第5話 軍師
三雄は恵子に夢で見た事を全て話しました。恵子は歴史学者です、神様は信じていませんが、歴史上信仰や言い伝えには何かしらの意味があると学術的に考えています。ですが、三雄の言う事は信仰というより心霊現象に近い、ようは専門外だし普通ではあり得ません。
「一応あんたの言う事を信じるとして、なんで武田勝頼を助けるの?しかもどうやって?」
「それはまだわからない。ただ夢に出てきた諏訪頼重っていう人の言葉を信じると、俺と武田勝頼、いや諏訪四郎は赤い糸で繋がってるらしい」
「………、」
「いや、俺はそういう趣味はないから。誤解しないで。で、教えて欲しいんだ、諏訪家の事、諏訪四郎の事を」
恵子は歴史学者なので、そこそこ歴史には詳しいのです(そりゃそうだ)。戦国は特に。ただ、武田ではなく真田家のファンなのです。特に真田信繁ではなく信之の。世の中には真田幸村として知られる信繁の方が有名ですが、あれは、ただの自分勝手。大名なら家の存続を考え家臣の生活を守るのが本来の役目、とバッサリ切り捨てます。徳川家康に好かれ、家康死後も苦境を乗り越えて幕府壊滅まで真田家を存続させる基盤を作成した真祖こと真田信之。この話が始まるともう止まりません。三雄も何度も聞かされていて、真田家の事はなんとなくわかります。ですが、今知りたいのはそこではありません。三雄は一応姓は諏訪なのに諏訪家の事は全く知らないのに近いのです。
「諏訪家は諏訪大社の大祝の家系、すごく古くからある由緒正しいお家柄よ。南北朝時代から戦国時代の諏訪家ってすごく大変でね。信濃の守護は小笠原家なんだけどさほど強くないものだから、取った取られたの繰り返し。それで色々あって武田信玄のお父さん、信虎の時代に武田に付いたのね。諏訪頼重は武田信玄の妹を正室にしたの。なので信玄の義理の弟になるんだけど、結局信玄は頼重を古府中に呼び出して殺したの」
「えっ、何で?」
「それがややこしいんだけど、信玄が父親を無理矢理追い出して家督を継いだのは知ってる?」
「なんかで見たかも」
「多分信玄は自分が家督を継いで、家臣に俺の方が武田の当主として優れているという事を示したかった。焦っていたのかもしれない。そこから信濃を武田家の物にする戦いが加速していくの。まずは諏訪が狙われた。諏訪家の一族である高遠家と組んで諏訪を攻めた。そして諏訪が手に入ったら次には高遠を攻めた。無茶苦茶でしょ?」
「戦国あるあるってやつ。昨日の味方は今日の敵だっけ?」
「ちょっと違うけど、実態はそんな感じなのよ。で、諏訪を征服して降伏してきた諏訪頼重を殺したんだけど、諏訪家自体は残したの。諏訪は歴史ある家柄でしょ?無くすと後が怖いと思ったのかしらね。親戚が諏訪家を継いでね。で、諏訪四郎の母親なんだけど、諏訪頼重の妾の子供よ。美人だったって伝わっているけどね、子供の勝頼の代で武田が滅んだから諏訪の怨念なんて言ってる人もいるわ」
「何でそんな曰く付きの嫁を貰うかね?よっぽどいい女だったのかな?」
「信玄は好色だったって言うしね。英雄色を好むってやつよ。ただ、結構反対されて大変だったみたい。でも四郎が生まれて諏訪に戻ってからは武田家と諏訪家はうまくいったようなのね。結果オーライってやつなのか、信玄がそこまで考えていたのかは本人に聞かないとわからないわね」
「あれ、その順番だと、諏訪頼重は四郎が生まれた事を知らないよね?あれれ?昨日の夢と噛み合わない」
「死んで霊になったのならわかるんじゃない?まあオカルトだけど、あんたが見た夢自体が変だからね。諏訪頼重を知らないあなたが夢を見るって事自体おかしい。御神渡りの影響だとすると、いやいや、本当にオカルトだよ、それじゃ。で、三雄君はどうしたいの?」
「諏訪四郎を調べる。その前にもう一度諏訪大社に行きたい」
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