第242話 敵討ち
子駿河と呼ばれたモーターボートの船員は駆逐艦欅に取り付いて乗船し、欅を操縦しながら戦艦駿河マークIIの横に停止させました。欅の乗務員は全員倒れていました。救助隊が欅にのり込んで駿河マークIIへ移動させていきます。その中にはかなもいました。
「かな、しっかりして。一体何があったの?」
かなはまだ意識が朦朧としています。徳は、
「この症状って一酸化炭素中毒?なんで海上でそんな事が!」
信豊も信平も何それ?って顔をしています。徳の目は真剣です。何が起こったのかを想定しています。欅の船員は皆生きてはいました。ただ火傷を負っているもの、意識を失っている者が多く話が聞けそうもありません。その中で徳は顔見知りを見つけました。
「しっかりするだわさ。こんな事で倒れるあんたじゃないでしょ、何があったのさ善左衛門!」
善左衛門はやっと助かったと思ってホッとしていたところでした。煙を吸ってしまいフラフラしています。しばらく動きたくないモードだったのに、顔を上げると鬼のような形相の徳が見下ろしていました。
「ヒエエエエエーーー!と、徳様。ご無沙汰しております」
すぐに通常モードに戻ります。だらけていたら後でどんな目に合うかわかりません。海軍で徳に逆らっては生きてはいけないのです。
「報告します。伊勢沖海上に黒い水のようなものが一面に浮かんでおり、後に油と判明。志摩まで行かないと迂回できず。戻る際、敵の船に囲まれ特攻されました。敵は死を恐れていません。我らの船を足止めし、海に油を浮かべ火をつけました。なんとか欅のみ脱出できたものの他の船は敵の船と一緒に燃えて海へと…………」
と善左衛門はここまで喋って気を失ってしまいました。元々限界だったのです。
「善左衛門を寝かせてあげて。全員風通しの良いところで。火傷をしているものは患部を冷やして。伊丹殿、信豊殿、ちょっといい?」
今の話を聞く限りでは船は港へは近づけない。いくらこの戦艦駿河マークIIが対艦船との戦いに優れていても海が燃えてはどうしようもない。
「上手いこと考えただわさ。流石の武田海軍も手も足も出ない」
徳の話を聞いて伊丹は、疑問を投げかけます。
「敵は我らの足止めが目的でしょうか?敵には筒井がいるそうですので前回、海からの支援があって攻め切れなかった経験を活かしているように思えます」
「そうだとしてもこの作戦を考えたのは筒井ではないわね。油といってもそれだけの量を手配するのは大変な事よ。堺の商人を使ったと考えるのが妥当ね。つまり明智十兵衛」
それには信豊が、
「ならば俺は陸から軍を率いて攻め入る」
「間に合わないだわさ。それに備えて待機してるはずよ、それが明智十兵衛」
話を聞いていた信平が、
「それならば志摩まで兵を運んで陸地を進めばどうでしょう」
「それが確実ね。敵の進み具合が遅ければ間に合うかも。伊丹殿、母艦を戻して兵を積んで志摩へ。信豊殿、頼みます」
「承知、それで徳ちゃんは?当然なんかするよね」
「かなの仇は打たないと」
という徳ですが具体策は浮かんでいません。油があっては海は進めず、敵はまだ遥か遠くの陸上です。といって外からの支援がなければ滝川は負けるでしょう。そうなると織田の勢力が減るだけでなく、支えている武田の権威が落ちます。
「あれを使うしかないのかしら。でも誰ができるの?」
さて、武藤源二郎信繁は高天神城に来ていました。ところが主な方々が皆三河、尾張へ出掛けていて不在の状態でした。一応武藤喜兵衛の息子という事で城には入れてもらいましたが、相手をしてくれる者がいません。何をしにきたのかというと、小田原で先走って行動した事もあり勉強してこいと喜兵衛に言われて渋々やってきたのです。
「なのに誰もいないなんてな」
城の居留守役が答えます。
「武藤様。竹中様は不在ですが、徳様に言われた開発は日々進んでおります。勉強という事であれば色々と見ていかれたらどうですか?」
それもそうだ。ここまできて何もせずに帰るわけにはいかない。高天神城には少し離れたところに造船場があり、城の中には研究所があります。源二郎はそれを見て回りました。そして不思議な物を発見します。そこにいた者に聞いてみました。遠慮がないのが源二郎のいいところです。
「もし、これはどういうものでしょう?」
「今忙しいって源二郎様?なんでここに」
「それがしをご存知か?」
「はい。それがしは特殊部隊ゼットのチーム丙に以前いた者です。戦闘よりものづくりが向いていたためこちらに異動になったのです。源二郎様が小さい頃遊んだ事もあるのですが」
「すまん。覚えておらん。で、これは何だ?」
急に強気になる源二郎だった。
「これは徳様が対秀吉用に考えた秘密兵器です。ほぼ完成しておりますがまだ操縦士が決まっておりません。元ゼットという事でそれがしが乗る事になる予感はしておりますが」
「ほう。見たいな」
「それは流石に、徳様の許可がないと」
と、その時高速船楓が徳の伝令を乗せて高天神城へ到着しました。
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