第19話



「マジすみませんでした……姐さんのテリトリーだとは露知らず」


「いい加減頭上げな……お前にプライドは無いの?」


「プライドを捨てる理由になった姐さんがそれ言います?」


 月下の廃教会の中。私は目の前で土下座をし口調も穏やかになったクライを呆れたように見ていた。辻風のクライ……風魔法や剣で相手をズタズタにする魔法剣士。ちょいイケオジを目指した容姿で漢気のある口調のロールプレイヤーなんだけど……それがこの様とは。


(それにしてもプライドを捨てさせた理由が私って……)


「別に私何もしてないよね?せいぜい50回ぐらいボコボコにしたぐらいでしょ?」


「姐さん。常人はそれされたらプライドを捨てるもんなんですぜ。そもそも姐さんの戦い方はトラウマになるやつ多いですから」


 それは流石に言い過ぎじゃない?トラウマって言うけどただ陰から状態異常のボルトを大量に撃ち込み続けるだけだし。


「人を磔にしてから大鉈で真っ二つにしたり、100人で死ぬまでリンチしたり、都市ごと爆発なんてしてないでしょ?」


「比較対象の時点でヤバいことに気付いてください。その3つ全員裏のプレイヤーですら近づきたがらない人たちじゃないですか…………(姐さんも同類だけども)」


「なんか言った?」


「いえ、何も」


 私はどことなく歯切れの悪いクライを訝しむように見る。クライはそっと目を横に逸らして合わせないようにする……まぁ、良いや。


「本題に戻すけどここにはなんで来たの?」


「来た理由は普通に調査ですね。実は俺裏ギルドのギルマスやってるんですよね……」


「裏ギルド……あのハゲがギルマスじゃないんだ」


 裏ギルドは表に出せない非合法な仕事を請け負う組合。仕事の殆どが貴族や大商人のため非合法に関わらず存在し王族から依頼が来ることもある裏の一大勢力。やり過ぎたら潰されるけどトカゲの尻尾のように大元は残るしぶとい組織だね。ゲームの時は小太りのハゲがギルマスやってたんだよね……


「ハゲって……あの人はもう消されてると思いますよ。多分俺が色々手柄立てて焦ったのか無茶苦茶なことをしてましたから。モンスターの違法売買とかの重罪を」


「あー、そういえば裏ギルド関係のバックストーリーなんだっけ?」


 クライのバックストーリーは確か元裏ギルドの職員。事務よりも戦闘に惹かれてギルドを辞めて辻斬りになった……そんな感じのやつだったはず。


「転生したんだなって理解したのが裏ギルドに所属する前だったんですよね。なのでスキル取得して一応所属したんですけど……能力が認められてどんどん出世しました」


 そして出世し続けた結果あのハゲに目を付けられてしまったらしい。裏ギルドの職員は本部の監査で上昇するため所詮支店長のギルドマスターは降格させたりクビにすることができない。最初は地味な嫌がらせをしていたらしいんだけど……スキルで大抵どうにでもなるので逆に有能さを示させる燃料になっていたんだとか。


「そうしたらあの人強行策に出ましてね……ギルドの金でモンスターを集めて俺にぶつけてきたんですよ。まぁ、全部潰してハゲは横領とかでクビ。本部のヤバい雰囲気のやつが連れていって消息不明です」


「ふーん……中々にハードな人生歩んで来たんだね」


 とはいえここに来た理由は全くもってさっぱり。そこを早く説明して。


「そしてここに来た理由としては……姐さん。ここでダブルヘッドパンサーと戦いましたよね?」


「戦ったね。倒して今は素材だけど……まさか」


「そいつ元ギルマスが集めていたモンスターの1体です。どうやら輸送中に逃げ出したって元ギルマスの手帳にありました」


 あいつ違法商人から逃げ出してたのか……なんでこの山に居たのかやっと判明した。というか。


「あれクラスのやつ複数に襲われたのによく生きてたね。お前モンスター相手そんなに得意じゃないのに」


「あー、俺が戦った奴ら全部ダブルヘッドパンサーより格下のやつでしたよ。どうやらダブルヘッドパンサーに金の大半を注ぎ込んで余った金で更に複数買ってたようで……ゴブリンやマッドラビットでしたし」


