Chapter1-2



「私の必殺技が防がれた……今のは一体」


「それが理解できていないのなら喋らない方がいいぞ、お嬢さん?」


 ニヤリと笑って黒い戦闘鎧を身にまとった断己たつきは左手を掲げて親指を下に向けてサムズアップとは真逆のサムズダウンのジェスチャーを相手に向ける。


「なっ!? あんた!!」


「いったい、何者なの!?」


 黄色と青の少女が叫ぶが断己はそれに応じるように恭しく一礼をした。まるで社交ダンスを踊る前の紳士のように優雅に一礼をした。


「お初にお目にかかる、星を守るなどと大層な名乗りをする愚かな少女たち……俺はコードネーム『スターダスト・ナイト二世』そこの裏切者に代わって本日から新たにERROR四天王に就任した者だ」


 そう、これこそが断己のもう一つの姿、ERROR四天王の新たな一人にして組織の隠し玉で切り札に等しい、コードネーム『スターダスト・ナイト』で、彼はその二代目を名乗っていた。


「お前が……」


「そういうわけだコングマンここは退け、Cクラス任務用の装備しか持たない今の貴様では勝てぬ相手だろう?」


 自慢の金の鎧をへこませたコングマンは「ぐぬぬ……」唸った後に撤退を告げた。これで指揮権は完全に断己に移った。


「では戦うとしようか?」


「ええ、望む所でっ――――」


 断己が手を掲げた瞬間リーダー格の少女ステラ・フィオーレが突然ふっ飛んで地面に転がっていた。


「がっ、うっ……な、何? 今の?」


「やはり凄いな……今の攻撃で傷一つ付かないか……もう一発だ!!」


 やはり断己が手を掲げると地面がえぐれ、また周囲を何かが次々と襲った。それに対応している少女達も凄いが既に不意打ちを受けたフィオーレは倒れたまま何度か吹き飛ばされていた。


