Chapter1-4



「たかが一人増えた所で!!」


「たかが一人かどうか教えてあげるわ!!」


 だが挑発の言葉を口にしながらも断己は理解していた。この目の前の新たなる戦士は明らかに先ほどまでの四人よりも強いと、両者の間の闘気で理解していた。


「ほう、出来るようだな新たなる戦士よ!!」


「新たなる戦士って……ま、あんたから見たらそうか……」


 断己は戦意を上げて叫んでいるが相手は手を抜いているようで黒の剣は裏拳で簡単に弾かれ振り向き様の蹴りで距離を開けられた。


「くっ、中々だな……」


「実力差分かっててやせ我慢してるなら見逃してあげるから、私もこの子ら連れて行かなきゃいけないし」


 おかしいと断己は混乱していた。先ほどまでは完全に勝利の美酒に酔いしれていたのに目の前の女が現れただけで形成が逆転してしまった。


「いや~今回の幹部強かったけど、洸ちゃん来たらダメでしょ」

「やっぱレジェンドは格が違うねぇ~」

「あの新しい子らって十代目だろ……まだ弱くても仕方ない」


 先ほどから良い感じで喋ってた町の三人組のオッサン達がとんでもないワードを口にしていた気がするが断己は諦めない。


「くっ……事前情報が無いとはいえ、どう言う事だ……だが我が野望の成就のために!! 行くぞバニッシュ――――」


「じゃ私も剣で行くわよ……ステラブレード!!」


 断己が黒の剣で必殺の一撃を放つ前に、それより早く自らの赤い剣で牽制する。互いの剣先から火花が飛ぶが二人は構わず剣戟を繰り広げていく。


「お~すげえな、あの黒いの洸ちゃんと戦えてるぜ」

「俺らならワンパンだしな~」

「最近の悪の幹部はすげえなぁ……」


 そんな町民たちをよそに二人は激しい戦いを繰り広げていた。黒い剣から放たれる一撃は科学の粋を越えたオーバーテクノロジーを駆使して繰り出される一撃で当たれば敵を簡単に消滅させるほどの威力だ。


「へえ物騒ね、その剣!!」


「よく言う、あなたの剣も危険な物のようだな」


 互いの剣を何度もぶつけ合いながら一歩も引かない状況となっていたが断己は気付いていた。手を抜かれているという事実に……。


「ならばっ!!」


 今度は鎧の出力を30%から一気に50%まで引き上げる。現状では80%が限界で100%まで出せば中の人間が死んでしまうという欠陥があるのだが、これでも先ほどの四人と戦った時よりは明らかにパワーが上がっている。


「へえ、面白いオモチャじゃない……ん? その黒い鎧って、まさか!?」


「オモチャかどうか思い知らせてやるステラ・ドゥーエ!!」


 剣だけではなく鎧の銀の関節部から黒紫色の粒子を発しながら勢いよく拳を繰り出すが、その一撃も片手で防がれてしまった。


「痛いじゃないの!? 最近は手荒れが……って何言わせんのよ!!」


「ぐはっ、くっ……何だ、今の一撃は……」


 ドゥーエの少し気の抜けたパンチで黒い鎧は一瞬でアラート状態になり中の断己の目の前は真っ赤になっていた。


「あ~ゴメン、つい力入っちゃってね、大丈夫?」


「くっ、心配は無用だレディ……」(まずい、まず過ぎるぞアメリカで完璧に調整して来た鎧が……たった一撃でここまで)


「そ~お? じゃあ次は本気で行くけどいいかしら」


「望む所だ……」(ここで退くわけには行かない……)


