みんなが笑い終わると、ワゴットがヨゼフに言いました。

「おい。若いの。お前さんも何かやってみせないか。」

 ヨゼフはとまどいながら言いました。

「いいでしょう。皆さんがやったんだ。僕もやってみせますよ。でも、困ったな。僕は若者というだけで、これといった特徴がない。ただの若者なんだから。」


 騎士のピピンが助け舟を出します。

「なに、困ることはない。君は君のまま、ありのままをやればいいんだ。」

 ピエロのジベールも言いました。

「そうさ。誰だって最初はそうなんだ。みんなただの若者なんだ。それから、何かになっていくんだから、最初の姿を恥じることなんてない。」


 それを聞いてヨゼフの顔が明るくなりました。そして自分に言い聞かせるように言いました。

「そうだね。僕は何かしなければいけないっていうだけで、緊張してしまった。でも、何かしなければいけないって、無理に作る必要はないんだ。僕は僕のままでいれば、それが一番なんだ。」


 それから、ゆっくりと月の中に進み出ました。両手を広げてゆっくりとした調子で歌い出しました。


  僕はまだ何も知らない

  ほんとうの喜びも悲しみも

  だって僕はまだ本当の世界を知らない

  ただの若者なんだ

  だけど誰だって

  はじめは僕と同じ

  恋の喜びも別れの悲しみも

  何も知らない


 ヨゼフが歌い終わると、一呼吸おいてみんなの拍手がヨゼフを包みました。

「俺だって知らないさ。本当の世界なんか。」

 ピエロのジベールが言いました。

「教えてやれよ。アンナ。恋の喜びも悲しみも。」

 ワゴットさんの野次が、突然アンナに向かいました。それでアンナは真っ赤になって、前に進み出てきました。そしてみんなが静かになると、綺麗な声で歌い出しました。


  恋をしたらそれは

  どんなに素晴らしいことでしょう

  春は自分のための春になり

  夏はあの人のための夏になる

  でも秋はかわいそう

  だって誰のためのものでもない

  そして冬が来たならば

  すべてが雪に閉ざされる


「なんだか悲しい歌だね。」

 ジベールが小声で言いました。

「しっ、静かに。」

 ピピンが叱りました。

 ヨゼフはといえば、アンナの歌に聞き惚れています。

「まだ二番がある。」

 ワゴットがつぶやきました。


  恋をしたらそれは

  どんなに切ないことでしょう

  春はどこかへ迷い出て

  夏は心を焼かれそう

  でも秋は安心

  だってどこへも行かれない

  そして冬がきたならば

  二人で家にこもります


「誰が作った歌なんだい?」

 ジベールが訊ねると、ワゴットが突然みんなに警告しました。

「しっ、作者が来るぞ。」


 扉の開く音がして、誰かがこちらに近づいてきました。フランクおじいさんです。

 人形たちは慌てて元いた場所へと駆け戻りました。そして命を失ったように、最初にあったとおりにそこに転がったのです。

 月明かりの射す部屋は、途端に静かになりました。

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