第3話 片翼の天使(前編)
普通ならば、
しかし気味の悪いことに、まるで傷が出来たその瞬間を繰り返しているかのような痛みが、延々と続いていた。
終わりの見えない苦痛に苛まれながら、
「いけません。酷い出血です」
カイムラルは、
しかし、
まるで、傷口から流れ出た血液がすぐさま蒸発して、
まだ暖かくて喉の奥に絡みつくような臭いに、カイムラルは表情を歪め
それなのに、ロゾールはまるで自身の出血に気づいてすらいない様子で、不思議そうにカイムラルの言葉を
そんなロゾールの反応に違和感を覚えながらも、カイムラルは止血を優先しようと重ねた手を離した時のこと。
「カイムラルッ!!」
突如、ロゾールが大声をあげてカイムラルを呼んだ。
苦痛か、はたまた恐怖からなのか、額には
「カイムラルッ!!君には、良く見えているんだろう?!早く……早く、部屋に火を灯してくれっ!!」
生前のロゾールは、暗く閉鎖感のある場所を酷く嫌った。
例えば……そう、棺の中などは特に。
切羽詰まり叫ぶロゾールの声に、カイムラルはハッとして周囲を見回し、淡い星明りの下で冷たい輝きを放つ銀の燭台を手繰り寄せ、ポケットをまさぐる。
(俺はなんて
カイムラルは自身の気の
だが同時に、一枚の絵画のような無機質で音の無いこの世界が、不安や恐怖の感情をより深くさせているのではないかと、カイムラルは冷静に予想する。
そうでなければ、ロゾールがこれほどまでに暗闇を恐れて取り乱すなど、飴が降っても、
火薬の攻撃的な焦げ臭さが鼻を掠める。カイムラルは、ポケットから取り出したマッチを擦り、手慣れた仕草で
「……さぁ。もう、大丈夫です」
語尾の処理に至るまでが丁寧な声音から、どんな
いつの間にか、固く目を
顎を持ち上げた拍子に前髪の先から
視界に真っ先に飛び込んできたのは、豊穣の麦畑のような輝かしい金の髪。ロゾールが最も"美しい"と言って、こよなく愛した色だ。
目を
前方に差し出したロゾールの手を取り、揺らめく炎の照り返しを閉じ込めた緑色の
右頬の上りが悪く、
穏やかで親しみやすい表情と眼差しに、ロゾールは
それはきっと、これからだって変わりはしないのだろう。
"彼はきっと、人間の為に
ロゾールはいつからか、
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