二
夜になって、フランクおじいさんが床についてしまうと、人形たちが起き出しました。
「おい、ピピン。今日の立ち回りは、少し打ち合わせと違ったぞ。」
おひげの紳士のワゴットです。今日は話のわからない町長の役をやっていました。
「いや、すまんすまん。ちょっと手元が狂ってしまったんだよ。」
騎士のピピンは申し訳なさそうに頭をかきました。
「あら、こんなところに糸くずが出ているわ。」
アンナがピピンの袖を取って、心配そうに言いました。
「ああ、このくらい大丈夫さ。」
「だめよ。私たち、代わりはいないんだから、ちゃんと直しておかないと。ひどくなったら大変だわ。」
アンナが袖を直し始めると、ピピンは申し訳なさそうにしていました。
「まったく、ピピンは演技が荒っぽいんだよ。」
ピエロのジベールが言いました。
「仕方がないじゃないか。僕は騎士なんだから。いつもおどけているだけの君とは、役の激しさが違うんだよ。」
むきになって怒っているピピンに、ジベールは言いました。
「おいおい。君はピエロの仕事の大変さを知らないようだね。」
ジベールはそう言うと、部屋の真ん中の月明かりの中に飛び出しました。今はお化粧も落として、普通の顔をしています。本当はまじめな顔の若者なのでした。
ジベールは歌いました。
僕はみんなの笑い者
僕が転ぶとみんなが笑う
僕がしくじりゃみんなが喜ぶ
でもそんな時は僕も嬉しいのさ
だって僕は世界に笑いの種をふりまいた
それは誰にだってできることじゃない
楽しげな拍手が、それを見ていた人形たちからわき起こりました。
「いいぞ、ジベール。もう一回やってくれ。」
そう叫んだのはおひげの紳士のワゴットです。
「いや、今度は僕が。」
そう言って飛び出したのは、アンナに袖を直してもらったばかりの騎士のピピンでした。アンナが心配そうに見守っています。ピピンはジベールが引っ込んだあとの、月明かりの中に躍り出ました。手には剣を握っています。そして激しく舞い始めました。
この剣を振るは何のため
この世に災い無くすため
いざや勇め者ども
我は気高き騎士なるぞ
我が振るうは王国の
支えとならんつるぎなり
過ち正すつるぎなり
ピピンが剣を振ると風の音がびゅんびゅんとうなりました。本当はなまくらのにせものなのに、その剣は月の光の中できらきら光って、本物の王国の剣のようでした。
人形たちは大喜びです。
「次は私の番かな?」
おひげの紳士のワゴットがステッキを片手に出てきました。手に抱えたシルクハットがくるくる回って頭にすっぽりとはまりました。自慢のおひげをぴんと引っ張って離すと、くるくると上手にカールしました。ワゴットは太くよく通る声で歌いました。
紳士は嘘はつきませぬ
なぜなら紳士であればこそ
紳士は泣きごと言いませぬ
なぜなら紳士であるがゆえ
嘘と泣き言はとんまの仕事
とんまはとんまの仕事せよ
紳士は紳士で忙しい
「なんだか変な歌ですね。ワゴットさん。」
それまで黙っていたヨゼフが思わず言いました。
「なんだ、若造。文句があるのか?」
ワゴットはヨゼフとは、いつも恋敵の役ばかりやらされる関係なので、つい劇の中のセリフのように声を荒げてしまったのです。
「ほらほら、紳士は怒ったりしないんじゃなかったの?」
見かねたアンナが横から言いました。
「それは、そうだな。うむ。」
ワゴットが言うと、みんな大笑いしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます