02.神の間

02.神の間

 っ―――!眩しい光に目がくらんだ。そこは辺り一面真っ白な場所だった。

 あれ、俺、あの雨の中でベランダから滑って……うわぁ、俺そういえばクソダサい死に方してたな。ってか俺マジで死んだのか?

 そんなことを思っていると、ベランダから落ちたときに見た(ような気がする)老人が目の前に現れた。そして口をおもむろに開いた。

「堺 竜斗くん、君は………」

「君は………何ですか?っていうか何で俺の名前知ってるんですか!」

「だってわし、神だもん!」

 老人がニコニコ顔で親指を立てている。うーん、本当なのかめちゃくちゃ怪しい。俺が困惑していると老人は

「しかしまぁ、君はとてつもない苦労をしてきたんじゃのう………」

と話し始めた。

「はぁ、まぁ、そうですね。でも地獄のような場所から解放されて、結果良かった的な感じですかね。って、あなたは一体誰なんですか?なんか、俺が落ちたときにそばにいた気がするんですけど、やっぱり、俺死んだんですよね?」

「まぁ、そうじゃな。ちなみにさっきも言ったが、わしは俗に言う“神”じゃ!神といっても色々いて、儂は “転生神” じゃがな。堺くん、君は神様を信じるかね?」

 やっぱり本物だったんだ……大丈夫か、神様……

「昔は信じてましたよ、それなりには。でも、いくら祈っても親には地獄を味わわせられるし、不運の象徴だなんてあだ名もつくし………もう、途中で信じるのをやめましたよ」

「それは申し訳ないことをしてしまったのう。そうじゃ堺くん!君は『異世界』に興味はあるかい?」

「ありますっ!行かせてください!」

 俺は目を輝かせながら言った。俺は漫画やラノベみたいに行ってみたいと何回も思っていたのだ。

 俺がなぜ漫画やラノベにこんなに興味があるのかというと、話せば長くなる。


 知っての通り俺の親はクズ親だ。当然そういう系統の本など読ませてくれるはずがない。俺は小さい頃から医学書や様々な論文などを本の代わりとして読まされていた。

 しかし、去年のことだ。俺の友達のバッグからたまたま一冊の本が落ちたのだ。返そうとしたが、彼は急いでいるみたいであっという間に遠くに行ってしまった。なので後で返そうと思ったが、彼がどんな本を読んでいるのか気になり、少しその本を開いてみた。その本は俺が今まで読んできた『本』の概念をぶち壊した。こんな楽しい世界があるのか、と俺はどっぷりラノベにハマった。

 面白くてついつい全部読んでしまった俺は本を返すときに読んでしまったことを正直に話して謝った。絶対に怒られるだろうなと思いつつ頭を上げると、どうだった?とその本を読んだ感想を聞かれた。そこで俺は初めての体験を熱く語った。すると、彼は怒るどころか笑いながら、一緒にその本の面白さについて話してくれた。

 それからというもの俺は彼から学校にいる間だけラノベを借りた。そして完璧に異世界系にハマってしまったのである………


「じゃが、わしは一言も行かせてあげる、とは言っとらんぞ?フォッフォッフォッ!」

と神様(?)が笑った。俺は少し顔を赤くして、

「期待させといて酷いじゃないですか!」

と抗議した。神様はまた笑うのかと思いきや、今度は結構真面目な顔をして言った。

「普通なら、君のいた世界から向こうの世界に行くときには、知っての通り何かしらスキルが付くんじゃ。じゃがのう………」

 神様は言葉を濁した。俺はまさかなと、最悪の事態を想定した。

「ど、どうしたんですか?」


「言いにくいんじゃが………君にはスキルが今の所一個もつかないんじゃぁぁー!」


「え…何もないんですか?」

 俺は神様の言葉に自分の耳を疑った。

「残念だけど堺くんには、これといったスキルが何もつかないんじゃ。儂じゃって、つけてあげたい気持ちは山ほどあるんじゃがのう」

 俺は神様にまで見捨てられたのか…そう絶望したとき、

「おっ、一つだけつけられたぞ!」

と神様が叫んだ。

 俺の心に一筋の光が差した気がした。

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