Chapter1-1


 車のドアが開けられ出迎えに対し断巳は鷹揚に頷くと案内を急がせた。到着した本社のエントランスは一見すると平常通りだが微かに違和感が有るような気がした。


「何か有ったようだ……予定を変更してラボに直接向かう、後を頼むぞ」


「はっ? いや、ですが断己様!?」


 断己は慌てる案内役の相手を護衛に任せ近くのエレベーターに乗るとカードキーを挿入する。ガクンと大きく揺れたと同時に内部の電気が消えたかと思えば一気に落下するような速さで動き出した。


「緊急システムはロスのものと同じ……第三ラボは確か地下10階か」


 それから僅か数10秒後には目的地に着いたエレベーターは機械音と共に扉が開く。断己が早足で歩き出すと正面から数名の足音が聞こえた。


「だ、誰だ侵入者かっ!?」


「待つんだ緊急コードを使って入れるのはBクラス以上の研究員か、役員クラスだけだ、失礼だが君は一体……」


 数名の白衣の男と保安員と思しき者がやって来て取り囲まれても断己は毅然とした態度を崩さない。そしてカードキーを提示して口を開いた。


「今日からこの第三セクションの主となる者だが?」


「えっ、じゃ、じゃあ君が……いえ、あなた様が夜剱会長の?」


「ああ、上の様子が変だから直接出向いたのだが状況は?」


「も、申し訳有りません現在は第三ラボは臨時改装中でありまして……」


 それを聞いてため息を付くと同時に断己はニヤリと笑った。まるで今の報告を予見していたかのようだ。


「なるほど準備不足の件は後日、上に掛け合うとしよう……俺の勘では緊急事態と見たが違うのか?」


「はい……現在、各セクションは戦闘態勢に入っています」


「分かった、この指揮所は使えるか?」


 断己は確認しながら大型のコンソールパネルを叩き、次々とシステムを立ち上げていく。そして数分でシステムを起動させると振り返って研究員たちに配置に着くように言った。


「す、凄い……四天王や幹部が単独で使えない指揮所を簡単に……」


「それは他の幹部が無能なだけで比べるのが間違いだ、今どき戦闘だけしていればいいだなんて時代錯誤も甚だしい……さて」


 断己がキッパリと言い放つと同時に正面の巨大ディスプレイが起動し目的のものが映し出された。そこには金ぴかの鎧を装着したERROR四天王の一人がいた。


「出ているのはマネー・コングマンか……しかし出撃の予定など聞いてないが?」


「そ、それが……第一ラボの友人から聞いたのですがコングマン様が独断で……」


「はぁ……会長、いや総統はご存知で?」


「い、いえ……あくまでCクラスの威力偵察任務という名目なので主任権限の範囲内で動いたそうです」


 それだけ聞くと断己は深いため息を付いた。別に歓迎会を期待していたわけでも無いが自分の就任の日に騒ぎを起こされては敵わない。しかし同時に目の前の画面に目を奪われたのも事実だ。


