第243話 影猫
さて、この物語の主人公である武田勝頼。しばらく登場しなかった主人公、主人公無しに話が進んでいましたがここでちょこっと登場です。勝頼は蘆名問題を解決して、黒川城を出ました。次の目的地は伊達政宗の居城、米沢城です。数日前に一部の兵は先行して米沢城へ向かっています。先鋒は伊達小次郎、兄弟対決やいかに!という話はとりあえず置いといて、馬に乗る勝頼の元へ伝令がやってきました。特殊部隊ゼット、チーム甲の桃です。
「お屋形様。武藤の殿からの文が届きました」
ゼットは元は武藤喜兵衛が作った特殊部隊です。領地が増え、組織が大きくなり今はチーム甲と乙が勝頼に、丙と丁が武藤喜兵衛の元にいます。昔のこともあって桃は喜兵衛の事を武藤の殿と呼んでいます。
「喜兵衛から?そうだ、伊達政宗はどうしている?」
勝頼は伊達政宗情報を欲していました。小次郎を味方にしたとはいえ背景が複雑そうなのです。理解しておかないと後でまずそうです。
「はい、相馬から岩城へと攻め入っていた伊達政宗でしたが、山県様、馬場様、穴山様のご活躍により兵を引き上げ米沢へ戻っております。こちらの動きも見張っており籠城の構えです」
「そうか。小田原城を攻めている隙を狙ったのは良かったがな」
勝頼は色々と含みを持たせていました。東北を制圧するのにどうするかです。東北の関門は伊達政宗です。伊達政宗という男が三雄に聞いた通りの曲者なら、武田の関東攻めに乗ってくるのではないかと思っていました。小田原城が簡単に落ちるとは思わないでしょうからその隙をついてくる、その逆をついて懐柔させる事が出来ないかなと考えていたのです。勝頼は滅ぼすのではなく共存がポリシーです。上手くいかないことの方が多いかもしれませんがこの想いは曲げたくないのです。
実際は似たような展開ではありますが、先に伊達小次郎と出会ってしまいました。こうなると政宗が邪魔になります。臨機応変とは言いますが、その場その場の最善を考えていくしかないのです。将棋の戦術に似ていますね。そんな事を考えていると桃が、
「お屋形様。文を持ってきたのは影猫でした。なんか向こうも大変みたいで文だけ置いて戻って行きました。
「影猫かあ、元気ならそれでいい」
影猫。特殊部隊ゼットのチーム丁に配属されているクールな美少女です。その正体は、実は徳川家康の隠し子でした。家康の死後、本多忠勝が武田に下り徳川残党を味方につけるべく動いていた時にどこからか連れてきたのです。忠勝は家康様の子でござる、とだけ言ってその場を離れていってしまいました。その素性は武藤喜兵衛と勝頼しか知りません。
武藤喜兵衛は、徳川家康とはバチバチにやり合っていましたが、決して家康が憎いわけではなく敵だったからというだけでした。結構家康が嫌な事をしてきたと思っています。仕事ですからね。その隠し子を目にした時、ふと自分の手の元で育てようと考えたのです。家康の子が生きているとなればまた一悶着起きるかもしれません。それを避けるために、徳川の家は松平家の者が継ぎました。勝頼は伊豆に領地を与えています。三河を避けたのはやはり変な事を考える奴が出てこないようにという考えです。
これで影猫が徳川の家を継ごうとしても出来ない事になります。喜兵衛は影猫を忍びとして育てる事にしました。名前が無かった、と言うか名前も教えずに去った忠勝の想いも汲んで名前は勝頼が付けました。喜兵衛は普通の娘としてではなく、普通の忍びとしてでもなく自分が作った特殊部隊ゼットに入れる事にしたのです。影猫は類い稀な才能を持っていました。今でいう運動神経が抜群だったのです。体術、投擲、剣術と身体は小さいものの上達が早く、今ではチーム丁のリーダーとなっています。
チーム丁は小田原城で活躍してほぼ壊滅したチーム丙に代わり、武藤喜兵衛の主力チームになっています。
そのチーム丁もメンバーは総入れ替えになっています。岡崎攻めで活躍した者達はすでに亡くなっています。それだけゼットの任務は過酷なのです。
「お屋形様、影猫の動きを見ましたがちょっと怖くなりました。多分今ゼットの中で一番強いのは影猫のような気がします」
「桃が言うのならそうなんだろう。これから西の方も忙しくなる。どうせ喜兵衛の文にはそれが書いてあるんじゃないかな?どれどれ?」
勝頼は文を読み始めました。読み始めから顔付きが変わっていきます。桃はそれを見ながら異変ではなさそうだけど難儀な何かだなと勝手に想像しました。チーム甲のリーダー錠を呼ぼうかどうしようかと考えています。勝頼は読み終わった後、しばらく考え込んでから、
「そうか。キリシタン、まあ十兵衛でよかった」
と呟き、再び米沢城へ向かい始めました。しばらく騎乗で昔の事を思い出していました。三雄に聞いたキリシタンの話です。一通り頭の中で復習したあと、付いてきていた桃に言いました。
「桃、これから文を書く。喜兵衛に届けてくれ。それと錠を寄越してくれ。伊達家の詳細を持ってこい!」
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