第17話



「全部解除してある……設置し直すのにどれだけ時間かかると思ってるの……」


 侵入者を追いかけながら解除された罠の数が増えていくにつれて私の機嫌はどんどん悪くなっていった。全部設置し直したら1日潰れそうなんですけど……解除した奴ボコボコにして泣かしてやる。

 

(っと、人の気配……これ村の中に入ってるな)


 人数もそこそこいる……どこかの組織か?裏組織だと拠点探しの可能性もあるね。


(何者か知らないけど……とりあえず無力化しよう)


 殺すのは一先ず待機。殺したら不味い奴だと面倒だからね……後処理が。今の私は特にね。私は《隠密》などをフルで発動しボルトに麻痺の毒薬を塗って村に入った侵入者たちははどうやら村の中心辺りにいるみたいだね。


「リーダー。村内に戦闘の痕はいくつもありましたが……どれも人との戦闘による痕跡。しかもつい最近ばかりですね」


「モンスターのやつはいくつかありましたが少なくとも1年程前のもの……人とのやつはここ最近のものがありましたが」


「やはり誰かここに居るのか……もっと詳しく調査するぞ」


 侵入者は長身の男。小柄な女。2人の中間でリーダーと呼ばれている女の3人で、なんか調査しているようだった。拠点探しって感じでは無いけど……黒ずくめの男女3人は怪しさ満点だから制圧しよう。


「【ノイズ】」


 私は3人の近くの瓦礫の陰に足音を出した。


「なんだ。今の音……」


「リーダー。私が確認してきます」


 3人の中から長身の男が離れ【ノイズ】を鳴らした方に近づいていく。私はそれを見つつ残った2人の背後を取っていた。


「【カース】」


 私はボルトに【カース】を付与して静かに女リーダーに向けて放った。狙いは右肩……利き腕から奪わせてもらおう。


「……ハッ!リーダー危ない!!」


 ボルトは音を殺し女リーダーに飛んでいっていたが、当たる直前で小柄な女が女リーダーを突き飛ばした。ボルトは突き飛ばした女の右肩に刺さった。


「シェイル!?」


 女リーダーは驚きつつも倒れた女を引きずりながら遮蔽物の陰に隠れた。この判断力……やっぱり先に狙って正解だった。攻撃自体は失敗だったけど。


「リーダー!無事ですか!」


「私は平気だ。だがシェイルが麻痺になっている。回復しようにも上手くいかん……回復阻害効果付きの攻撃か」


「となると【カース】ですか……クロスボウのボルトに付与ということはⅢ以上。厄介な敵がいるようですね」


「麻痺も結構ヤバい……耐性Ⅳあるのに動けません」


 私は瓦礫に潜みながら侵入者たちを観察する。【カース】に気づいたってことはそれなりに経験がある相手か。【カース】って割とマイナーで使う人あんまりいない魔法だしね。私が使うの全部マイナーだけども……


「1人は終わったけど残り2人は硬そうだな……ちょっと揺さぶるか」


 私は【ノイズ】であっちこっちから音を鳴らした。長身の男と女リーダーは背中合わせになって攻撃に備えていた。


「今度は【ノイズ】ですか……さっきの音もこれの可能性がありますね」


「麻痺に【カース】に【ノイズ】……やり方が狡賢いな。どんどん神経が擦り減る」


 揺さぶりをかなりかけているが2人に隙は中々生まれない。思っていたよりも冷静だね……仲間が1人倒れてるのに冷静さを失わないのはプロ。


「じゃあ作戦変更。【ノイズ】」


 私は揺さぶりをやめて今度は直接的……女リーダーの耳元で耳が痛くなるような雑音を放った。


「ぐぁぁぁ!!」


「リーダー!?」


 突然耳を押さえ蹲った女リーダーに男の意識が集中した。その隙を逃さず私は男の太ももへクロスボウを向けボルトを放った。これで2人。


「しまっ……た……」


「カイル……!」


 2人目の部下がやられた女リーダーは左耳を押さえながら立ち上がった。へー、まだ諦めないんだ……面白い。じゃあその闘志折ってあげる。


「【ブラインド】……【ノイズ】」


 私は【ノイズ】で再び撹乱をする。そして女リーダーの死角からクロスボウを放つ。今回のボルトは麻痺効果は無しで撃つ場所はダメージが小さい部位……久しぶりに長く遊んであげる。


「くっ……視界が」


 付与された【ブラインド】の効果で女リーダーの視界は悪くなった。夜に視界をじわじわと奪われるのは恐怖でしょ。


「【カース】。【コンフュージョン】」


 私は立ち止まることなく女リーダーの周りを移動。治療を遅くするための【カース】と感覚を惑わせる【コンフュージョン】を撃ち込む。


「ハァ……ハァ……」


 女リーダーは【ノイズ】で耳。【ブラインド】で目の感覚をどんどん制限されら【カース】で傷の治療もままならず【コンフュージョン】でどんどん混乱していった。息も荒くなって治療をするのか攻撃に警戒するのか分からなくなっている……


(じわじわと相手の手を潰していく……この感覚やっぱり楽しい)


 本当はもっと沢山状態異常を与えることができるのに……こればっかりは転生したてだから仕方ないね。


「と、これ以上は精神ぶっ壊れそうだからやめよう」


 精神が壊れたら尋問できなくなるので私は遊びをやめた。そして麻痺毒のボルトを撃ち込んで動きを止めた。


「これで侵入者全員行動不能……第1ステップ完了」


 このあとは面倒な尋問タイム。とりあえず罠壊したやつから吐かせよう。憂さ晴らしにね。


「ぐ……ぐぅぅぅ……!」


 私は動けなくなった女リーダーの元に向かう。軽めの付与を撃ち込み続けてたからかもう正気に戻りそう……回復早いならもう少し遊べたかな?


「き、貴様が……」


 女リーダーは私を見て悔しそうな顔をする。私は紐を取り出し腕と足を拘束した。口に布を噛ませて自害防止したいけど……麻痺が効いてるうちはできないしやらなくていいや。口の中に毒物も仕込まれてないしね。まぁ、毒飲まれても治療できるんだけど。


ズリズリズリ……


 私は拘束した女リーダーを部下の所まで引き摺っていく。部下の2人も紐で拘束して転がしておく……あっ、最初に倒れたやつはそろそろ毒の効果が切れる可能性が高いんで追加を飲まそう。


「さてと……一応話を聞き取れるぐらいの毒だから目的を吐いてもらおうかな。何しにここに来たのか」


「き、貴様なんぞに話すことなど無い……」


 女リーダーは気丈に拒んだ。まぁ、素直に吐くわけないよね……


「《尋問》持ってないんだけど……まぁ、《コンフュージョン》かけて壊して治してを繰り返せば吐くか」


 私は短剣を手に取った。そして【コンフュージョン】をかけて振り下ろそうとした……その時私の首筋にチリッ!と嫌な予感がし後ろに大きくジャンプした。


ズガ!


 私が居たところを剣が勢いよく突き刺さった。剣が飛んできた方を向くと壊れた建物の上にガッシリとした男が立っていた。顔の上半分を隠すように仮面をつけているから口元しかわからないね……てかいつ現れた?気配を全く感じなかった。


「今のを避けるか……どうりでライラたちが拘束されるわけだ」


「ボス!!」


 女リーダーは男を見ると表情が明るくなった。男は1回のジャンプで女リーダーのところまで移動した。


「ふむふむ……麻痺だけか。なら放って置いても問題無いな。俺治療苦手だし」


 男は剣を引き抜くと私に向けた。私は短剣を戻してクロスボウに持ち替えていた。この男……隙が無い。


「お前がこの廃村にきた盗賊を消し去ってる奴か?」


「…………そうだと言ったら?」


 私はクロスボウを構え男から目を離さなかった。男は私の言葉を聞くと獰猛な笑みを浮かべる。


「別に……なら面白そうってだけだ。そうじゃなくてもお前と戦うだけだ!」


 男はビュン!と剣を振ると私に向けた。この男と戦うのか……嫌だね。絶対強いし。


(とはいえ逃げるのは無し……逃げても無駄だろうし)


 逃げて拠点がバレる方が面倒だ。実力者なら振り切ったとしても痕跡で追跡される……こうなると殺すしかないか。


(何処の組織なのか……情報を知りたかったけどね)


 なお勝率は結構悪い……だって正面からの戦闘とか1番苦手なパターンだし。それでもやれること頑張ってやろう。


「手早く終わらせよう……」


「はっ!やれるもんならやってみな!!」


 こうして私と男の戦いの火蓋が切って落とされた。



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