 よろめきながらも出力を何とか通常の状態まで持って行くが中の断己は既にフラフラだ。しかし意地だけで立ち上がる。


「じゃあ、行くわよっ――――」


 ステラ・ドゥーエがブレードを構えた瞬間いきなり爆発音が周囲に響いた。さらに断己の周囲にも何かが着弾したかと思えばスモークが噴出し辺り一面は煙で見えなくなった。


「くっ、これは……ちっ、今日はこの辺りで見逃してやろう、中々いい戦いが出来たぞステラ・ドゥーエ、そしてステラ・プエーレ……さらばだ!!」


「ちょっ、もう居ないか……それにしても、いかにもなセリフ言って煙バラ撒いて逃げ出すとか……こりゃ昔懐かしいのが出て来たわね……今のこの子達じゃ……」


 煙が晴れると自分の教え子たちを追い詰め倒した黒い鎧の男は消えていた。今の撤退まで考えて戦っていたのなら実に鮮やかな手口だと感心すらしてしまう。


 今までの敵とは違う。少なくとも他の四天王のような生温い相手ではないとステラ・ドゥーエこと星守学園高等学校の教師、八重樫やえがしひかりは変身を解いて先ほどまで断己の立っていた場所を見つめていた。


「洸ちゃん相変わらず強いね~」

「さすがは初代ステプレの売れ残り!!」

「伊達に十三年もステプレやってないね~」


 そして平和になった瞬間に出て来た町の三バカや他の住民たちに囲まれて人気者状態だ。その間に負傷し倒された四人のステプレはコッソリと停車したハイエースに乗せられて運ばれた。


「うるっさいわね!! 私も好きで売れ残ってるわけでも、十年以上もステプレやってる訳じゃ無いのよ~!!」


「よっ!! 30目前の最強アラサー戦士!!」


「じゃかしい!! まだ27よ!! 27歳なのよ!!」


 これも未成年で今年から就任した10代目の後輩たちの正体バレを防ぐために住民たちに注目されているのだが彼女への精神的ダメージは大きい。


「でもあと、二ヵ月で28でしょ?」


「あ~~~~!! 思い出させないでよっ!! 今年こそ、今年こそはステプレを辞めて寿退社してみせるんだからああああ!!」


 そしてステプレになり成人を迎えてから通算三度目になる宣言をして今日も平和は守られた。彼女の婚期を犠牲にして星守町の平和は守られているのだった。




 一方、帰還したスターダストナイト二世こと断己は第三ラボの指令室に苛立ちながら入室した。


「ご帰還お待ちしていましたスターダストナイト二世さま」

「素晴らしかったですよ!! まさかステプレ四人を圧倒するなんて」

「今までERRORは奴らに連戦連敗だったんです」


 研究員や警備員たちに囲まれ歓声を浴びせられていた。奇しくも構図が洸と同じになっているのは運命と言う名の皮肉で当人たち同士は全く知る由も無い。


「下らない……」


「スターダストナイト二世さま?」


「実に下らない!! あのような無様な戦いを見てよくそんな事が言えたな諸君」


「それは……」


 マスクを取ってさらにヘッドギアも外し素顔を晒した断己は苦悶の表情を浮かべていた。もちろん彼の頭の中は最後に現れた戦士ステラ・ドゥーエただ一人だけだ。


「あれは何だ!! 規格外のパワーに圧倒的な強さ……何より堂々と正体を晒しているとか有り得ないぞ!!」


「そ、それは……その……」


 返答に窮している研究員に詰め寄っているとラボの中央の巨大ディスプレイに通信が入った。


「止めるのだ、スターダストナイト二世よ」


「総帥!!」


「とうさっ、いや、総帥……」


「今回の戦い……実に見事!! ステラ・プエーレを四人も撃退するとはな……さすがアメリカ支部を一年で勝利に導いた逸材よ」


 そう、何を隠そう彼、夜劔やつるぎ断己たつきはアメリカ支部で辣腕を振るいアメリカの実に半分以上を裏から支配する事に成功していた。今やアメリカ経済はERRORの言いなりと言っても過言ではない。


「お褒めの言葉感謝致します……しかし私はあと一歩で敗北しておりました、先ほどのスモーク弾は誰が?」


「それはこの日本本部でお前の右腕となってくれる者達がやった事だ……間も無くそちらに到着するだろう、では私は表の仕事に戻る、また後で会おう」


 それだけ言うと三代目ERROR総帥の夜劔断真たつまは通信を切った。そして通信が切れたと同時に入室して来た二人を見て断己は驚いていた。


「お前達は……」

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