第63話 徳と半兵衛の技術討論会

勝頼達は古府中へ戻る途中で諏訪に寄りました。ここには勝頼専用の温泉別荘があります。徳と一晩イチャイチャ過ごした翌日、半兵衛と徳を連れて塩硝工場と秘密工場を廻るつもりだったのですが、徳が半兵衛と討論会を始めてしまいました。


 徳 「半兵衛殿、知ってる?攻撃にはリズムが大事なんだよ」


 半 「確かに。攻撃は理詰めで行うものです」


 勝 「…………」


 会話になってるのでしょうか?徳は勝頼が写し取った教科書を使って現代の中学一年生レベルの知識を得ています。国語算数理科社会、図工美術音楽の教科書を丸暗記しています。戦が無くて勝頼がいない時は時間が有り余っていますので、吸収力が半端ないのです。午前中はひたすら勉強、午後はトレーニングと新兵器の試射とフルに活動しています。それで得た知識を半兵衛とぶつけ合っているのです。


 半兵衛も半兵衛で徳の知識は目新しくこの時代にはないものばかりです。半兵衛の戦国の知識と徳の現代の知識がぶつかり合う討論会、定期的ではありませんがこれが始まるととにかく長い、勝頼は一度参加して底なし沼にはまったような感覚になった事があり、逃げ出しました。


「ここに伊勢守が加わったらもう沼どころでなないな」


 と、つぶやきながら逃げ出してきた勝頼を武藤喜兵衛が見つけました。


「どうされました?」


「あっ、良いところにいた。お前も加わったらどう?勉強になるよ」


 と、勝頼は討論会に喜兵衛を放り込んで塩硝工場へ出かけました。勝頼の護衛には寅三が付いています。三雄殿は喜兵衛は軍師として有能だと言っていましたので、きっと討論会で得るものがある事でしょう。やつれた喜兵衛の顔を見るのが楽しみです。





 勝頼は塩硝を作っている秘密の村に入りました。村長の利左衛門のところへ行くと、


「これは四郎様。いや伊那勝頼様でしたな、ようこそおいでいただきました。五箇山村はおかげさまで潤っております」


「閉鎖的な村にしてしまってすまないと思っている。皆に変わりはないか?」


「加賀にいた事よりも食生活が良く、皆よく働きまする。それにご手配いただいた行商人も定期的に来てくれますし、何よりも女性も増えました。男衆の気合が違いますわ」


 勝頼は塩硝を買い上げお金を払っています。そのお金は、吾郎が手配した行商人という事にしている忍びの者を偵察を兼ねて定期的に村へ行かせて、物を買うのに使わせるのです。蕎麦、豚肉、米、買いたい物を聞いて次の定期訪問の時に用意する受注販売システムをこの村でテスト的に運用していたのです。


 しかも季節でカタログじゃあない、購入できる製品が変わるようにしていて飽きがこないように工夫しています。女性については戦で男衆を亡くした人や不自由な生活をしている人達に希望を取って、女性が不足している地域に住まわせました。この五箇山村にも新しい女性が増えたので、男性陣はいいところを見せようと目の色が変わったように働くのです。いつの時代も男は単純な生き物ですね。


 勝頼は村の様子を見た後、秘密工場に向かいました。行き先は第二工場、そう新兵器開発工場です。そこには、工場長として鍛治師の次郎衛門が配置されています。


「来たぞ、俺だ。次郎衛門、例の物の状況はどうだ?」


「残していただいた鉄砲を分解して図面を描きました。同じ部品を製作して試験的な物ができましたが弾を三発撃つと壊れてしまいます。強度が足りないようです。今、工夫をしております」


「鉄砲の複製品は過程に過ぎんぞ。前に話したであろう、連発でバンバン撃てる銃を。その図面はいずれ用意するから、それまでに腕を上げてくれ。手は足りているのか?」


「例の細剣開発に人が取られていましたが、あちらは量産に入りましたので何とかなると思います」


箕輪城攻めで足軽に持たせた細剣のことです。刀よりも軽く、突く専用の剣はここで開発された物でした。


「そうか。俺はすぐに駿河へ出陣する。帰ってくるまでに鉄砲を量産できるようにしておいてくれ。それから中砲は良く出来ていたぞ、今回はクロスボウといい大活躍だった。褒美は何がいい?好きな物をとらす」


「褒美も何もそれがしはここで勝頼様の新兵器を作れるのが何よりの褒美でございます。一介の鍛治職人をここまで取り立てて頂いて感謝しかありません」


「そうはいってもなあ。そうだ、今日バーベキューをやろう。工場の衆全員でだ」


「バーベキューとは前に一度やったあれですか?」


「そうだ。皆で鉄板で焼いた肉や野菜を食べるあれだ。寅三、準備を致せ」


「はい、えーと、徳様を呼ばなくていいのですか?後で怒られそうですが」


「…………、あれは今、そう沼だ、沼に沈んでいるだろうから放っておこう。後で俺から説明するよ」


 あいつは食いしん坊だから怒るかもなあ、でも徳ってそんなに恐れられてるのかね?ただの田舎娘のはずが………。



 皆でバーベキューを楽しんだ後、勝頼は駿河を攻めるのに必要な物を書き留めて、手配させました。準備期間は二週間としています。箕輪城に行った兵も少し休ませたいのですがそうも言っていられません。諏訪に戻るとなぜか部屋から音楽が聞こえてきます。聞いたことのない楽器の音と徳の歌声が部屋の外まで響いているのです。


『戦国少女♫ 戦国だけど少女だけど殿のために戦うの 正妻なんかにゃ負けないわ♫』


『フー!』


 フーって半兵衛と喜兵衛の声?勝頼は部屋に入りました。徳が見た事のない楽器を手に持っています。


「徳さんや、それは何ですかな?」


「教科書にあったギターってやつ。琴に似てるから作ってみた」


「…………、似てないし、俺が写し取ったギターともなんか違う」


「いや、殿。徳様は素晴らしいお方ですな。知性もあってこのような芸まで達者とは」


「この喜兵衛。今日は大変に勉強になりました。今後も精進いたします」


 なんなんだこいつら。軍師二人とも手懐けてんじゃないよ、なんだよ、フーって。

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