第16話
「ガンテツいるー?屑鉄持ってきたよー」
「おう!アンか。そこに置いておいてくれ」
翌日大量の武器を持って私はガンテツのところに来ていた。さん付け?そんなのこの1年でどっか行ったよ。ガンテツがさん付けやめろって言ってきたからね。
「相変わらず大量だな……何人来たんだ?」
「20人ぐらい……まぁ、前の盗賊たちのもあるから武器の数はそれより多いけど」
ゴキ◯リ駆除感覚で潰してるからもう何人駆除したのか分からないんだよね。
「とりあえず全部で7000Gだな。いつもと同じでいいか?」
「いつも通りの装備代で貯めて置いて」
この店での屑鉄代は全部装備代にしている。一々大金がを持ち運ぶの面倒だからね……地味に重いし。
「あれもそろそろ素材が届くから作成に取り掛かれる……完成するのは時間がかかるけどな」
「ダブルヘッドパンサーの素材面倒だったね……毛の処理とか地獄」
革にするの私も手伝ったけど時間のかかる苦行だった。あいつ生きてない時の皮の方が硬いとか本当におかしい……
「ああ、それと。こっちは先にできたから渡しとくぞ」
私はガンテツから白いお面を受け取った。仮面は紫の紋様が刻まれ、目のところには青い結晶が嵌められている。
「完成するの早いね……この前言ったばかりなのに」
「まぁ、割と簡単な方だからな。特に効果も無いんで素材も安いしな」
この仮面はそこそこの力を入れないと外れない効果と装着時に息がしにくくならない効果がある。目的としては素顔を隠すため。暗殺者が素顔バレとか配信者の顔バレよりもヤバいし……いやあっちの方が衝撃度としてはデカイか。
「サイズの自動調整は付けられなかったから合わなくなったら言え。新しいのを作ってやる」
「了解」
私はカポっと顔に装着しながら返事をした。思いっきり顔を振っても外れない……これならなんとかなるかな。
「そういえば薬屋のクソババアが全然来ないって文句言ってたぞ。すりこぎを手に持って」
「マジかぁ……この後向かう予定だったけど怖くなってきた」
「死ぬことはねぇと思うが……まぁ、頑張れ」
私はガンテツの声援を背に店を後にした。そして重い足を動かして師匠のいる薬屋に向かった。師匠の薬屋は大通りに近いところにあるんだけど……人が不思議と居ないんだよね。浮浪者や孤児ですら近づかない。まぁ、猛獣のいる場所に近づく命知らずは居ないってことなんだけどさ。
ギィィィ……
「師匠。お久しぶりで……わっ」
ドアを開けて挨拶しながら中に入ると、奥からビュン!という音ともに何かが飛んでくる。避けると飛んできたものは近くの壁に突き刺さっていた。刺さっていたのは薬草を切る用のハサミだった。なんか紫色の液体が付着してるんだけど……
(匂いからして結構ヤバめの毒だね。掠ってたらしばらく寝込んでたかも)
《無心》で表情にほぼ出ないとはいえ私は結構ヒヤ……としていた。
「……ふん。どうやら鈍っていないようだね」
私がハサミを柱から抜いていると奥からハサミを投げてきた張本人……私の師匠が出てきた。師匠の見た目は金髪の美女で名前はとんでもなく長くて発音もしにくいから私は師匠としか呼んでいない。ガンテツに関してはクソババア呼ばわりだし。
「師匠……しばらく来てなかったからってこんなもの投げないでください。危ないです」
「お前さんなら避けられるだろう?それにあの
師匠は盛大に舌打ちをした。師匠とガンテツは互いの呼び方から分かるだろうけど仲が結構悪い。理由としては色々あるんだろうけど……1番は師匠がエルフだからかな。
エルフとドワーフは水と油。犬と猿って感じで仲があんまり良くない。戦争とか殺し合いとかをする程ではないんだけど……ドワーフはエルフのことをモヤシ。エルフはドワーフのことをジャガイモって悪く言う。
(正直面倒臭い……)
