第96話 激闘! 大魔獣VSラスボス令嬢
降臨したガタノゾアの触手が次々と私達を狙って伸びてくる。
「ガンド!」
使い慣れた魔術を使ってその触手を弾き飛ばす。
私が対処出来なかった数本が気絶したフレデリカへと迫るが、エリンの出した光の盾が行く手を阻む。
「キリがないわね」
私は魔術に込めていた魔力の量を変える。
エリンの仲間を守る力を信頼して、敵を排除するためにより攻撃的なものへと調整する。
「チャージガンド!」
数よりも一撃の威力を高めた攻撃はガタノゾアの触手を切り裂いた。
千切れた触手はトカゲの尻尾のようにうねうねと動きながら消滅した。
「切り離された一部から増殖するとかはなさそうね」
「でも、根本から再生はするみたいですよ」
切断面が見えていた触手の中から新しい触手が一瞬で生えるのを見て、再生能力が高そうだと思い気が滅入る。
「ああいうタイプって再生能力以上の攻撃力で潰すのがセオリーよね」
「でも、今のわたし達の魔力じゃ……」
そこが問題だ。
私は地脈からガタノゾアを引っ張り出すのに消耗しているし、エリンだって儀式やみんなのサポートに魔力を使っている。
対する敵は何百年も魔力を溜め込んでいた怪物。おまけにエサが目の前に転がっていて、食べれば補充出来る状況だ。
「あれ? 勝ち目ない?」
「急に冷静になるなよお嬢!」
弱音を口にしてしまい、キッドに怒られる。
「だって、」
「心配ない、こういう場合は別の討伐策もあるものだから」
「ロナルド会長……」
慌てる私の肩に会長の手が置かれた。
ガタノゾアを直視して硬直してた状態から誰よりも早く復帰した彼が私の隣に立っている。
「体は大丈夫なんですか?」
「少しはマシだ、家の者から渡された呪い除けのおかげで」
それに、と会長は続ける。
「君達に情けない姿を見せてはいられない、私はこれでも年長者なのだから」
年長者と言ってもたった一年しか変わらないし、前世の年齢を加えるて私の方が倍も生きているが、今の彼の姿は誰よりも頼もしかった。
「卒業しても会長は会長ですね」
「どういう意味だ、ノア君」
「頼りになりますって意味ですよ」
ガタノゾアはこちらの様子を伺うように待ち構えている。エリンの防御力と私の攻撃力のせいでエサを食べられずに不満そうではあるが。
「それで、別の作戦があるんですよね」
「ああ。あるはずだ、魔獣と同じ性質を持ち、なおかつあの巨体ならば魔力を溜め込むための器官がどこかに」
弱点を狙うってわけね。
でも、あれだけ大きいといったいどこを狙えばいいのかがわからない。
「任せてくれ、私にはこの龍眼がある」
ロナルド会長の右目には特殊な魔眼がある。
龍眼と呼ばれるブルー家の人間に稀に現れる魔眼は相手の魔力を見通す力がある。
それによって敵の魔力の有無や魔力の流れを見て次の動きを予測したりすることが可能だ。
「しかし、私だけでは無理だ。力を貸して欲しい、ノア君の」
「任せてください!」
会長から頼まれて私はやる気を出す。
「イアアアアアアアッ─────!!」
狙いを定めたのか、痺れを切らしたのかガタノゾアが咆哮をあげながら触手を伸ばしてきた。
「ノアさま、ロナルド会長。ここはわたしが食い止めますから行ってください」
「頼んだわよエリン」
私達と倒れているフレデリカ達へと伸ばされた触手はエリンの防御魔術によって弾かれる。
その隙に私と会長はガタノゾアに向かって走り出した。
「全力で撃ち抜いて欲しい、私が指示したポイントを」
「私の残りの魔力で出来ますかね?」
身体強化の魔術で素早く動きながら触手を避ける。
こちらに触れそうになってもエリンが遠隔で盾を出してくれて紙一重で接触を免れる。
「魔女の力を使っても構わない。私には止める方法がある」
「……わかりました」
会長の言う魔女の力はメフィストによって災禍の魔女から引っ張り出している力の一部ではなく、本来の魔女の力のことだろう。
最近は私も魔女の力を使いこなしているから暴走しにくくなっているとはいえ怖い。
だけど、ここでみんなまとめて死ぬのはもっと怖いし、私達が突破されたら魔女の被害よりももっと凄惨な結末が待っている。
「来い、青龍」
会長が名前を呼ぶと離れた場所で一般の魔獣を相手にしていた青龍がすぐ側に現れる。
「失礼するよ、ノア君」
「ひゃい」
突然会長に抱き上げられて変な声を出してしまったが、なんとか青龍の首元に跨る。
私と会長を乗せた青龍はガタノゾアの真上へと空を駆ける。
「……そこか、奴の核は」
「どこなんですか?」
会長が指差したのはガタノゾアが背負っていたアンモナイトみたいな殻だった。
「あの中だ」
「攻撃が通じるかしら」
触手であれば私のガンドでも十分に通じたが、いかにも硬そうな殻に効くのか不明だ。
でも、魔女の力ならそんなもの関係なしに倒せそうな気がする。
暗き森での二度目の暴走の時も周囲にいた魔獣が瞬く間に魔石になって砕けたとキッドが話していた。
「私と青龍が君を送り届ける。倒すんだ、魔女の力を使って」
「お願します会長」
心配事は山程ある。
だけどこの場には覚醒したエリンや頼りになる聖獣使い、それにキッドがいる。
原作では魔女に精神を支配されて暴れていたノアを彼女達が倒してくれた。だからもしもの場合は……。
「任せたわよエリン、キッド」
あの二人ならば何があっても私を止めてくれるという信頼があった。
私が覚悟決めたからか、青龍が勢いよく降下を開始した。
このスピードなら着地するというよりは突撃して衝突する方が威力が出そうね。
「……力を貸しなさい魔女!!」
ガタノゾアに辿り着くまでを会長に任せ、私は意識的に体の中に流れている魔力を切り替える。
今までは私よりも魔女の魂の侵食が強くてあちらの精神世界に引き込まれそうになっていた。しかし、メフィストのおかげで意図的に漏れそうな魔力を使い、多少は扱えるようになった今ならあの空間に飛ばされることはない。
「くっ……」
暗闇の魔力の海に手を触れるイメージをすると無数の手が伸びてきて私を取り込もうとした。海の底にはあの魔女が呪いの言葉を吐きながら私を見つめているような錯覚を起こす。
「今は、黙って、……私の言うことを聞きなさい!」
自分のものじゃない力が溢れ出して気持ち悪くて苦しい。
でも、初めて私は暴走することなく魔女が持つ本来の魔力を引き出すことに成功した。
「会長!」
「流石だ、このまま突っ込む」
ガタノゾアは自身の脅威となる私の魔力に気がついたのか、上空を見上げて触手を伸ばしてきた。
「させません!」
しかし、光の盾が触手を次々と弾き、火が、風が、魔術の嵐が怪物の動きを封じる。
「みんな!」
強化された視力が踏ん張って立ち上がり、こちらを援護してくれたキッド達を捉えた。
同じ五大貴族の会長が戦っているのに負けていられないと思ったのか、ガタノゾアの注意がこちらに逸れたからなのかは分からない。
でも嬉しい。ただのラスボスとしてゲームでみんなから袋叩きにされて負けて死ぬはずだったノア・シュバルツがこんなところまで来れたのだ。
この魔獣を倒せばゲームのシナリオはエンディングを迎えるのと同じだ。
──私はこの先の景色が見たい。
魔女の魔力を身に纏いながら魔術を発動させる。
重力の増加により、青龍の落下速度を速くさせてガタノゾアが逃げれないようにする。
「イアアアアアアアッ─────!!」
続いて私達を動けなくしようと向けられた瞳。その瞳から放たれた魔眼のような力を跳ね返す。
シュバルツ家の人間に呪術を使うなんて勉強不足ね。それに呪術への対策は私が最初に読んだ魔術書に書いてあったから得意分野よ!
魔女の力によって片手間に跳ね返された呪いは呪詛返しとしてガタノゾアの体の一部を石化させた。
「──────────■■■■■■ッ!!」
もはや聞き取れない音の叫びをあげながらガタノゾアが最後の抵抗に出た。
身動きが取れない大魔獣は口から真っ黒な墨のようなものを吐き出す。墨は空気に触れると霧のように広まって瞬く間に周囲を闇で包み込んだ。
音も、光も届かない完全な闇の中。上下左右の感覚も掴めない。
「でも、それって悪手よね」
あらゆる感覚を塞いで狙いをズラして地面にぶつけさせるのが目的だったのだろうか。
「私には見えなくても会長の目ならアンタの魔力を見ているはずよ」
日本にいた頃に攻略途中だったロナルド・ブルーのルートでは悪魔メフィストと戦うシーンがある。
そこでメフィストによって攫われたエリンは暗闇で満ちた結界の中に閉じ込められるのだが、それを助けたのが龍眼を使ったロナルドだった。
「アンタみたいな魔獣は永遠に眠っていなさい!」
私がそう言うのと同時に衝撃があった。
確実に何かを打ち砕いた感触があって、周囲の闇が薄くなる。
「そこだ、ノア君!」
周囲にはおどろおどろしい肉壁があり、濁って穢れた魔力が集まっていた。
ガタノゾアの体内空間、その中心に埋まっていたのはブラックパールのような核だった。
「ガンド!」
私が指先から全力全開の魔術を放つと、核は甲高い音を立てて砕け散った。
そして、周囲の肉壁や地脈を汚染していた魔力が霧散していく。
ついに私達は大侵攻の原因となっていた魔獣ガタノゾアを討伐することに成功したのだ。
♦︎
「やりましたよ会長!」
勝利に喜ぶ私は会長の元へ近づいてハイタッチを求める。
この戦いのMVPを選ぶなら間違いなく会長だ。何せ最後の暗闇の中で狙いを外さずに攻撃を当てたのは彼だからだ。
「そうだ。ああ、これで果たせる、私の任務を」
早くエリン達に合流しようと思ったその瞬間だった。
会長はいつの間にか銀色の短剣を握っていた。
──ザクっ。
「……え?」
「すまないが、君には死んでもらう。恨んでくれて構わない」
……ふんぐるい、むぐるうなふ……ふたぐん…。
どこかで だれかが いのりを ささげた。
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