第75話 五大貴族会議 その2。


「では次の報告に行きます」


 ブルー公爵からのお叱りがあり、静かになったのでグルーン公爵が話を続ける。


「暗き森の魔獣については現在、騎士団が討伐にあたっている。すぐに王都が魔獣に攻め入られる心配はなさそうだ」


 その言葉を聞いてホッとする。

 あの規模の魔獣が王都を襲ったらとんでもない騒ぎになっていたからね。


「しかしのぅ。いつ同じようなことが起こるかもしれんから王都の警備は厳重に行うべきじゃろ」

「そんなこと言っても人員が足りませんよ」

「儂が声をかけて東都から人を寄越す。それでいいじゃろ」

「おやおや。随分と大盤振る舞いなことね爺さん」


 ブルー公爵の申し出を聞いてルージュ公爵が鋭い視線を向けた。

 なんか、私あのおばさん苦手かも。


「東部領は魔獣被害が少ないからの。兵の練度が高いのもあるし、これくらいは任せて貰おう」

「助かりますブルー公爵。西と北は厳しくて王都にいる者しか動かせなかったので」


 そういえば魔獣の動きが国全体で活発化しているって話を前に聞いたわね。

 ティガーが公爵代理をしていたのもそれが理由だったし。


「逃げた悪魔についても騎士団と儂の兵で捜索させてもらおうかの」

「悪魔については魔術局の管轄である。余計な手出しは控えてもらおう」

「じゃが、魔術局は人探しが上手くいっておらんようではないか。五年前の人攫い、指名手配中の黒魔術師、それに今回の悪魔。見つかっておらんのじゃろ?」


 成果が出ていないことを指摘されて苦い顔をするお父様。

 魔術局は魔術全般に関する業務や研究もしているので、悪い魔術師の捕縛に割ける人員はそんなに多くない。


「そう険しい顔をするでない。困った時は助け合いじゃ。今までもそうしてきたではないか」

「……わかった。捜査の協力を申し出るのである」


 お父様は渋々頷いた。

 ローグのせいでメフィストは消え、ヒュドラとは因縁があり、悪魔についてはシュバルツ様が一番詳しいから自分の手でどうにかしたかったのだろう。

 でも、こうも立て続けに事件が起きていては手を借りるしかない。


「話は済んだっぽいな。俺からの報告も聞いてもらおうか」


 暗き森の魔獣騒ぎやコロンゾン捜索についての話が終わると、ヴァイス公爵が手を挙げた。


「良くねぇ知らせだが、近い内に大侵攻が発生する」

「それは本当かい?」

「あぁ。間違いない。過去の文献やら西部領の魔獣被害の増加傾向からしてほぼ確実だ」


 ヴァイス公爵の話で場が騒がしくなる。

 すると、隣に立っていたエリンが私の袖を引いてきた。


「ノアさま。大侵攻ってなんですか?」

「魔獣の大量発生による災害のことよ」


 私はこっそりとエリンに大侵攻について説明をする。

 エタメモに出てくるワードで、作中でもとびっきり大きなイベントだ。

 この世界にはいつの時代からか魔獣という存在が生まれて人類を脅かしている。

 そんな魔獣の発生原因については不明だけど、魔獣には一定周期ごとに活動が活発になるという性質がある。

 その魔獣の動きが活発化している時期に発生する魔獣の大群による災害が大侵攻だ。


「何故だかは分からないけど、魔獣は西から来るものとされているの」

「西からですか……」

「西部領の端に人が住めない死の大地っていう場所があってね。そこは数百年に一度、魔獣が大量に誕生して津波のように国を飲み込もうとするの」

「それって物凄く大変なことじゃないですか!」


 暗き森の比ではない魔獣の大軍勢。

 放っておけばアルビオンの全土が滅んでしまう。


「でも安心して。大侵攻はいつも守護聖獣の力によって阻止されているの。あの災禍の魔女の時でさえ防ぎ切ったのよ」

「あっ。じゃあ、今回も」


 そう。この大侵攻は攻略キャラとヒロインが大暴れする一大イベント。

 ラスボス戦前の経験値稼ぎの場でもある。

 そして、この場で活躍することでヒロインは国民からも支持されるようになって最終決戦で助けてくれるのだ。


「今、西部領では大侵攻に向けた準備をしているが、戦力も物資も足りねぇ。だから協力を要請する」


 珍しく自信家なヴァイス公爵が頭を下げた。

 それだけ大きな災いなのだ。


「大侵攻が終われば魔獣被害も落ち着くと言われているな。グルーン家は喜んで協力しよう」

「罪人の捜査をブルー家が引き受けてくれるのであれば魔術局の戦力を限りなく全てそちらに回せるのである。シュバルツ家も参加する」


 グルーン公爵とお父様が協力を申し出た。

 残りはルージュ家とブルー家だ。


「残念じゃが、場所が遠過ぎる。最終防衛として王都と西都だけは死守しよう」


 ブルー家は大侵攻への参加をしない。

 でも、これは何百年も同じで地理の関係上仕方ないことだ。

 東部から西部の端は遠い。

 東部領の先には他国との国境もあるのでそちらを疎かに出来ないというのがブルー公爵の言い分だった。

 けれど戦えない避難民なんかは王都と西都で受け入れてくれるそうだ。


「気は乗らないが、ルージュ家も手を貸そう。ありがたく思え」

「国の一大事だってんだよ。偉そうにするなロゼリア。大体、テメェの所が物資を貯め込んでいるのは知っているんだからな」


 ルージュ家も協力する……というか、西部領が滅びると次は北部か南部が被害に遭う。

 流石にどこか一つの勢力だけでは太刀打ち出来ないのはわかっているので当然の参加だ。


「王家が滅んで、守護聖獣が姿を見せなくなって、次に大侵攻があればアルビオンは滅ぶと言われてた。でも、運命は俺らに味方した」


 五大貴族の後継者が全員守護聖獣の力に目覚めた。


「この大侵攻を絶対に防いでみせる。だから力を貸してもらうぞ」


 その言葉に椅子に座っている全員が頷いた。

 こういう普段はいがみ合っていたり、競い合いをするみんなが協力して立ち向かうって展開は王道で好きだ。


「更に、今回は期待できそうな奴らもいるからな」


 ヴァイス公爵が私とエリンに視線を向けて笑った。

 あぁ、ついにこっちの話になるのね。














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カクヨムコンの読者選考期間も終わったようです。応援ありがとうございます。


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