第5話 魂の片割れ
もしも、カイムラルが見た"夢"が、彼の最期の景色なのだとしたら……。
次々とマッチを
(これが、大切な人を
当然、ロゾールがこの世を去った後のことなどは知る
正直なところ、思い当たる
(しかし、なぜあの
人並み以上に信仰に
物腰柔らかで、誰にでも分け
そこでロゾールは、脳裏をよぎったひとつの悪い予感に、喉ぼとけを上下させて生唾を飲み込んだ。
(エインに、何かあったのだろうか……)
エインとは、血の繋がらないロゾールとふたつ違いの兄である。
元々は、同じ師匠のもとで
やがて、野心溢れる汚い大人に成長した彼らは、少年時代に誓い合った約束をその手で叶えるべく、着々と
かの教会に仕え、その頂点に
ふたりの企みは、
(私達の作戦が、世間に
だが、そこまでの考えを、ロゾールはかぶりを大きく振って否定した。
(そんなことはありえない。結局のところ、この作戦には教会の誰もが加担していたのだから)
だとすれば、カイムラルはなぜ教会に殺された?もっと言えば、エインはどうして、兄弟の罪を
(……逆か? 真実が
だとすれば、カイムラルは一体、兄弟のどの秘密を知ってしまったというのだろう……?
「…………カイムラル?」
気がつけば、ロゾールは独りぽつんと、その場に取り残されていた。
周囲を見回せば、
点々と灯された
カイムラルは何かを探しているのだろうか?明るい部屋の入口から伸びる長い人影が、モゾモゾと動いている。
そして、その影が腰あたりから真っ二つに分かれ、四本の腕が絡み合い____?
「カイムラルッ!!」
引き絞るようなロゾールの悲鳴を遮って、鼻歌混じりの上機嫌な声が聞こえてきた。
「あぁっ!僕はなんてラッキーなんだろう! 」
慌てふためきながら小部屋に駆け込んだロゾールは、目の前の光景に、
部屋のすみに追い詰められたカイムラルは、ロゾールに背を向けて立つ緑髪の男の両腕の間に閉じ込められていた。
緑髪の男は、逃がすまいと言いたげにカイムラルの両足の間を片膝で割り、今にも唇が触れてしまいそうな程に顔を近づけているではないか。
「ねぇねぇねぇ! 君、お名前はなんていうのかな? とってもキレイな言葉づかいだね! 爪の先までお上品で、まるでおとぎ話に出てくる王子様みたいだ
! 金の髪ということは、もしかしてアルカ人? セカンダリースクールのクラスメイトには、君と同じような髪の子はいなかったなぁ。緑の瞳は、純血の特徴なんだよね? ねぇ、今年でいくつ? 僕より少し年下かな? 甘いものは好き? どこの国の人? 僕と、お友達になってくれないかなぁ!?」
「失礼」
ロゾールは居ても立ってもいられず、ポンと緑髪の男の肩を叩いた。
"君の頭の中が、おとぎ話の間違いだろう?"
危うく口から滑り出しそうになった皮肉を飲み込んで、男をカイムラルから引き剥がそうと、肩にかけた左手に力を込めた。
マシンガントークに
その視線に本能的な恐怖を感じながらも、ロゾールは少し砕けた様子で肩を
「ごきげんよう。悪いけれど、もうそろそろ私の弟子を開放してはくれないだろうか? 見ての通り、普段から控えめな子でね。あぁ……もしもそれが熱烈な
うっかり、口先だけの嫌味が漏れてしまったが、ロゾールはニッコリと笑みを深めるだけで、とりなす様子は
振り返った男は、おっとりとした目尻を更に下げて、人懐っこい笑みでこう言った。
「おっと、これは失礼しました! 半世紀前は、"お前たちは天気の話しかできないのか?"って、他の国の人に茶化されていたらしいんですけれど……。今度は、僕らが"お天気の話はもう飽き飽きですよ"と言う番ですね!」
男は可愛い顔で、"半世紀たって、やっと僕らの社交辞令に気づいたんですか? でもそれ、もう時代遅れです"と皮肉っているのだろう。
ロゾールの頭の中で、開戦の鐘が鳴り響く。これは口が達者な者同士、いい勝負になるかもしれない。
そうして始まった笑えない冗談合戦は、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます