第2話 未来視

 諏訪四郎は、高熱を出した以降、何度か夢の中で未来を見ました。ただ、本人はそれが未来だとは知らず、そもそも未来という物が何かもわかっていません。なんの事かは全くわかりませんが色々な不思議な夢を見ました。


 時には空を飛ぶ乗り物や、地面を走る箱のようなもの、ピカっと光ると服が突然変わり赤やピンクの衣装になり突然強くなる謎の人達。あれは一体何なのでしょう?


 一度母親に聞きましたが、


「四郎はよく遊びよく学び、そしてよく寝ているようですね。将来間違いなく立派な大将になるでしょう」


 と、まともに取り合ってもらえませんでした。子供の言う事ですので、母親の応対はそんなものです。


 さて、四郎の7歳の誕生日に父上の名代として山本勘助がお祝いの品を持って諏訪にやってきました。四郎はこの男が大好きでした。あちこち放浪しているようで、来るたびに面白い話を聞かせてくれるのです。


「勘助殿、よう参られた。今日はゆっくりしていってくれ」


「四郎様。お心遣いありがとうございます。ですが、古府中に戻らなければなりませぬゆえ、申し訳ありませぬ」


「そうですか。ところでこういう物を知りませんか?なんというか、こう手に持ってここを引くと何かが飛んでいく武器のようなものです」


「四郎様。どうしてそれを!それは鉄砲という物でございます。今、日ノ本の武将は皆その鉄砲に注目しております。誰に教わったのでございますか?」


「誰でもないのです。夢に出てきました。そうですか、鉄砲というのですね」


「鉄砲は威力は凄いですが、一発弾を撃つのに時間がかかります。それゆえに使いどころが難しいのです」


「そうなのですか。夢で見たのはバン、バンと何発も撃っていましたが」


「そのような物は存在いたしません。ですがそのような物があれば戦は大きく変わりますな」


 勘助は帰っていきました。


「そうなのか。夢は所詮夢なのか」


 四郎はそんなものかとその時の事を忘れてしまいました。ただ勘助の方はこれは大事件と、古府中に向かって全力疾走しています。絵面は、某○兵衛さんの、てえへんだ、てえへんだ〜状態です。


「四郎様は夢と仰ったが、本当であろうか?誰かに仕込まれたとすると、一体誰だ?それに本当にそんな物があるのなら無敵の武田騎馬隊とはいえ勝てぬ。お屋形様に報告せねば」




 四郎は湖衣姫の言うようによく遊び、よく学んでいます。アスレチックジムで汗を流し、木の枝で剣術ごっこ、おもちゃのような子供用弓矢で将来大将になるための訓練も怠りません。ただ、頭の隅には夢で見た飛び道具の数々がありました。


 2ヶ月後、四郎は母上、湖衣姫に勉学のためと称して諏訪家家臣から知識のある者を紹介して欲しいとお願いをしました。この時代の地方では、学問といっても寺でお坊さんから字を学ぶ程度の事しかできません。僧侶や公家は和漢の書籍を読み漁り、覚えた事を利用して大名にアドバイスをしてお金をもらったりしていましたが、なんせここは諏訪です。知識人といえば諏訪大社に関わる人達なのでしょうが、四郎の知りたいのはそういう普通の学問ではありません。湖衣姫にお願いしたのは、薬師、旅芸人、鍛冶屋、そして忍びと呼ばれる人達です。欲しいのは過去の人の知恵ではなく、情報でした。


 目的は夢で見た事の実現です。何故そういう考えに至ったのか?7歳の子供の考える事ではありません。そうなのです四郎には軍師が付いているのです。


 諏訪家の血を引く未来人、諏訪三雄という男です。

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