは寸分マシだった。 で、頭脳明晰ではないタロウと比べられてるアンタは果たして研究者の助手を出来るのか! 出来ないに決まってるでしょう」
だから、と付け加えて黙りこくったヒロトに審判を下した。
「兵士になって、金稼いで来なさい」
掌を地面に、人差し指と親指で円になるように合わせて他の指を真っ直ぐ伸ばす。
そんなポーズを取ったシズミを見て只々絶句するしかなかったヒロト。
「アンタみたいな馬鹿は何処も雇ってくれないし、何より努力もしないで親のスネに齧ろうとしてる時点で見限られて当然なのよ。 まあアンタのその身体能力なら何十時間肉体労働しても大丈夫でしょ。 精々頑張んなさい」
この国では15歳までに何らかの職業に就いていないと強制的に兵士として中央都市に送還される。
大体の場合は親の仕事の跡を継ぐ形でやり過ごしているのだが、例に漏れずヒロトもそうしようとして就職活動を怠った結果今に至ってしまった。
これ見よがしに手を振り去って行く母の後ろ姿にヒロトは鼻で精一杯の空気を吸い。
「う"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"う"う"う"う"う"!!!!!(こぉんのクソババアがぁぁ!!!!!)」
発進した馬車の車輪の音を掻き消す声量でうめき声を上げた。
兄に
図らずも勇者の伝説は兄と同じく自業自得から始まった。
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