第18話



「おらぁぁ!!」


「ちっ!……この脳筋が……」


 私は豪快に襲いかかってくる男に悪態をついた。遮蔽物にしようとした瓦礫がスパッと綺麗に真っ二つに……剣が良い物というよりは使い手の技量か。


(《逃走》《縮地》で動きが速くなってるのに引き離せない……身体能力系スキルを複数高ランクで覚えてそうだね)


 だから正面戦闘は嫌なんだよ……こういう脳筋が1番嫌だから。私は男から距離を取りつつ【ブラインド】や【コンフュージョン】を付与したボルトを放つ。


「らぁ!」


 男は放たれるボルトを剣で弾いて落としていく。【ノイズ】による雑音攻撃を仕掛けてみるけど、この男耳元でエグい音が大きく響いてるはずなのに怯みすらしない。


(《聴覚保護》か……随分とマイナーなスキルを)


 大きな音などから耳を守るスキルだけど取ったところで恩恵が微妙で不人気なスキル。【ノイズ】にとって1番嫌な対抗スキルだからマジで辛い。聴覚を奪えないとなると【ブラインド】で視界を奪いたいけども……多分視覚保護も持ってるだろうね。《視覚保護》とセットなイメージあるから。


「ふん!」


 男は一気に踏み込むとこちらに肉薄し剣を勢いよく振り下ろす。《跳躍》と《縮地》を使い間一髪で避けたが地面には深い溝が刻まれていた。


「これも避けるか……中々に強いな。お前」


 男はどこか喜んでいるような声を出すとニヤ……と笑った。うわぁ……こいつマジの戦闘狂だ。戦闘狂はゲームの時に色々面倒だったからトラウマが。


「【コンフュージョン】」


 射撃も【ノイズ】もダメだったので私はポーチの中から毒薬の入れ物を取り出し【コンフュージョン】を付与して投げた。浴びれば毒と混乱で苦しむ……実力者相手だと混乱がどの程度効くか不安だけど隙はできるはず。


「【エアバースト】!」


 私の毒薬攻撃に対し男は強風で毒液を吹き飛ばした。風の魔法か……【エアバースト】は威力は控えめだけどノックバック効果がかなり高い。相手を崩す時に使ったり矢を吹き飛ばすのによく使われる魔法だね。


(クロスボウと相性悪……というか脳筋なのに魔法使うんだ)


 職業が魔法剣士なのかな……普通の剣士は魔法なんてあんまり使わないし。魔法剣士は器用貧乏になりやすいんで使いこなせる人が少ないんだけど……魔法には気をつけないと。


「【ウィンドカッター】!」


「思ってる側から……」


 私は自分に向かって飛んでくる風の刃を避ける。【ウィンドカッター】は真空刃を飛ばして攻撃する魔法。真空刃の大きさが2メートル程だったからⅣは最低でもあるか。


(それにしても風魔法は本当に厄介……視認性悪)


 風魔法の特徴は見えにくく速いこと。それ故に対人戦闘を主流にやるプレイヤーに人気がある……とはいえ風切り音が発動するのと金属鎧に対して効果が薄いデメリットもあるけど。


「おら!おら!おらぁぁ!!」


 男は豪快に【ウィンドカッター】を乱発する。狙いが甘いとはいえ中々に面倒……数は多いからね。私は風切り音と剣の軌道を頼りに【ウィンドカッター】を回避していった。


「まぁ……あの男の種族は人間。MPそんなにないでしょ」


 人間は全てにおいて平均的な種族でエルフや魔人と比べてMPの量はそこまで多くない。あれだけ連発すればその内使えなくなる……MPの回復手段が無い限りはね。


(とりあえず布石を打っておこう……結構賭けになるやり方だけど)


 私は男の魔法を避けつつ【コンフュージョン】や【コロージョン】を付与した薬を投げていった。ほぼ……というか全部撃ち落とされたり回避されていくけれど、私は持ってる薬を使い切る勢いで投げていった。そうやってしばらく耐えていると男が魔法を使おうとしても全く出なくなった。


「チッ!もうガス欠か……」


 男は腰のポーチから青い液体の入った小瓶を取り出した。やっぱり持ってるか……MP回復薬。あれ材料が手に入りにくいし作るのも難しい薬で高いんだよね……少なくともスラムだと買えない。師匠なら作れるだろうけど……あの人マジで毒薬しか教えてくれないからね。


「シッ!」


 私は素早くクロスボウを構えて早撃ちで薬を撃ち落とした。男は今まで逃げに徹してた私が攻撃をしてくると思っていなかったのか不意を突く射撃に対応できなかった。そもそも興奮してて思考がフワフワしてたみたいだしね。