「弱……そいつらダブルヘッドパンサーの餌だったんじゃないの?」


 そう思えるほど強さの格差が酷い……どれだけダブルヘッドパンサーに期待してたんだ。


「まぁ、そういうことがあって元ギルマスは失脚。俺が新しくギルマスになって立て直してる時にこの村のことを知って調査しに来たんですよ。部下を3人先に送って」


「あー、あの3人ね」


 あいつら裏ギルドのやつだったのか。それなら納得……


「ところであいつに盛った毒って死ぬやつじゃないですよね?」


「ただの麻痺毒。さほど危険じゃないよ……ちょっと全身の筋肉を弛緩させるからあれだけど」


「あー、ゲームならともかくリアルだとヤバいですね」


 一応男と女の距離離してあるけども……まぁ、無断で入ってきたんだから知ーらない。


「とりあえずそっちが来た理由はわかった。ならもうここに用事は無いよね」


「ですね。とりあえずここのことは裏ギルドで立ち入り禁止ってことにしておきます。好奇心の強い馬鹿や未熟者が来る可能性はありますが、その時は自由に潰してしまって構いません」


「実験台にさせてもらうよ……」


 盗賊よりも裏ギルドのやつの方が実験台として良さそうだからね……たっぷり使い潰そう。


「あと姐さん。良かったら裏ギルドに所属してくれませんか?」


「裏ギルドに?私まだ子どもなんだけど?」

 

 そもそもほぼ山に篭ってるからあんまり町に行かないし……所属しても意味があんまり無い。


「所属といっても一般の構成員じゃなくて特殊構成員の方です。普段はこちらに居てもらって良いですし仕事を請けてほしい時はこちらからも連絡します。連絡手段はまた後日ということで」


「特殊構成員ね……」


 確かギルマス直属って扱いだったかな?それなら町に行かなくても問題無さそう……


「分かった。所属してあげる……敵にならなければね」


「そこは絶対に保証します!(というか敵対したら絶対に死ぬ)」


 クライはビシ!!と背筋を伸ばして返事をした。なんか気を張ってない?威圧してないんだけども……


「とはいえ今の私はゲームの時より弱い。そこを把握して仕事を振ってよね」


「わかっています。そもそも俺に勝った姐さんが苦戦する仕事そんなに無いと思いますけどね。クローティア地味に田舎ですし」


 確かに王都とかのデカい都市なら難しい仕事ありそうだけども……まぁ、私は今世緩く生きたいから緩い仕事をくれたまえよ。

 その後、クライは部下3人を連れて帰っていった。解除した罠?直させるの忘れてたから徹夜で全部設置し直したよ……とりあえず昼まで寝るのは確定した。


「……なんか戦闘中よりも疲れた」


 私は生気の無い顔で拠点に帰った。



「ピィーピィーピィー!」


「んん……煩さ」


 罠を直しまくった翌日。私が拠点の床の上で寝ていると鳥の鳴き声のような甲高い音が何度もした。徹夜明けだからまだ寝ていたいのに勘弁してよ……


「ピィ……ピィー!」


「痛った!?」


 私が微睡み再び夢の中に落ちそうになった瞬間、こめかみの部分をドス!と思いっきりド突かれた。私は一気に覚醒し飛び起きる。


「ピィー!」


「こいつがこめかみをド突いたやつか……」


 私は床にいる犯人……いや犯鳥を見る。そこにいたのは茶色の部分が濃い群青色のスズメ。確かナイトスパロウってモンスターだね。人に懐きやすく夜間でも飛行可能。影に物を入れる能力があるから伝達用のモンスターとしてよく使われている。あとモコモコしてて普通に可愛い。


「ピィ!」


 ナイトスパロウが鳴くと影が伸びて手紙が滲み出るように出家する。手紙はクライからのものだった。


「あいつどうやってここを……あー、そういえばあいつに髪の毛1本渡してたね」


 ナイトスパローは魔力を感知して目的地に向かう。髪の毛から私の魔力を覚えさせて送ってきたのね……ちゃんと処理したかあいつに聞いとかないと。


「手紙の内容は……はは、所属してすぐに仕事か。人使いが荒くない?」


 私は手紙を読み終えてそう呟いた。クライからの手紙はとある奴隷商人の抹殺……暗殺の仕事だった。



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