「何なの!? 今の?」


「今はフィオーレを守るのよ!? きゃっ!?」


 どこから来るか分からない攻撃に少女達は翻弄されるが普通の人間なら今の一撃で致命傷どころか即死級の攻撃で耐えたこと自体が恐ろしい。


「通常兵器では今のが精一杯か……やはり謎の障壁が有るな……」


「三人共これは狙撃よ!! どこからか狙われてるの!!」


「さすがは裏切者『悪夢のストレーガ』、今のはロングレンジからの狙撃だ」


 断己の作戦は極めて単純で予め狙撃手を数名用意し狙撃の指示を出しただけだ。しかし狙撃に使った物は対物ライフルで普通の人間に使うものではない。


「そ、狙撃ってリコルド、私達、銃で狙われたの!?」


「ERRORの実働部隊にも色々と有るから……もしかしたらERRORの特殊な最新兵器かもしれない」


 リコルドが焦ってツインテールを振り乱すプロメッサに説明しているが落ち着かせる隙など与えないために断己は口を開いた。


「残念ながら今の狙撃は普通の現代兵器で各国の軍隊が使用するアンチマテリアルライフルだ」


「うっ、痛っ……アンチマテ……何ですかそれ?」


「銃の種類でしょうね、よく分からないけど」


 狙撃されて倒れていたフィオーレがアウローラに肩を支えられながら言うが断己はマスクの下で余裕な態度は崩さず唯一露出している口元に笑みを浮かべる。


「でも何発も撃てないようね? もう攻撃が止んだわ」


「待ってリコルド、さっき手を上げていたからあれで合図しているのよ!!」


「ほう、素晴らしい洞察力だお嬢さん、お名前を伺っても?」


「いいわ、私は青き星々のっ――――ぐぇ!?」


 とても美少女が出すとは思えない悲鳴を上げて吹き飛ばされるステラ・アウローラは別方向からの狙撃で吹き飛んだ。


「やはり意識をこちらに向けても自動で発生するバリアか……厄介な」


「あ、あなた!! 手を上げなかったのに何で!?」


「誰がいつ正解だと言った? 素晴らしいと言っただけさ」


 実際、狙撃と連動しているという意味では正しいが逆だ。断己が狙撃のタイミングに合わせて手を上げていただけだった。


「さて、そろそろ反撃して来てはどうかな?」




「きっと罠よ、アウローラみたいになっちゃう!!」


「そう……ですねプロメッサの言う通りですね、でも」


「でもフィオーレ、プロメッサ、このままじゃ……」


 青の少女のアウローラは謎のバリアごと吹き飛ばされて苦悶の表情を浮かべて立ち上がる事が出来ずにいた。どうやら衝撃は伝わっていると確信すると断己は次の行動に移る。


「来ないのなら次はこちらから行くぞ」


 それだけ言うと少女達に向かって歩み始めた。その度にメカニカルなガチャガチャした音が周囲に響く、まるでロボットのように重々しい足取りだった。


「動きが遅い……なら!!」


「待って、私も行きます!!」


 プロメッサとフィオーレが同時に動くが一人戸惑っていたリコルドは反応が遅れてしまった。


「では挨拶代わりにこれだ」


「えっ!?」


「きゃあ……って何とも無いじゃない!!」


 断己が両腕を上げ二人に赤い光のレーザーが照射された。一瞬驚いた二人だが赤い光は鎧の腕の部分から出ているだけで二人にはダメージは無かった。


「これは……ただ光を当てているだけ?」


「舐めないで!! ステラ・リボン、あいつを捕まえてっ!!」


 その場を動かない断己に対して自分の武器のリボンを使い攻撃したプロメッサだが、ここで予想外なことが起きた。


「最大速度はその程度か……あと5秒……」


 断己が呟いた瞬間、スターダストナイトの鎧が真価を発揮する。全身の鎧の隙間の関節部が銀色に輝き動きが変わった。先ほどまでの緩慢な動きとは違い一気に速度を増し背面のブースターも点火してプロメッサの光るリボンを簡単に回避した。


「嘘っ!? いきなり動きが!?」


「……3、2、1……ゼロ」


 その瞬間、赤い光のレーザー照射を止めると断己は機敏に後退する。まるで何かを避けるかのように鮮やかに後ろに跳んだ。


「え?」


「フィオーレ、プロメッサ気を付けっ――――」


 しかしリコルドの声が届く前に二人は爆撃の炎に包まれた。今度は遠方からの精密爆撃での一撃だった。


「「きゃあああああああああ」」


 煙が晴れると二人は爆心地の中心で肩で息をしていた。何とか防ぎ切ったようだが明らかに消耗して周囲は爆撃の後のような焼け野原になっていた。


「いきなり爆弾とか狙撃なんて……卑怯よ!!」


「何を言ってる? こちらは秘密結社だ現代兵器くらい使うさ……やれやれ」


 肩をすくめ余裕の態度を崩さない断己は次なる手段を講じようとするがそれに待ったをかけたのは倒れていたアウローラだった。


「でも、あなたの底は知れた!! 今までの敵とは違って現代兵器を使うだけのようね!!」


 しかし次の瞬間、またしても宙を舞ったのはアウローラだった。彼女はいつの間にか接近した断己の拳を腹に受け無様に倒れていた。


「げほっ……な、んで……?」


 そのまま今度はプロメッサも背後から蹴り飛ばされアウローラの側に転がされた。その二人は今の一撃で立ち上がるのすら困難なようだ。


「嘘でしょ……けほっ、ゴメンねフィオーレ、リコルド」


「プロメッサ!? アウローラも何が?」


「見えなかった……何が起きたの?」


 フィオーレもリコルドも驚いていたが単純な話で断己がスターダストナイトの鎧の出力を上げただけで簡単に言えば少し本気を見せただけだ。


「なんだ、この程度か……話にならない」


 二人のステラ・プエーレ、通称ステプレを楽々と制圧すると断己はさらに追い詰めるように宣戦布告した。


「愚かなステプレと星守町の住民共!! 今こそ恐怖しろ我が名はスターダストナイト二世!! お前達に恐怖をもたらす者だ!!」


 しかし彼は知らなかった。まさか自分の全盛期がもう少しで終わる事になるなんてこの時は思いもしていなかった。

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