(瓶は割れなかったか……飲み薬の瓶は結構硬い素材で作ってあることの方が多いからね)


 私の薬は相手に付着させればいいものが多いんで硬すぎない瓶にしてるんだけど。まぁ、割れなかったとしても布石は打ってあるし問題無いか。


「あっ!テメェ何しやがる!!」


 男は苛立った言葉を吐きつつ手から弾き落とされた薬を拾おうとする。しかし薬をまた私がクロスボウで撃って大きく弾き飛ばした。ついでに顔目掛けて毒薬をぶん投げる。


「クソが!!」


 男は大きくジャンプして毒薬を回避した。そしてMP回復薬を拾おうと動くが私のクロスボウで弾いて邪魔していく。


「この!!」


 男は拾うのを諦めて剣で攻撃してこようとしたけれど。その場合私は距離を詰められないようにし【コロージョン】を付与したボルトで攻撃する。剣の防げば剣がダメになるんで相手も対処し辛いはず。


(やっと対人戦のエンジンがかかってきた……)


 今までのは格下を搦め手で痛ぶるだけの作業だったからね。この感覚……ゲームの時以来。


ピン!ゴシャ!!


「なぁ!?」


 私が男の動きをコントロールしていると仕掛けてあった罠に男がかかった。建物の瓦礫が崩れ男に落ちていく。男は剣を振り瓦礫を砕いていくがそこに私のボルトが撃ち込まれる。


「あぁ、もう……面倒臭え!!」


 男はボルトを剣で弾きながら吐き捨てた。仕方ないから剣で弾いたって感情が込められてたね……さっきのボルトに付与した【コロージョン】はかなり注ぎ込んだからかなり剣が消耗したはず。これ以上剣を酷使すれば折れる可能性があるし……となれば魔法が使いたくなるよね。


「おらぁ!!」


「おっと」


 男は瓦礫の破片を掴むと私に向けて投げてくる。そしてMP回復薬のところに駆け出した。やっぱり陽動か……


(また弾いてしまえば問題無し)


 私はクロスボウを素早く向けてボルトを放った。しかし男はそれに対して剣をボルトの射線状に投擲しボルトを防いだ。剣は横からの攻撃でパキンと折れていく……武器を犠牲に薬を取ったか。


「よっしゃぁぁ!」


 男は瓶を拾うと一気に飲み込んだ。クロスボウの装填は微妙に間に合わなかった……というかボルトはもう無い。


「これで終わりだ!」


 男は私に向けて手を向けた。そして魔法を発動させようとして……地面に膝をついた。


「なっ……!?」


 男は驚いたような声を出す。立ち上がろうとしているが力が入らず立てないようだった。そりゃそうだよね……だってさっき飲んだの麻痺毒薬だし。正直膝立ちしてる方がびっくりなんだよね……


「残念。こっちが本物のMP回復薬だよ」


「それが本物だと……紫色じゃねぇか」


 私は近くに落ちていた瓶を拾って見せたが男は怪訝な顔をしていた。それに対して私はパチン!と指を鳴らした。すると男はハッと息を飲んだ。


「……なるほど混乱状態か」


「正解」


 種は剣で弾いたボルト。あれには【コロージョン】と一緒に弱めの【コンフュージョン】も付与してあった。混乱にも色々種類があって……幻視、幻聴の類も混乱にも含まれている。その中で私は色がおかしく混乱を使った。青を紫に紫を青にするね。


「これが朝なら空の色で分かっただろうけど……今は夜。残念だったね」


「はぁ……参った。降参だ」


 男はそういうとゆっくりと両腕を上げた。潔いね……ブラフかもしれないからクロスボウは構えておこう。


「にしても状態異常にクロスボウ……まるで黒の姐さんだな。【コンフュージョン】の使い方といいあの人らしさを感じたよ」


「ん?」


 クロスボウを構えジリジリと近づいていた私は男の言葉を聞いて動きを止めた。黒の姐さん……まさか!


「お前に1つ聞く。王都で1番料理が不味い店は?」


「なんだ薮から棒に……不味い店なら酔い潰し亭だと思うが」


 私はその答えを聞くとクロスボウを下ろし盛大に溜め息を吐いた。マジか……


「まさかあんたもこの世界に転生してたのね……辻風のクライ」


「なっ!?何故その名を……」


 男は思いっきり狼狽えた。そしてその反応で確定した。この男はゲームの時の知り合い……剣と風魔法で辻斬りをしまくり、私に何度もボコボコに叩きのめされた戦闘狂のクライだということに。


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