第6話 諏訪大社

 2人は諏訪大社に行き、うろうろしています。三雄が何かに惹かれるように裏の巨木の方へ向かいました。何かを見つけたのかと恵子は不審に思いながら付いていきます。三雄は巨木の前で止まり、突然座り込んでしまいました。


「あれ、三雄君。どうしたの?」


 三雄はそのまま動きません。目を閉じていて息はしています。そこは神社の裏手にあって周りには人がいません。三雄はブツブツ何かを誰かと話をしているようですがよく聞こえません。恵子がいくら声をかけても返事をしてくれません。どうしていいかわからず聞き耳をたてていると時折、マシンガンとか変身グッズとか単語が聞こえてきます。しばらくすると三雄が起き上がりました。


「一体何がどうなってるのよ?説明して」


 三雄の顔は爽やかです。憑き物が取れたような顔をしています。


「今、四郎と話をしていたんだ。今7歳だってさ」


「えっ、何言ってるの?四郎って勝頼の事?」


 恵子はついに頭がおかしくなったのかと思いました。元々変わった人でしたが、湖に落ちた時に頭を打ったのかもしれません。諏訪になんか来なきゃよかったと泣きそうになっています。それを見た三雄は、


「えっ、何で泣いているの?」


 と、不思議そうな顔をしています。お前のせいだろと怒鳴ってしまい、さらに涙が止まらなくなりました。三雄は四郎と話をした内容について勝手に説明を始めました。


「ここは、どこだ?」


「諏訪大社です。そなたが私に色々な物を見せてくれたお方ですね。私は諏訪四郎と申します」


 子供なのにしっかりしているなあと思いながら、


「これはこれはご丁寧に。私は諏訪三雄と申します。色々な物と言いましたが私が何かしましたか?」


「諏訪。諏訪家の者ですか?ですがそなたを見た事がありません。どこにお住まいで?」


「静岡県島田市です」


「それはどこにあるのですか?信濃でしょうか?」


「信濃?ここは長野県ですよね?」


「ここは信濃国諏訪です」


 もしかして、そういう事?


「今は西暦何年ですか?」


「西暦とはなんですか?何年と言いますと年号ですか?それならば、天文22年ですが」


「こちらは西暦2022年です。うーん、わかりました。これから言う事をよく聞いてください。私はあなたの世界から見て未来にいます。多分500年位先の日本にいます」


 天文ていつだよ!流石にわからないけど関ヶ原が確か1600年だからそんなものだろう。だいたいあってるはず?


「未来とはなんですか?地名でしょうか?」


 戦国に未来って言葉あるよね?7歳だとまだ覚えてないだけかな?


「未来とは何と言いますか、そうですね。あなたが私のご先祖様という事です。ヒイヒイヒイヒイヒイヒイじい様くらいでしょうか?」


「……………、という事は先の世にいるという事ですか?そんな事が。私は見たおかしな物は先の世の物という事ですか。それならば納得がいきますが、あの光って服が変わるのはどんな妖術ですか?」


 ん?もしかして戦隊モノか変身モノか。こっそり見てる魔女っ子とか。


「あれはそういう設定でして。実際にあるものではありません。さて、ご先祖様。どうしてここに?」


 諏訪大社の裏にある大木の前で2人は話している。そこには間に透明な壁がありお互いに触れ合う事は出来ない。三雄から見て壁の向こうは天文22年、つまり西暦1553年の世界だ。


「わかりません。何かに呼ばれた気がしたのです。すいません、家の者が私を探しているようです。また会えるといいのですが」


「またここでお会いしましょう」


 諏訪四郎は姿を消した。





「だいたいこんな感じかな?侍の子供みたいな格好をしていたよ。あれが武田勝頼になるんだ。礼儀正しい子供だったよ」


「頭打った?本当に大丈夫?」


「恵子。教えてくれ。この後四郎はどうなる?俺は四郎を助けたい。またここで会う約束をしたんだ。そうだ、2人で軍師にならないか?俺達で武田勝頼を天下人にするんだ!」


「ちょっと待ってよ。なんで急にそうなるのよ。最近の研究では勝頼はすごい武将で信玄亡き後、領地を拡大していいところまでいったのだけど、高天神城で味方を見殺しにしてから人望を失って、ってなんの話よ。違う違う。まずは落ち着いて、ね!」


「俺は落ち着いてるよ。慌ててるのは恵子じゃん。諏訪という姓なのだからやっぱり子孫なんだよ俺。四郎だけど、なんか、俺の見たテレビ番組の内容を夢で見たらしい。赤い糸はともかく、繋がってるのは間違いない」


「わかった。百歩譲ってそうだとしよう。でもなんで武田勝頼を天下人にするのよ?歴史が変わっちゃうでしょ?東京が甲府になっちゃうの?いや、諏訪が東京?新幹線どこ走るのよ?」


「そういう問題?」


 違う気がしますが、それはそれで大変ですね。恵子も三雄の挙動と話しぶりからあながち嘘ではなく、本当のように感じていました。ただ違和感があります。また、歴史を変えてしまう事に対する抵抗感も。


 試しにブーブルで武田勝頼を検索してみました。やはり織田に滅ぼされています。責められて自害、歴史は変わっていません。ところが、幼少期に諏訪に歴史上最古のアスレチックを作り、修業をしたとあります。いやいやこんな歴史はさっきまではなかったはずです。も、し、か、し、て???

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