第55話 準備

 翌朝、勝頼はお祝いを運んできた各武将達の使者に会いました。使者はそれなりの役職がある人が来ています。当然情報収集のために間者が紛れ込んでいます、間者は荷物運び要員か従者に化けていると想定して途中の関で人数と特徴が記され、次の関で確認されという三段階関所で確認されて、それ以外の人間については立ち入りできな仕組みを作っていました。そして入ってきた者達は信玄の忍びに見張られています。使者は勝頼と話をして、皆感心して帰って行きました。勝頼がどんなやつか見てこいと言われているのでしょうからそのくらいはサービスです。

 ただ、サービスだけではなく勝頼は武田は盤石というところを見せたかったのです。今後の交渉に役に立つように。


 その中で織田掃部だけはしつこく聞いてきました。織田ではなく落ち目の今川を選んだことについてです。信長は気にしていないのですが、交渉役としては面白くないのでしょう。勝頼は五郎の縁談を早く進められるよう注力するという事で帰ってもらいました。


 皆が帰った後で、最後まで残っていた朝比奈泰朝と新屋形に作らせた勝頼の部屋で話をしました。この部屋は三雄の発案で忍び対策がしてあり、外部からの侵入が困難になるよう作られています。途中に鉄板が嵌め込まれていて穴を開けるのが大掛かりになるので事実上侵入できないのです。部屋も防音装備が施され、地下や屋根からは声が聞こえないようになっています。


「朝比奈殿。氏真殿に塩硝を買っていただきたいのだが。今購入している価格より一割安く販売できる」


「武田家は今川家より安く仕入れておられるのか?」


「それは話せない。出どころは明らかにはできんが品質は保証する。氏真殿へはこれから一緒に松平を攻めるから入り用だろうという事で纏めてくれ。実際は、わかるな」


「承知いたしました。私へは?」


「領地の維持、さらに加増いたそう。それから他の国衆はどうだ?特に井伊のところは?」


「今川家への忠誠心が強くなかなか」


「悪いようにはしない。引き続き頼む」





 朝比奈が帰った後、半兵衛を呼び寄せました。


「1ヶ月後に出陣いたす。棒道を進むゆえ途中で合流されたし。兵は伊那から三千、鉄砲はいくつある?」


「30です」


「1つ残して持っていく。他に長距離攻撃隊はクロスボウ100に中砲隊20、弓矢200に長槍隊300、騎馬100で残りは足軽とする。足軽には竹槍と細剣を持たせよ。訓練はどうか?」


「はい。十分かと。中砲隊は4人1組で次射への時間を短くする事が出来ました。クロスボウとかいう特殊弓は鉄球、鉄矢、普通の矢を打てるよう改造が施してあります。それと、第二工場の次郎衛門殿が例のものができたと。お徳様が習得されたと伝えるよう言われております。兵につきましては殿の考案の通り3000人の兵士を育ててきております。3000であれば百姓を入れずに用意できます。皆、殿の初陣に恥じぬ戦いができるでしょう」


「わかった。それと吾郎の配下も連れて行く。徳は………、来るなと言っても来るから好きにしろと伝えろ」


 半兵衛は笑いながら、


「そうでしょうな。それがしも香織を連れて行きます」


 香織というのはくノ一で半兵衛お気に入りの美少女だ。五郎の配下で綺麗どころを半兵衛攻略にあてたところ気に入ってしまい高遠まで来てくれたのである。


「わかった。それと今川へ塩硝を売る事になった。甲斐に倉庫を作ったのでそこへ運んでくれ。実際の販売は穴山殿が担当する」


 塩硝は信玄へ半値で売りつけ、それを今川へ売るのです。差額分が信玄の儲けとなり軍費に充てられます。塩硝は今までも半値で納めていたので勝頼の懐は痛まないのです。勝頼はいち早く武と民を分けました。それゆえにお金はいくらあっても足りません。


「次郎衛門には良くやったと伝えてくれ。で、次に作るのは…………」


 第二工場は新製品製造工場です。クロスボウや中砲もここで開発されたのです。勝頼の兵のうち2000人は移民です。各地の農家の次男坊、三男坊のような食いっぱぐれそうな人達を集めて兵にしたのです。美濃、三河、遠江からも人が流れてきています。戦があると難民が出ます。そのうち戦力になる者を吸収して兵力をあげたのです。

 中には足軽大将だった者もいます。指揮能力や実力のあるものは半兵衛、玉井が班長、職長へ取り立てています。班長というのが小集団の長、職長が中集団の長を意味します。勝頼は三雄に聞いた人の管理手法が面白かったので採用したのです。

 10人で1班、100人で1職となっています。鉄砲組や、クロスボウ隊はそれ以外に技能職としての役割を持ち、その上の課長の指示で各職へ配置されたり、各々で行動します。その訓練をこの数年間続けてきたのです。


「初実戦。楽しみである。指揮は半兵衛、玉井が取れ。寅三とお徳の部隊は旗本として俺の周りに残す。むかで衆には源五郎が来るだろうから紹介するよ。お主のように賢い男だ。あ、それと吾郎に箕輪城の周辺を調べるように指示してあったのだがどうなった?」


「お徳様が絵にしておられました。何やら立体的な模型とか言っておられましたが」


「それも持ってきてくれ。役に立つ筈だ」




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