ガンテツは酒が入るとエルフへの愚痴が出るし、師匠は私への指導の合間にドワーフへの悪口が出る。エルフとドワーフへ挑発するとき役に立つぐらいには悪口が溜まってる。
「何いつまでそこに突っ立てんだい。さっさと来な」
「了解です」
私は少し顰めっ面な師匠の後をついて行った。師匠の後についていくとごちゃごちゃの調薬室に辿り着く……うわぁ。
「師匠……たった1週間程度で散らかり過ぎでは?」
「……ふん」
私が師匠に質問すると師匠はそっぽを向いた。師匠もといエルフは長命種族の中でも結構ルーズというか適当というか……調薬技術は右に出る種族は居ないんだけどそれ以外はダメダメなんだよね。
(片付けないと指導してもらえないし……毎度面倒なんだよね)
しかもこの片付け。毎回危険な薬が混ざってるから慎重にやらないといけない。冷静さを鍛える訓練として効果が高いからなんとも言えないけど……片付けに命をかけたくない。
「とりあえず片付けるんで……師匠は風呂に入るなりしててください」
私は早速仮面を装着して片付けを始めた。まさか最初の使用が掃除のマスク代わりとは……思いもよらなかった。
「あっ、そういや揮発性の高い毒薬作ったが、どこにあるか分からんから気をつけな。お前でも割とキツい毒だから」
「毎回言ってますけど、危険物を仕込まないでください……」
えぇ……どの瓶がその薬?色似てるやつばっかりなんだけど。私は爆弾処理のような気持ちで片付けを始めた。
◇
「腕は鈍ってないようだね……鈍ってたらこのすりこぎが唸ってたんだが」
「やめてください。しかもそのすりこぎ黒樫より硬い鋼杉のやつですよね?それで殴られたら頭蓋骨割れるんですけど……」
師匠の黒いジョークにツッコミを入れつつも私は薬を作っていく。今回も習っているのは毒薬……さっき仕込まれていた揮発性のやつ。
「揮発性を高めるにはカエル系の油が1番楽だ。最高なのはフロッグドラゴンの油が良いんだが……安く済ませるならオイルフロッグだな」
オイルフロッグ……そいつこの辺に居ませんよね?もっと南に行かないと居ないやつを例えに出されても……まぁ、オイルフロッグの油って蝋燭やランプの燃料に使われる素材だから流通はしてるけど。
「そういえばお前さんそろそろ仕事はしないのかい?そろそろ成人だろ?」
「アテは無いですね……まぁ、フリーの暗殺者ですかね?」
この世界では15歳で成人になる。成人すれば何かしら事情がない限り自分の職業に応じた仕事に就いている。暗殺者はその辺がね……後ろ暗いイメージあるし。
「フリーなんて元々顧客のいる奴じゃなきゃ大成しないだろ……まぁ、ダメだったら私の助手として雇ってやるよ」
(……助手ではなく家政婦の間違いでは?)
私はそんなことを思い浮かべつつも手を止めずに薬を作り続ける。そしてある程度作ったところで今回は終わりになり山に帰ることにした。
「次はもっと早く来るんだよ。さもないと……これが唸るよ」
帰り際、すりこぎを持った師匠に念押しされながら私は少し暗くなりかけているスラムを出た。山に入る頃には日はほぼ沈み拠点に帰る頃には真っ暗確定だった。
「今日の夕飯は手抜きかな……」
干し肉と適当な薬草入れた鍋。美味いかどうかはさておき手っ取り早いしなぁ……栄養もあるし。
「アングリーボアの香辛料入れるかな……ん?」
私は走るのをやめて足を止め視線を近くの木の側に向けた。トラップが解除されてる……
(力任せの破壊じゃなくて解除ってことは人間……そして盗賊にしては痕跡が全然無い)
そもそも盗賊の場合も大抵は解除より破壊だろうし……これかなり腕の立つ奴が入ってきているね。
「行った先は村の方か……面倒だけど確認しに行くか」
幸い武器の類は準備万端にしていつも持ち歩いているしね。私は僅かな痕跡を頼りに侵入者を追った。
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