最終章 王都奪還編
第107話 アルビオンの王女。
「ふむ。揃ったさね」
五大貴族の後継者達が集まった砦の作戦本部。
わたし達は長机を囲むように座り、上座で司会をするロゼリアさまへと視線を向ける。
「シュバルツのところの執事の小僧はどうしたんだい?」
「伯母上。俺はこの作戦に奴を召集しない。自暴自棄になって死なれても目覚めが悪くなるだけだ」
「……そうさね。ダーゴンもあの娘もそれは望まぬだろうな」
キッドさんは不参加。彼はとても戦えるような精神状態じゃありません。
この場にいないヨハン先輩にはキッドさんの側で様子を見てもらうつもりです。
「じゃあ、まずは確認をするさね。今回のブルー家による反乱について各公爵家はどう動く」
「グルーン家は支配された王都の奪還のためにルージュ家に協力します」
「オレらヴァイス家も力を貸すぜ」
当主に意識がなく、身動きが取れない状況なのでマックスさまとティガーさまが当主代理として宣言します。
「三つ公爵家の賛成により、五大貴族の過半数を越えたため多数決でアルビオン王国軍はブルー公爵家並びに加担した騎士団を反乱軍として捕縛。王都奪還を宣言する!!」
ロゼリアさまが声を張って宣言。すぐさま用意された書類に署名がなされる。
これは砦内にいる事情を知らなかったり内乱に戸惑っている兵士達に大義名分を与えるための儀式になります。
「それから駄目押しでこちらに正義があることを示すためにある事実をこの場にいる人間に伝える」
「これ以上の何かがあんのか?」
ロゼリアさまが頷き、わたしへと視線を向ける。
この話し合いの直前にわたしは彼女に呼ばれて個別に話をしました。
それはとても大きな決断で、未だにわたしが受け入れきれていない事実。
でも、わたしがそうすることで少しでもみなさんなんの普段が軽くなるなら。
「そこのエリンが特別な力を持っていることはお前達も理解しているだろうさね。聖獣使いを支援し、瘴気を浄化する御伽噺のような力を」
「ええ。まるで聖女のようだと僕は思っています」
「そうさ。何故そんな力を持っているのかというと、その娘エリンはアルビオン王家の末裔だからだ」
「「「「っ!?」」」」
ロゼリアさまの言葉にマックスさま達が目を見開いて驚く。
「父さ……グルーン公爵が調査をした時は国外生まれの平民だって」
「その国外に駆け落ちした王家の人間が過去にいたのだ。そして、エリンは孤児になったところを今の両親に拾われたのさね」
「そんなことがあるなんて……」
みなさんの視線がわたしへと向けられる。
グレンさまなんて口をポカーンと開けたまま凝視していて、ちょっと恥ずかしいです。
「今までは混乱を避けるために妾とシュバルツ家の間だけで情報を止めていたが、大侵攻を防ぎ、側でその力を実感したお前達にならば伝えても問題ないと判断したのだ」
「姉御は知ってたのかよ〜。アタシだけ仲間はずれだったのか」
「俺ですら初耳なんだが?」
ぶーっと不満気に頬を膨らませるフレデリカさんとルージュ家であるにも関わらず何も知らされていなかったことに衝撃を受けているグレンさま。
「このことを知る人間は少ない方が良いからさね。シュバルツ家はその成り立ちからして王家の護衛のようなものだから伝えたのだ」
「確かにこの情報を知ればエリンさんが権力争いに巻き込まれるのは目に見えてますね。ルージュ公爵の判断は正しいと僕は思います」
「俺は王家の人間の前で国を獲る宣言をしていたというのか? ただの道化じゃないかそれ!?」
マックスさまが納得し、ヴァイス兄妹も情報を受け入れて頷きますがグレンさまだけ独り言を呟きながら頭を抱えています。
大丈夫なんでしょうか?
「その娘の存在は妾達にとって錦の御旗だ。反乱軍を迎え撃つのにこれ以上はあるまいさね」
「エリンはそれでいいのか?」
「わたし決めたんです。こんな風に五大貴族同士で争うことになったのは王家が不在だったからです。争いを止めるためなら運命に従います」
逃げたくないのかと言われたら正直逃げたいです。
何も知らないわたしのままだったら学校を卒業後に魔術に関する仕事をしながら大好きな実家の手伝いをするような穏やかな生活を選べた。
「王都にはわたしを育ててくれた家族がいます。友達や知り合いだっているんです。力のない人達を救うための力があるならわたしはそれを使います」
「……へぇ。その心意気、気に入ったぜ!」
「アタシも兄貴に同感だ。エリンのためにならアタシも頑張るぜ」
わたしの覚悟を笑顔で肯定してくれるヴァイス兄妹。
この二人のこういうカラッとした部分がわたしは好きです。
「そこまでの覚悟があるなら僕から言うことはないね」
「俺もだ。エリンが望むのならば外野が口を挟むことはない……ところで今までの俺の態度は不敬罪にならないよな?」
「今そこを気にしてる場合じゃねぇだろ鳥野郎」
「ば、ばかもの! 相手は姫だぞ!?」
マックスさま、グレンさま……はちょっと混乱しているみたいですが受け入れてくれました。
「姫なんてやめてくださいグレンさま」
「むっ。それならわかったが……ならばそちらも様付けはやめて貰おうか」
「えっ!? だって五大貴族さまですよ!」
「そっちは王家だろう。敬称を付けられてはこっちの心臓に悪い」
「それもそうですね……」
どうしましょう!?
確かにグレンさまの言う通りですけど、ずっと身分が天と地ほどの差がある思っていた貴族の人を呼び捨てにするなんて恐れ多いです。
でも、それはグレンさまだって同じで今までのわたしと同じ思いになったのでしょう。
ここは勇気を出して頑張らないと!
「よろしくお願いしますグレン」
「こちらこそよろしくお願いします。エリン様」
「やっぱり様付けはやめてください! 今まで通りじゃないとむず痒いですぅ!」
急にキリッとした表情で名前を呼ばれてわたしは恥ずかしくなった。
親しかった友人にかしこまられるのがこんなにも不快だなんて考えもしませんでした。
「よし、これからも頼むぞエリン」
「はい。頼りにしていますグレン」
わたしとグレンは真っ赤になったお互いの顔を見ながら名前を呼び合いました。
やっぱりこれ、恥ずかしくて当分は慣れそうにありません! 助けてくださいノアさま!!
「アタシらは何を見せらてんだ?」
「このじれったさ……ふむ。次回作に使えそうさね」
フレデリカさんとロゼリアさんが何かを言っていましたが、心臓の音がうるさくてわたしにはよく聞き取れませんでした。
「なぁ、照れる要素あったか?」
「ははは……僕はノーコメントで」
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