Chapter1-5
「お久しぶりです……断己さま」
「久しぶり断己の兄さん」
そこに居たのは顔や背丈までそっくりな二人組で断己のよく知る人物だった。懐かしさに思わず自然と笑みが出ていた。
「お前達だったのか……助かったぞ
「えっとスターダストナイト様、こちらは……」
「ああ、皆にも紹介しよう、私の幼少期からの友であり側近の高野拡と歩の兄弟だ」
二人は昨年まで断己と一緒にアメリカで戦っていた同士で、ERRORの次世代を担う者達だ。主に拡は現場でのサポートを、歩は基地内でのサポートを中心に動く断己にとっては右腕と左腕と言っても過言ではない人材だった。
「ではアメリカ支部の実戦部隊隊長と技術部顧問の高野兄弟とは二人のことだったのですか……」
「ええ、実は任務で去年から日本に戻ってましてね」
「断己の兄さんにはこっちで動くように言われてたんすよ」
「ふむ、さっそくで悪いのだが今日の戦闘で出て来た人間の情報が知りたい」
顔は割れているから情報はすぐ集まるだろうと思っているが、たぶん数時間はかかると思って二人と今後について話そうとしたら拡から意外な答えが返って来た。
「ステラ・ドゥーエ、変身前の名前が
「ちょっと待て」
あまりにも情報が早過ぎやしないかと特大の疑問符が断己の頭の中を駆け巡る。だが側近の双子は何食わぬ顔で逆に聞き返して来た。
「断己の兄さんどうしたんすか?」
「いやいや、何でもう素性分ってるの? 分かってるなら事前に教えてくれて良くない? そもそも敵が五人なんて聞いてないんだけどさ、どうしてくれんの? 俺の華々しい日本デビュー戦が台無しなんだが」
そして今更ながら自分がスターダストナイトの鎧を装着したままなのを思い出し慌てて脱いで着替えると改めて二人から事情を聞き出すことになった。
◆
「なんだって!?」
場所を移して話を聞かされた断己は愕然としていた。側近の高野兄弟から聞かされた事は敵が高校の教師だという話だが更に驚愕の事実が告げられたのだ。
「以上がステラ・ドゥーエこと八重樫洸の情報になります」
「ちなみに兄さんのクラスの担任だからね~」
「はぁっ!? 高校は任務に関係無いとこにしとけとあれほど……」
ちなみに断己は明後日から件の星守学園高等学校に入学することは聞いていたが敵が居ること、そして負ける寸前まで追い詰められた人間が担任になるなんて聞いていなかった。
「しかしチャンスです断己様」
「どういう意味だ? 日本語で説明しろ」
「あの学園には俺らも編入手続き断られて入れなかったんすよ」
何でも審査が厳しく二人は潜入すら出来なかったらしい。単純に年齢の問題も有りそうだが他にも別な工作員たちも教師や用務員など様々な方法で入り込もうとして失敗していると報告を受けた。
「それがどうした、要点を言え要点を」
「ですから無防備なステラ・ドゥーエ、いや八重樫洸に近付くことが出来るのです」
「いや正体分ってるなら帰り道とか学園前で襲えよアメリカでは要人をそうやって襲撃しただろ?」
「はい、断己様の作られた物質転送装置を使えば簡単かと思われたのですが……」
そこで報告を受けた断己は先ほどまでのやる気の無さから一気にテンションが上がっていた。
「あの学園の周囲には物質転送装置が使えない? 本当か!?」
「はい、妨害電波や装置の類では無いんですが解析では謎のエネルギーフィールドとしか判明してなくて」
「なるほど、奴らのまとう光が原因か!?」
「はい、なので件の八重樫洸にも狙撃を含めて全ての暗殺方法が効かず、中に入ろうにも我らは侵入すら出来ないのです」
そこで断己は考えたリスクは多い、学園に仮に侵入した場合は孤立無援で助けなど無いからだ。しかし拡の言う通りチャンスだ。他の四天王が大したことが無いのが今日の戦いで分かったが組織で一歩先んじて動く事が出来るからだ。
