第10話 白紙の招待状
パチンと
ロゾールがフッと意識を持ち上げると、見慣れた天井が目に入る。
「お目覚めですか?ちょうど今、お茶を
頭上から、カイムラルの声が聞こえた。どうしてだか、
ぼんやりと
「悲しそうなお顔をされていました。今日は、どんな夢を見ておられたのですか?」
ソファーに横たわるロゾールの顔を、深く腰を折って
左手の親指の腹で優しく目元を拭うと、
(長い夢を、見ていた気がする……)
奇妙な夢だった。棺の中で目覚め、見知らぬ館の中を
お喋りで馴れ馴れしい男に
高熱に浮かされた後のようにぐったりとする
勝手知ったる我が家の光景に
ロゾールがいたく気に入っている暖炉前の
空気が乾燥しているからか、張り付いたような喉の痛みを飲み込み、
「ぁ……、新しく
ロゾールの視線は、壁に張ったカレンダーが示す年月日を見て凍り付いた。
冷や水を浴びたように
「ぁ、あぁ……。なぜ、こんな……こんっ、な」
わなわなと唇を震わせるロゾールの異常な様子に気がついたカイムラルは、その視線の先を
______1907年12月25日。
生前のロゾールが生きて迎える事を心に誓い、そして叶えられなかった、愛する我が子の誕生日だった。
「あ、ああぁ…………。うっ、わぁぁあああああぁぁぁあああっ!!」
「おやめくださいっ!! こんな事をしても、傷つくのは
手当たり
それでもなお暴れ続けるロゾールは、カイムラルの体重が上乗せされた身体を力任せに振り回し、
ソファーを巻き込んで転がり、何かに頭を強くぶつけたロゾールは、ジンジンと焼けるように熱く痛む
ジクジクと
傷だらけの壁に映し出された揺らめく影と、背中に迫る炎の気配に振り返る。
投げ散らかした本や、なぎ倒された家具に引火した暖炉の炎が、あっという間も無く部屋の壁を
少しばかり落ち着きを取り戻したロゾールは、背中を壁に預けたまま、ズルズルと
エントランスホールを後にした出来事が、
一部のマッチが湿っていたのか、なかなか火が
息を切らせながら先を急ぐカイムラルの背に揺られながら、彼が目覚めた部屋に
そして、夢を見ていた。
"余命半年"と告げられたロゾールが、エインの余命予想を
「誰かの支えが無くたって、このとおり私は立って歩けるよ。さぁ、今日は_____が望む場所に行こう」
走っても、飛び跳ねても、呼吸は苦しくない。心臓は脈を途切れさせずに、力強く動いている。
「今日は
しかし、夢の中のロゾールは泣いていた。
どんなに治療に
「なんて、残酷な……」
ロゾールがそう
バタンと、倒れる。
……息を吸う事すら
…………視界が黒に塗りつぶされた。
………………脈が止まる。
……………………そして、何も無かった。
*
ココン・ルティの鐘が鳴る。
いつから意識を取り戻していたのかは分からないが、眼球が転げ落ちてしまいそうなほどに目を見開いたロゾールは、マリーゴールドの毛布を
脱ぎ散らかした上着も、床にばら
像にぶつかり
ロゾールはそっと胸の前で両腕を交差させ、前髪の先を細かく震わせた。
人は"生"を
ロゾールの導き出した
「この世界で経験する"死"は、
その証拠に、たったひとつだけ残された手掛かりがある。
荒らすだけ荒らした部屋が片付いていようとも、
肩から背中にかけて広く残る香りを見つけ、ロゾールはゆるりと目尻を下げた。
記憶に
今度は落ち着き払った様子で
ふと目についたクローゼットを大きく開け放つと、仕立て糸がついたままの服と、靴や手袋などの
翼をデザインした、真紅の
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