第5話 陶子、髪型を変える宣言
陶子とは気が付けばそれなりに長い年月を共に過ごしている。
どれぐらいかと言えば.....そうだな。
小学校6年生の時にアイツが.....髪をゆるふわウェーブして可愛らしくしていたが.....心が荒んでいたあの頃から。
俺は教室でハブられていたそんな陶子に堪らず声を掛けたのだ。
何だか一人ぼっちというのが許せなくてもあるが、だ。
『お前さ。そうやってずっと何時迄も一人ぼっちで居るのか?』
その様に、だ。
まあ当時はそれ相応に睨まれたり逃げられたり。
だけどその日をきっかけに声を掛けられた陶子は徐々に俺に心を開き始めた。
しかし何かその.....うん.....思春期に入ってから.....冷たくなっちゃった?的な感じにはなったが。
でもずっと俺に対してツン気味ながらも優しいのだ。
ずっと優しい女の子である。
そんな感じで懐かしく考えながらミーシャと洗濯物を畳みながらずっと楽しそうに会話している陶子を見る。
ミーシャは本当に楽しそうに会話してはいたが。
陶子だけは何か警戒感を見せていた。
警戒感ってのは.....要はライバルの様な感じ。
ミーシャに対して、だ。
何でそんな顔をしているのか全く分からんが.....。
☆
「陶子。今日は有難うな」
「.....何が?洗濯物畳んでからがめ煮持ってきただけじゃない」
「.....それでもお前は来てくれただろ。それで十分だ。.....俺は久々にお前とそれなりに会話出来て良かった。.....有難うな」
「.....何それ。意味分からない」
玄関付近で言いながらそっぽを見る陶子。
そして俺をチラチラ見てくる。
髪の毛を触りながら、だ。
赤くなりつつ.....見る。
髪の毛をずっと触っている。
「.....私ね。.....髪型を変えようと思うの」
「.....え?.....それは何故だ?」
「.....小学生の時は短髪だったよね。.....私」
「.....それはまあそうだな。.....それで.....何故?」
「.....い、良いから!.....カールするから。.....ゆるふわウェーブにする」
「.....!?」
いきなりの宣言。
何故.....回帰に戻っていくのだ?
思いながら俺は目を丸くしつつ.....見ていると。
真顔のままミーシャが一歩を踏み出した。
それからこう話す。
「.....今日は有難う御座いました。陶子さん」
「良いのよ。.....私はやりたい事をしただけだから」
「.....可愛い陶子さんの髪型。.....楽しみにしています」
「.....なっ。.....そんな楽しみにされても」
「.....私は.....銀髪でしかもサラサラしているから.....そういうの似合わないので.....です。.....だから楽しみにしています」
陶子は赤面しながらも頷いた。
それから俺をチラッと見てくる。
貴方も楽しみ?、と言いながら、だ。
原点回帰。
俺は、まあ可愛いお前になるんだったら何でも良いよ、とだけ答えた。
すると陶子は、やった、と言いながら笑顔を浮かべた。
満面の笑顔。
だけど直ぐにハッとして顔を崩した。
何時もの陶子に戻る。
「.....も、もう。馬鹿なんじゃないの。可愛いお前とか!」
「いや.....お前相当に喜んでいたよな?今.....」
「とにかく。私は.....喜んでないから」
「.....そんな無茶苦茶な」
俺は額に手を添える。
そして陶子は、じゃ。じゃあ!、と踵を返した。
それから直ぐに去って行った。
恥ずかしそうな感じで、だが嬉しそうな感じで。
俺は首を傾げる。
「.....何だってんだ?アイツは」
「.....ふふ。仲がよろしいのですね。本当にお二人は」
「.....え?.....いや。俺はすこぶる悪いよ?アイツと仲良い様に見える?思春期だから.....」
「.....私.....女性目線ですけど.....お兄様。彼女はきっとお兄様の事を嫌ってないです。ただ単に.....どうしたら良いのか分かってないみたいな感じです」
「.....?」
ふふ、と笑みを浮かべながら.....ミーシャは意味深な事ばかり話す。
答えを聞くが、駄目ですよ。親友の事なので、と答えを教えてくれなかった。
俺は溜息混じりにミーシャを見る。
それから俺達は家の中に戻った。
☆
「お兄様。アニメ文化とは.....何処までをアニメ文化というのでしょうか。.....ライトノベル、アニソン、アニメなどなど」
「.....そうだね.....うーん.....分からないけどアニメに関するものは全部アニメ文化じゃないかな」
「.....そうなのですね。.....深いです.....」
そんな会話をしながら。
俺達はドカタ親父の夕食と。
ミーシャの母親の夕食を作って欲しいと頼まれたので作っていた。
驚いたのが.....ミーシャは洋食では無く和食しか作れないという。
生粋の日本人だと思える感じだな、って思う。
「.....私ですね。.....和食が好きです」
「.....そうだね。.....君はやっぱり生粋の日本人だと思う。そして生粋のアメリカ人だと思うよ。ここまで.....出来るから」
「.....!.....お兄様.....」
「.....アニメも好いてくれるし和食も好いてくれる。でも聞いた限りでは洋食もアメリカ文化も好き。.....それはもう十分.....君はどちらも大切にしているよね。.....こんなに頑張るのって何かきっかけがあるの?」
「.....えっと.....言い辛いですが.....亡くなったお父さんが和食がとても好きだったんです。.....だから和食が好きなんです。お母さんの影響でアメリカの文化も好きなんです。でも.....何方かと言えば私は和食派です」
「.....!.....そうなんだ。.....それはすまない.....」
はい。でもお兄様がそうやって仰ってくれるから私は.....笑顔になれます。
と言いながら人参を切ったり色々な野菜を切っていく。
俺はその姿に、そうなのか、と言いつつ手伝う。
因みに俺だが俺も料理は得意だ。
ドカタ親父のせいとか。
亡くなってしまった母親の.....お陰で身に付いたのだ。
今度.....この話を全部しようかな。
俺の母親の話も.....。
ミーシャが父親の話をしてくれたから、だ。
きっとミーシャなら.....大丈夫だ。
そう感じる。
そんな感じで思っていると。
ミーシャが突然、赤面しながら顔を上げた。
それから俺を見てくる。
こうしてお兄様に出会えたのも運命ですね、と言いながら。
「.....ミーシャ.....そういう事を言われると、は、恥ずかしいんだけど.....」
「え?.....あ。.....ふ、深い意味はありませんよ.....!?」
「.....」
真っ赤になって目を回すミーシャ。
しかし何だろうな。
女性に耐性無いのにこうしてみんなは俺に優しくしてくれる。
それは.....幸せな事なのであろう。
思いながら俺はミーシャと一緒に味噌汁やら何やらを作っていく。
今が一番.....幸せだ。
そう思いながら、だ。
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