第56話 学校からのお知らせ。
エリンが私に添い寝を頼んでくるという微笑ましいイベントの翌日。
やっぱり一晩休んだだけじゃ完全回復とまではいかないわね。すこぶる調子が悪いわ。
「ちゃんと起きれたようっすねお嬢」
登校して朝のホームルームを待っているとキッドが私の側にやって来た。
「そっちこそ。傷の具合はどうなの?」
「ぐっすり寝たんでほぼ治りましたね。魔術局での手当てが効いたんでしょ」
タフというか頑丈な体をしているキッドはなんともなさそうにぐるぐると肩を回す。
この差はなんだろうか。私、ラスボスなのに!
「姐さんとキッドじゃねーか。昨日はえらく騒がしかったけど無事みてぇだな」
「おはようティガー。私達が何やっていたか知っているの?」
「今朝方にな。夜中に空が光ったのは見たんだが、勝手に出て行くわけにもいかねーからな。魔術局から当主代理宛に報告書が届いたんだよ」
お父様ったら仕事が早いわね。
私の元にも朝から手紙が届いていて、内容としてはしばらくシュバルツ邸には戻るなというものだった。
またキッドか私が帰った時に襲われたりすると困るって書いてあった。
屋敷の管理云々はお父様がするそうだ。
「内容を読んだ時は冗談かと思ったが、ゾッとする話だったな。姐さんが元気そうで良かったぜ」
「元気いっぱい! ってわけじゃないけどね。私は何も出来なかったし」
変装して近づいて来た悪人には気づかないし、まんまと魔術をかけられて誘導されたかと思えば正面対決で負けてしまった。
黒魔術の名門であるシュバルツ公爵家の名折れだ。
「みんなおはよう……」
「あらマックス──って大丈夫!?」
自分の反省点について考えていると教室に青白い顔をしたマックスが入って来た。
もしや昨日の戦いで何か体に異常があったの!?
「僕は大丈夫だよ」
「いや、マックス様。全然大丈夫じゃなさそうっすけど」
キッドの言葉に私達は頷く。
何なら今の彼は魔力切れで気絶する前よりも辛そうな顔だ。
「体は本当に大丈夫なんだよ。こんな顔になっているのは父さんが用意してくれたグルーン家秘伝のポーションのせいなんだ」
秘伝のポーションというのは聞いたことがある。
エタメモの戦闘パートで飲むだけで魔力の回復を早めてくれる優れものだった。ただ欠点があって、使用すると何故か攻略キャラの好感度が下がるのだ。
「効果は高いんだけど、味が不味くて。朝食も喉を通らなかったよ」
「そんなヤバいのか?」
「その辺の雑草の煮汁の方が美味しいくらいさ」
ぷるぷる震えながらポーションの感想を聞かせてくれるマックス。
戦闘中にそんなものを飲まされたらそりゃあ好感度も下がるわね。
「今日は休んだ方が良かったんじゃないの?」
「いいや。魔力切れになった以外は大した怪我も無いしね。ポーションを飲んだとはいえ完全回復ではないから実技の授業は見学だけにさせてもらうけど、座学は受けたいんだ」
真面目で勉強熱心なマックスらしい考えだ。
とはいえ、
「キツかったらちゃんと言うのよ? 汚くて見辛いかもだけど、あとで私のノート見せてあげるから」
「ありがとうノアさん。その気遣いだけで元気になるよ」
「そ、そう……」
冗談っぽく笑うマックス。
いつもの穏やかな彼の笑みを見て私は胸がドキッとした。
昨日の力強くて、私を守ろうとしてくれた彼と普段の姿のギャップがあり過ぎて何とも言えない気持ちになる。
これはしばらくまともに顔を見れないわね。
「どうしたんだ姐さん? 顔赤いけど熱でもあんのか?」
「なんでもないわよ!」
野生の勘なのか、たまに鋭いことを言うティガーに思わず大きな声を出していると教室にグレンとエリンが揃ってやって来た。
朝ご飯を一緒に食べた後に生徒会室に用事があると別れたエリンだけどそのままグレンと動いていたのね。
ちなみに私は昨日の件もあって数日は生徒会を休むことになった。
放課後に魔術局の人からヒュドラについて事情聴取を受けたりするためだ。
「思っていたより元気そうだな。貴様ら──顔色悪いぞ!?」
「その話は終わったわよ」
マックスを見てギョッとするグレンに今していた話の内容を説明する。
エリンもそれを聞いてマックスに「お大事に」と言ったところで教師が来てホームルームが始まった。
授業については昨日の朝に配られた時間割り通りで変更は無いが、放課後と休日の過ごし方について話があった。
「現在、この王都に凶悪な指名手配犯が潜んでいると魔術局と騎士団から連絡がありました。なので放課後に学校外へ行くことは基本的に禁止です。やむおえない場合は必ず先生方に報告を。休日については外出は可能ですが、数人のグループで行動してください。決して一人で路地裏などの人気がない場所に行かないようにしてください」
ゾンビパニックがあったことは話されなかったけど、上はヒュドラをかなり警戒しているようで生徒には行動の制限がかけられた。
安全が確認されるまでは王都内をいつもより大勢の武装した衛兵や騎士がパトロールをするようね。
「それから再来週の暗き森への遠征については予定通りに実施されますのでこちらの準備を忘れないようにしてください」
ゾンビ絡みの次は遠征について説明があった。
危険な魔獣が住んでいる場所への遠征とあってみんなは緊張しているかと思ったけど、意外と笑顔で嬉しそうにしている子達が多かった。
卒業後のために実戦経験を積みたい二年生と違って一年生は魔獣の討伐よりも野営の方がメインなところがある。
学友と屋外でキャンプするって言いかえると確かに楽しそうね。料理も現地で火をおこして自分達で作るみたいだし。
男子の中には実家で親に連れられて野営経験がある子もいて女子の前でカッコいい所を見せようとする者もいる。
「野営なら兄貴の得意分野だな」
「肉の調達とかなら任せろ!」
ヴァイス兄妹は予想通りにそういうのが得意そうだ。
料理ならキッドとエリンが頼りになるし、森についての知識ならマックスがいる。
グレン? 焚き火係でいいんじゃないかしら。火の魔術が得意みたいだし。
「ノア・シュバルツ。貴様は野営の経験あるか?」
「んー、あるわね。そこまで本格的なものではないけど。グレンはあるの?」
「無い。だが、俺ならばパーフェクトに設営をこなせるだろう」
どこから湧いてくるんだその自信は。
私の場合は今世では無いけれど、前世で何度か親に連れられてキャンプに行ったことがある。
便利な道具があったあちらとは違ってこっちのは大変そうだけど、友達とテントの中でお泊まりなんてリア充っぽいなぁ。
「ノアさま。次の週末は一緒にお買い物に行きませんか? 図書館で調べた時にいくつか揃えたいものがあったので」
「それはいいわね。折角だしみんなを誘って行きましょうよ。外出は大人数で行動しなさいって言われたばかりだしね」
嫌な事件があったりして精神的にもリフレッシュしたいし、ここはパーっとショッピングしたり遊びたい。
それから後は、遠征中に発生するであろうイベントに備えて策を練りたいしね。
ゲーム主人公が参加する野外イベントなんてハプニングが起こるのは確定事項みたいなものだし。
けどまぁ、大丈夫でしょう。私が知っているよりもこちら側の戦力はずっと多いし。
五大貴族の後継者が私以外は守護聖獣を呼び出せるんだし、安心して挑めるってわけよ。
「みなさんと一緒だなんて週末が楽しみですね」
「そうね。私も楽しみだわ」
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