「何よりも……俺の目的に近付けるからな」
「はい、初代総帥の悲願……ですからね」
それだけ頷くと断己は二人に作戦を了承したと言って退室してもらった。自分に与えられたラボの一室で彼はあと二日で実行可能な作戦を三つ考えた。その上で動くことを決めると組織の用意した寝床へ向かった。
◆
四月も中頃のまだ夜が少し寒い中を早足で一人歩く、ERRORの用意した断己の寝床は本部から離れていて車で30分もかかるが地理の把握を目で見て感じたいと希望し電車を乗り継ぎ徒歩でここまで来た。
「それにしても分かりやすいなNASOTOグループの高級マンションか……」
寝床とは言ってもそこはERROR四天王の高級幹部、最高級の最上階の部屋が割り当てられた。
「まったく、一階の方が出撃しやすいのにな……」
ぶつくさ言いながら断己は高野兄弟に勧められた洋食屋に向かっていた。アメリカ暮らしの長かった断己は日本で作られる洋食が大好きだった。特にオムライスは思い出の味で久しぶりに食べたいと考えていた。
「ここが『洋食屋星守亭』か……今更ながら敵地での食事は少し緊張するな」
時刻は夜の22時過ぎ、かなり遅めの夕食になるが構わないとドアを開けるとカランカランと来客を告げるベルが鳴る。密かにいい雰囲気だと思ったが次の瞬間、断己は固まった。
「酒よ、
「いらっしゃいませ……あっ、すいません、お客さん実は今日はもう誰も来ないと思って常連さんにお酒出しちゃって……」
気の良さそうな店主がコック帽を取り会釈するが断己の緊張はほぐれるどころか怒りの方にベクトルが向いていた。
「そ、そうですか、では失礼して別な店に――――」
「あんら!! 親父さんの料理は美味しいんよ!! 食べていきなひゃい!!」
「いや、酔っ払いのあんたに言われたくなっ――――ええっ!?」
グダを撒いてる酔っ払いがビールジョッキ片手にこちらに振り返った瞬間、再び断己は固まった。その人物こそが今日、自分が辛酸をなめさせられた相手、八重樫洸だったからだ。
◆
「お客さん、すいませんね~見ない顔だけど新規さんかな?」
「あっ、その、本日、この街に引っ越して来たばかりで……」
「ああ~、それでですか……いやぁ、最初にうちを選んでくれるなんて嬉しいな~」
そう言って席に誘導してくれた店主に礼を言って席に着くが二つ離れたテーブルから叫ぶ女がうるさ過ぎて思わず顔をしかめる。
「そうれっ!! あ~た見る目有るわ!! アハハハハハハ!!」
「うるせえ酔っ払いは黙ってろ!!」
そしてついに断己の堪忍袋の緒が切れた。こんな相手に自分は負けたという敗北感と何よりディナーを邪魔された怒りから来る八つ当たりだ。
「ああん? アタシは先に来てた客よぉ、お客様よ神しゃまらのよ~」
「洸ちゃん抑えて~、そうだ、お客さんオーダーは? 急いで作りますよ、今は二人しかお客さんいないんで、ね?」
「そ、そうですね……こんな酔っ払いにムキになっていてもしょうがない、では……この『自家製のトマトソースたっぷりオムライス』を一つ」
「ありがとうございます、では少々お待ち下さい」
コック帽をかぶり直して再度お辞儀をした店主に頷いて断己は既に運ばれていたグラスの水を飲んで人心地ついた。
「あんら!! そこのあんたよ無視しゅんな~!!」
「はぁ……あのですね酔っ払いと話すことなんて有りませんから……」
「ちょっ~と、こっちへ来なひゃい!! せんせ~がぁ、しどーしてやる~」
フラフラ近付いてくるが隙が一切なく、鎧の無い今の自分では諦めるしかなかった。まだ断己の長い一日は終わっていなかったのだ。
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