「これが噂のステプレ、星を守りし乙女たちか……しかし随分と、それに装備も装飾が多くて機能的じゃないな」


「はぁ、同意なのですが……彼女らの装備は科学では説明出来ない全くの別系統のもので……主任、何を?」


 画面の中では白と赤を基調としたフリルの突いたミニスカートに体のラインがはっきりと出るレオタードに近いドレス衣装の少女が下級構成員をなぎ倒していた。


「なに、日本に来るまでにレディ達のデータは一切の非公開とされたから……ご挨拶しなくてはいけないだろ?」


 再び画面を見ると別な髪の長い少女が青と白を基調としたドレスを翻しながら青いバリアを展開しているが断己はお構いなしに出撃の準備を始めていた。


「でっ、ですが主任!!」


「違うな主任代理……これからは俺をこう呼ぶがいい『スターダスト・ナイト二世』とな、一番近い出撃ゲートは!?」


「えっと、コングマン様が使われた南ゲートの空きがもう一つ」


 研究員の言葉に頷くと断己は「行けるな……」と呟くと出撃すると言って部屋に隣接している出撃ゲートに向かう、宿願の第一歩を叶えるために……。




 ERROR四天王の一人、コードネーム『マネー・コングマン』は徐々に悪化する戦況に焦りを覚えていた。


「くっ、こいつらに手を焼いてるわけには行かないぞ、しっかり働け!!」


「承知之助!!」「承知之助!!」


 コングマンは焦っていた。部下は次々と倒され自分も敵に押されているのもあるのだが、それ以上に彼をイラつかせるのは四人の少女の中で紫と黒の戦闘衣を着た少女の存在だった。


「おのれ、おのれ!! ストレーガ、なぜ裏切ったああああ!!」


「……コングマン、私は皆に教えてもらっただけ、人々を守る尊さと希望の輝きの強さを!! だから負けない!!」


「裏切者が偉そうに!!」


 しかしコングマンの拳は全てかわされ、あるいは防がれて完全に抑えられてしまった。さらにそこに別な少女の援護が入った。


「リコルド大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よフィオーレ、私はもう迷わない!!」


 白と赤の少女がリコルドと呼ばれた紫の少女を援護するように白の魔法のステッキのような装備から強い光を放出した。まるで魔法のように……。


「ぐっ、ステラ・フィオーレか!!」


「そうです、今日は町の皆がお祭りを楽しんでいたのに、許せません!!」


 そして何度かの攻防の後に周囲を見ると下級構成員は全て倒され残るは自分一人だけとなってしまった。


「こんな、こんなはずでは……」


「チャンスよフィオーレ、今日は特殊な構成員や変な破壊メカも居ないわ!!」


 残りの二人も合流し四人がコングマンの前に並び立つ。その内の一人の青い衣装に腰まで伸ばした髪が特徴的な少女がフィオーレと呼ばれた白と赤の衣装の少女の横に並びながら言う。


「ええ、分かったわアウローラ、一気に……プロメッサも行けますね?」


「もっちろん!! いつでも行けるよカ~ノちゃん!!」


 最後にフィオーレに後ろから抱き着くように並んだ少女は他の少女たちと色違いの黄色と黒の衣装で髪はツインテールでまとめられていた。


「もうプロメッサ、名前呼びはダメだって先生が……」


「二人とも私語はその辺で、決めましょう」


「そうですねアウローラ、それにリコルドも!!」


 四人の少女はコンビネーション攻撃でコングマンを翻弄すると反撃の隙を与えず四方に散ってそれぞれの武器を構えた。


「皆、輝きを集めて……ステラ・ステッキ!!」


 白と赤の戦士フィオーレが叫ぶとステッキ状の武器が輝き出す。さらに他の三人も自分の武器を取り出している。プロメッサは新体操のリボンのような武器を、アウローラは青い弓矢、そしてリコルドは紫カラーのライフルで、それぞれが光り出す。


「「「「星々の輝きを今ここに!!」」」」


「ぐっ、しまった!!」


 コングマンが体勢を整えた時には既に少女達の輝きは最高潮に達し光に溢れていた。そして中央の白と赤の少女フィオーレが叫んだ。


「ステラ・セプテントリオーネス・イグニス!!」


 ステッキから放たれた七つの炎がコングマンに迫る。そして星々に祝福された煌びやかな光と爆発が起きたと同時に少女と町の住人の歓声が響いた。


「やりました、この攻撃ならコングマンも……え?」


 しかし爆煙が晴れそこにいたのは黒い全身スーツのような機械の鎧を纏った謎の人物だった。その後ろを見ると負傷したコングマンがいて庇うように立つその黒衣の鎧を着た男は静かに口を開いた。


「やれやれ……楽しみにしていたのにこの程度か星を守りし乙女たちよ」

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