第73話 快気祝い! そして潜む影。
「完全復活!」
「おめでとうございます。ノアさま」
魔術学校にある食堂。
そこで私は天へと拳を突き上げて元気いっぱいであることアピールした!
「お嬢が元気になってなによりっすね」
「ねぇ、私は疑問に思うんだけど、キッドの方が完治するの早いっておかしくない?」
魔女の力を使った疲労なのか、中々体調が戻らなかった私と違い、全身包帯男だったキッドはすっかり元通りに動いていた。
相変わらず、キッドの回復力には驚かされる。
「オレの取り柄はこれだけなんで。さぁ、そんな事より今日はお嬢の快気祝いっすからね。じゃんじゃん食べてくださいよ」
「わたしもケーキを作ってきたので、よろしければどうぞ」
「ありがとう二人共!」
目の前のテーブルの上に並べられた美味しそうな料理とお菓子。
遠征中はワイルドな食事だったし、王都に戻ってからは体調が良くないので病人食だった。
我慢していた分も合わさって私のお腹ぺこぺこ具合は過去最高を記録している。
一人で全部食べてしまいたいけど、折角だし三人で分けて仲良く食べる。
「いや〜、食事の調理場が借りられて良かったわね」
「そうっすね。休校が決まってから理由する生徒が減りましたし。地元に戻る奴もいますからね」
周囲を見渡すけれど、平日の昼間だというのに人の姿はまばらだ。
今現在、学校に残っているのは遠方過ぎたり金銭の問題で故郷へ戻れない生徒や私達のように学校に理由があって学校に残るように指示された人間くらいだ。
「ちょっと寂しいですよね」
「そうね。まだ怪我で入院している子もいるし、先生達も数が足りなくて授業再開の目処がたっていないそうよ」
魔術学校はその機能を完全に停止してしまった。
それに王都内では、近郊の暗き森に魔獣の群れが現れたという暗いニュースで人々の不安が高まっている。
大半は討伐したとはいえ、残っている魔獣もいるので魔術局と騎士団が協力して対処している。
お父様からはその対応に追われていてお見舞いに来れないという手紙が届いた。
「これからどうなってしまうんでしょうか……」
「まぁ、まずは今度開かれる五大貴族会議っすね。そこで今後の方針が決まるはずですよ」
五大貴族会議。
アルビオン王国で最高位の五つの公爵家が集まって国家の運営について話し合う場だけど、それが今回臨時で開かれる。
そして、その会議の場に私とエリンが招集された。
「あー、行きたくないわ」
「諦めてください。他の五大貴族の後継者も全員集合なんすから、お嬢だけ来ないのは無しっすよ」
「わたしはどうして呼ばれたんでしょうか……」
ひたすらに面倒で行きたくない私と違い、出廷を命じられた罪人のように怯えるエリン。
私としては知り合いが大半の場だけど、彼女からすれば雲の上のような存在が一堂に集まる場所に行くのよね。
「それはエリンの活躍を讃えるためよ」
間違いではない。
エリンが魔獣の群れに襲われた時に仲間達に支援魔術を使ったのは周知の事実だ。
しかし、問題なのはその相手の効果だ。
マックス達五大貴族の後継者達は守護聖獣を召喚していた。本来なら膨大な魔力を消費する守護聖獣は最後の切り札として温存し、それまでは細々とした低燃費な魔術を使うしかない。
なのに、エリンの支援を受けてからは守護聖獣を長時間使役し、本人達も大立ち回りを繰り広げた。
これは本来ならありえないことだ。他人を強化したりする魔術こそあれど、複数人に、しかも守護聖獣なんていうものを強くするなんて規格外だ。
それもこれも、エリンの中に眠る王族の血が引き起こした特別な力だ。
この五大貴族会議でそこが指摘されてバレてしまうのは間違いない。
私が知るエタメモでも似た展開はあった。いずれは避けて通れぬ道だ。
「ピカピカ光ったせいでしょうか……」
「私は爆発しちゃったしね。お互いに大変よね」
二百年前にアルビオン王国をかけて対決した災禍の魔女とそれを討ち倒した王族の末裔。
そんか二人がこうして揃っているのは運命のいたずらとしか思えない。
今、この国は大きな変革の渦の中だ。
それが良い方向へ転がるか、悪い方へ行くかは五大貴族会議次第というわけだ。
「ほらほら。二人共そんな顔してたら料理が冷めるっすよ。さっさと食べましょうよ」
「そうね。いただきます!」
「わたしも、いただきます」
未解決の問題や不安はあるけれど、三人で集まったこの食事会は私に元気をくれた。
願わくばこの穏やかな時間がずっと続きますように。
そして、早く学校が再開しますようにと私は願った。
♦︎
「……ただいま戻ったデスよ」
「随分と遅かったじゃねぇか」
薄暗い部屋の中、灰髪の少女に声をかけたのは髪を編み込んだ独特なヘアースタイルの男だった。
「……それがもう、ご主人様の機嫌を損ねてお仕置きされていたんデスよ。おかげで肉体がボロボロなのデス」
少女は真逆の方向に折れていた腕をバキボキっと戻した。
一般人ならあまりの痛みにのたうち回るが、少女は顔色一つ変えなかった。
「相変わらず気持ち悪いガキだ。いや、人間ですらねぇんだっけか? まぁ、そんなんは俺にとってはどうでもいいか」
腕に刺青のある男は近くにあった椅子に乱暴に座ると酒瓶を開けて飲んだ。
昼間から酒を飲む男に興味を無くした少女は部屋の奥にいる人物へと声をかける。
「……おじいさん。預けてもらった魔獣デスけど全滅しましたよ」
「なんじゃと!? ワシがどれだけ苦労してあの魔獣を作り出したと思っておる!」
白い髭の生えたミイラのような老人が怒った。
呪詛返しによって死にかけた状態でも依頼人から指定された納期を守ったというのに、その成果を台無しにされたので当然の怒りだった。
「……五大貴族の後継者を殺すのは上手くいきそうだったのデスが、思わぬ邪魔が入りまして」
「守護聖獣が相手でも数で押せば魔力切れを狙えたじゃろう」
「……それがどうも事前のデータよりパワーアップしているようなのデスよ。それをご主人様に報告したら更なる改善案を出せと伝言を預かったのデス」
「年寄りを殺す気か! 全く、いくら追い詰められていたとはいえ、手を取る相手を間違えたかの?」
積み重なった仕事に更に無茶難題が追加されて頭が痛くなる老人。
しかし、同時に今いる環境よりも上を目指すのは困難なので大人しく従うことにする。
「おい盗賊よ。追加の実験材料を集めて来てはくれんかのう。新鮮なのをニ、三くらい」
「あぁ? 今日は店仕舞いだ。それに、ここ最近は都市間の往来が減って獲物が少ない。人攫いも簡単じゃねぇんだぞ」
「……それなら良い情報があるデスよ。魔術学校の生徒が一斉に地元に帰っているそうデス。そこを狙うのは如何デスか?」
「魔術師であればなおいいな。盗賊よ、さっさと集めに行ってこんか!」
「うるせぇ奴らだ。あの方の金払いが悪かったらとっくに殺してやってんのに……くそっ」
酒瓶を一気に飲み干し、ローグ・バッドは部屋を出て行った。
態度は悪いが、仕事はきっちりこなすのは知っているので、ヒュドラ・ノワールは何事も無かったかのように再び研究に戻った。
疲れた体を癒すためにコロンゾン・クロウリーはソファーの上で横になり、呟く。
「……さぁて、次に会った時はもっと楽しませてもらうデスよ。ノア・シュバルツ」
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