クーデターと、失落の都市。
超やべー秘密
「なあ、この街の噂、知ってるか?」
シティポップのBGMと少しお洒落なネオン煌めくバーで片肘をテーブルに置き、頬杖をつきながらそんな馬鹿みたいな言葉を気色の悪い笑みをしながら漏らす、正面に座るこの金髪坊主がよく似合うさび柄丸メガネの男は俺の友達、ウィール・ウィリス。噂と女のケツにしか興味が無い。あぁ、ウィールのために言っとくけど女とは言ってもアンドロイドと異形人は対象外。
人間の女と半機械のヒューマノイドだけ。
……僕は正直誰でもイける。だって昨今のアンドロイドなんて質感も柔らかくて暖かくて本当に人間みたいで、しかもソフトを入れればどんなスタイルにも変化できるし、そういえばこの前奮発して買った新型のメイドソフトはどう……
「おー〜ーいクソキモヲタ聴いてんのかー!!!」
ウィールは全く話を聞かない僕に腹を立てたのか顔を僕の顔の前まで近付けて声を荒らげた。
「なんだよ…今この前買ったアンドロイドの事考えてたのに…邪魔しないでくれる?」
キス寸前の近さまで迫ってきてたもはや肌色しか認識できない近さのウィリーの顔面を左手で押し退け顔にとんだウィールの唾をハンカチで拭いた。
テーブルに置かれているカクテルをコクリと一口のみ、ウィールはもう一度頬杖をつきながら口を開く。
「なあ、フレグ。この街の超やべえ秘密、知ってるか?」
「なんだよ。この街なんて隠し事なんてすぐ誰かにバレる。秘密じゃない事が秘密のこの街で超やべーもクソもないでしょ…。
…てか。末端のお前ですらその超やべーの知ってたらもう超やべー秘密じゃねーじゃん…。」
僕は余りのくだらなさに思わず呆れて携帯を取り出そうとした。するとウィールはすかさず前のめりになり僕の手を抑えもう一度口を開いた。
「今回はガチでやべえんだよ。漏洩したらまずい。もしかしたら俺殺されるかもしれねえ。けど、お前にはつたえときてーんだよ!くそおもしれーから!」
…こんなに目を輝かせて話してくるウィールは10年の付き合いで初めて見た。いちばん輝いてたので5年前の高校時代でクラスのアイドルのパンツ見えちゃったときだったから、今回は本当に超やべーんだと思う。
「わかったわかった。そこまで言うなら話してくれ。でもあんまりつまらんかったらここ全部奢りね?」
「おぉ!いいねいいね!それでは息を整えて…!」
ウィールは背中をぴしゃりと伸ばし襟をただし、まるで面接かのような綺麗な姿勢で再び口を開く。
「この街の上層部…まあこの場合暗部?ではある人体実験が行われているんだ。科学で継ぎ接ぎみたいに成長したこの街で、科学とは関係の無い超常的な力を人間に備えさせる計画。その名も…デウス」
「パァァアンッッッ」
……?何が起きた?突如風船みたいな音と共に液体みたいなものや小石みたいなのが顔に飛んできたから眼を閉じてしまった。あまりの轟音に耳が少しキーンとしていて、水中にいるみたいな感覚だ。
悲鳴のようなものが聞こえる気がする。全部遠くにいるみたいな感じでよく分からない。
聴覚が頼れないから、今はとりあえず情報が欲しい。視覚だ。まずは何が起きてるか見よう。
眼の周りについた温くじっとりした液体を両手で拭い取り、目を開く。
…あれ?なんでだ?ウィールの顔があるから見えないはずなのに後ろの壁が見える。
ああ、ウィールの頭がないだけか。なら良かった。
……!!!!!??
情報の処理が追いつかない。ウィールの頭が、首から上が、何も無い。何故だ?これはCGか?合成か?それとも夢か幻か?非日常が襲いかかる。理解できないものが突如として目の前に出現している。
ウィールの首から上は何も無く、首の断面からは子供の水遊び場よろしくピュピューッと血が吹き出ている。
咄嗟に両手を見ると血まみれで、よく見ると脳ワタらしきものが指の隙間に挟まっていた。さっき拭ったのは、ウィールだった。ウィールの一部だった。
途端に五感が元に戻り、この惨状が嫌程に理解出来てしまった。
逃げ惑い叫ぶ客と店員、血まみれのテーブル、頭のないウィールの身体、ウィールの歯が顔に刺さった痛み、肺いっぱいに広がる腐った魚みたいな匂い。
「…!!!!(ァァァァァァァァあぁああああああああぁあああぁああああああァァァァァァァァァ!!!!!」
声が出ない。元々この世界に声なんてものは無かったのかと思うほど自然に声が出なかった、代わりに沢山の吐瀉物が口から溢れ出した。
余りの情報に処理が仕切れなかったのか、僕はそのまま床に倒れ伏した。
まさか…ウィールが人体実験の話をしたから…?
遠のいていく意識の中でそんなことを考えながら、
ゆっくりと目を閉じた。
「…………。BoMだ。漏洩者の処理が完了。計画名は誰にも聞かれていない。」
暗い路地裏、神妙な眼差しで何者かに報告するスーツの男。
「…デウス・エクス・マキナに祝杯を。」
DESTINO CITY うすい @usui_I
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