第2話 エンドゲーム・スタディ
ロゾールの
バチンッ……と、乾いた音が
(相手は、人間だ)
手のひらが触れた場所は柔らかく、ほんの一瞬でも分かるほどにあたたかい。
奴は思わぬロゾールの一手に動揺したのだろう。ギリギリと締め上げるような腕の
「痛ッ……?!」
だがしかし、一歩と進まぬうちに、等身大ほどの物体に右肩から激突する。
ツンと鼻をつく痛みに表情を歪め、ロゾールはその場に崩れるように膝をついてしまう。
(だめだ、立ち止まるな。逃げ、なければ……)
噛み殺してもなお、喉の奥から引き
すでに大きく傾いていた謎の物体に、立ち上がろうとして掛けたロゾールの手が追い打ちをかけてしまったのだろう。
まるで、すぐそばに雷が落ちたかのような。もしくは、
おぼつかない足取りで立ち上がったロゾールは、
床に散らばった破片を踏みつけると、ギャリッと、小石同士が擦れるような何とも嫌な音がする。
トンッ……と、指先が壁に触れた。
そのまま壁際をなぞり、扉を探して歩を進めれば、またもや何かにぶつかった。
しかし、今度は慎重に進んでいた為、大した痛みはない…………?
「____ぇ?」
ロゾールよりもはるかに大きな影が、ぐらりとよろめいた。
腰と頭の中心に、黒い毛虫がウゾウゾと這い動くような
頭上に突き出された2本の柱の間から、十字の影がスルリと抜け落ちるようにして
しかし、その様がどれだけはっきりと見えていようが、ロゾールがソレを避けるなど不可能だった。
*
耳をつんざくけたたましい金属の叫びが、
気がつけば、ロゾールは冷たい床に背中から仰向けに倒れ込み、
そしてその腹の上には奴が馬乗りになり、
____やめてくれ!!
そう叫びたいはずなのに、薄く開いた唇は小さくわななくばかりで、吐き出せずに溜まっていくばかりの息が胸を圧迫して苦しい。
今にも心臓が張り裂け、
薄いシャツ越しにでも分かるその胸の動きに、そっと寄り添うように重ねられた誰かの鼓動。
そこでロゾールは気がついた。
自分は押さえつけられているのではなく、抱きしめられているのだと。
熱いほどの柔らかい風が耳にかかり、ほんの少しくすぐったい。
ロゾールの後頭部を守るように添えられているのは、骨ばって固い男の手だろうか?
衣服からほんのりと香るのは、かつてロゾールが手ずからに
サァァッ……と波が引くように、魂を支配していた恐怖が跡形もなく消え去ってゆく。
落ち着きを取り戻したロゾールの様子に気がついたのか、その人は身体を
愛おしげで、心からの慈愛に満ちた優しい声だった。
耳に
もう二度と、聞くことは叶わないと思っていたその言葉が、胸の奥の柔らかい場所に小さな棘を突き立てた。
「ごきげんよう、ロゾール先生。またお会いできて、本当に嬉しいです」
見えずとも、ロゾールには分かる。彼は今、まるで天使のように美しく儚い笑顔で、自分を見下ろしているのだと。
「あぁ、カイムラル。私の______」
2番目の招待客、カイムラル・メイト。
ロゾールが生涯で"
同時に、彼が生涯を
>>【招待者名簿 2/12】
カイムラル・メイト(1883~1911年)
享年:27歳
職業:医師
身長:177㎝
駒名:ビショップ(白)
役割:医師
魔法:「トリスティティアの鏡」
ロゾールが生涯の中で"弟子"と呼んだ唯一の人物であり、現在で言う"
ロゾールの死後、グラウ・エレット教会による
世界各地で行われていた「魔女裁判」の歴史の中でも
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